第3話 細かい事は良いんだよ(ニッコリ



「コラ、起きなさい」


「んぐっ!?えっ!?何よ!」


 ドンコスの森の中、テキトーな木に抱き付く様にしてセットした眠れる森のフード姫を、鞘を付けた短剣で叩き起こした。

 頭を押さえて涙目で僕を睨んで来る彼女に、残念な子を見る目で告げる。


「君、いきなり森で居眠りブッこくとは良い度胸してるね。魔物が来てたらどーするのさ」


 そして冤罪を吹っ掛ける。イヤらしそうな目つきで悪かったなコノヤロー。このチャーミングな細目の何が悪いというのだ。

 ……いやチャーミングはちょっと変だな。まぁいいや。


「は?居眠り?……えっ、私眠って……えっ?」


 寝起きでボーッとしているのか、声も口調も完全に女の子モードでキョロキョロと辺りを見回す。


 こりゃ女の子だね、間違いないよ。

 フードや外套がいとうをめくって確認してないから確かとは言わないけど。この年でオネェだとしたら……それはそれで面白いな。


 魔物を倒して回っていたし、そもそも木々が不幸な事故で薙ぎ倒された場所に戻っても説明する手間なんて僕が掛けたいと思うハズもなく。


 そんな訳で、今居る場所はフードちゃんの記憶に無い場所だろうけど……でも押し通す。


「疲れてるのか何だか知らないけど……せめて野営の準備してからとか、一言言ってからじゃないと。今後パーティー組んだりする時、大変だぜ多分。

 ……まぁ長くなってもアレだし、それはさておき」


 冤罪を吹っ掛けたまま次の話に移行する。誤魔化し倒す。僕の作戦は完璧だ。


「君の言い分は分かった。

 要は僕が魔物をサクッと倒すカッチョいい姿を見たい……そういう事だね?」


「……いえ、そんな奇天烈な事は言ってないわ……言ってないわい」


 ようやく設定を思い出したらしく、フードちゃんは少し低い声に戻った。語尾は相変わらず変だけど。

 ひょっとして僕を笑わせようとしているのだろうか。


「取り敢えず今日の目標は、君の力で魔物を倒す事。外で活動するに当たって、魔物と戦えないというのはマズい。自信も付けて貰いたいんだ」


 僕は槍の先にある革の穂鞘ほさやを取り外した。


 別に使わなくても魔物を倒せるけど、居住可能区域外に居るのに槍を使用可能な状態で待機させていなかったのは……今更ながら、うっかりしていた。まぁよくやる事だけど。


 今思えばフードちゃんも「棒持ってるだけのクセに何言ってんだコイツ」と思っていたから、暴言を浴びせて来たのかもしれない。


 不安にさせてしまっただろうか。メンゴメンゴ、これ槍なんスよー。


 刃先を取り出した事で、何を思ったのかフードちゃんは半歩後ろに下がった。

 別に君をケチョンケチョンにしたくて取り出した訳じゃないんだけど。一体僕を何だと思ってるんだ……やれやれだぜ。


「魔物をサクッと倒して見せよう。じゃあ改めて、ついて来て」


 フードちゃんに背を向け、槍の穂先を上に向けてから歩き出した。


 こちらの方向にゴブリンという昔の僕のライバルモンスターが2体居る事を確認済みである。フードちゃんも少し距離を取りつつ、僕の後ろを歩く。


 しばらくく足を進めてから、フードちゃんに「こっからは口閉じて、足音殺してね」と語ってもう少し歩く。彼女は少し足音が立ってしまうけど、まぁこれくらいなら大丈夫だろう。

 僕はホントは鉄製の鎧を装備しているワケでガチャガチャ言ってるんだけど、隠蔽スキルで無音化。


 そして僕は、ちょうど良さげな木の右手前で一旦止まる。フードちゃんは木の前に立たせた。


「顔だけ出してね。……ほら、見える?あれ、ゴブリン」


「……っ!」


 フードちゃんが息を飲む。

 彼女が木の横から顔を出して覗いた先には、小柄なフードちゃんよりも更に少し小柄で、何故か確定で腹が少し出ていて体色が緑の、人型の魔物が二匹。

 顔は特に醜悪な感じでもなく、つぶらな黒目で口から牙が飛び出ている以外は特に怖がる要素は無い。見た目だけなら。


 場所にもよるけど、この辺のゴブリンは石製の斧や槍、もしくは投擲とうてき用途の石を何個か入れた袋を持ち歩く場合が殆どだ。

 要はビンボーな雑魚だ、ロクな武器も持てない悲しい存在。石の斧とかドロップしても何も嬉しくない。控えめに言って死ね。


 どうやらゴブリン語のコミュニケーションを取ってるらしく、向き合ってゴブゴブしていた。

 木陰に潜むフードちゃんはともかく僕は特に隠れて無いので、普通に目線がこちらに向けば発見されるのだが……どうも一向にバレる気配は無い。呑気なやつめ。


「では、ご覧あそばせ。倒してみせましょう」


 僕は槍の穂先をゴブリンに向けて構える。格好が付く以上の意味はない。


 距離がまだ離れている事もあり、そして大して耳が良い訳でもない。おまけに話し込んでいる為、宣誓せんせいまでしたのに結局こちらに気付く事はなかった。

 残念なゴブリンだ。さよならゴブリン。


「解放」


 僕の魔力腺を開口する合図を小さく呟く。

 別に言わなくても使おうと思えば魔法は使えるけど、言った方が楽だしステキだから僕は言う。特に戦闘するって時は。


土塊つちくれ、圧縮、三角コーン。回転、射出。「ダンガンロック」」


 小声のテキトーな詠唱で成立した魔法。その辺の地面から頂戴した土塊を、工事現場とかによく置かれていた赤色三角コーンサイズに固めて回し撃つ。


 途中の草を薙ぎ倒しながら、そのまま斜線上にいたゴブリンが腹から上下に裂けて吹っ飛んだ。少し先で効果範囲を過ぎた土塊がバラバラと崩れ落ちる。


 そんな様子を見ていた、弾けたゴブリンの相方ゴブリンは尻餅をついて呆然としていた。

 ついでにフードちゃんも「ダンガンロック」を飛ばした時から尻餅をついて呆然としていた。


土塊つちくれ、抜けろ埋めろ。「トリコムアース」」


 ボケーッとしていたゴブリンの足元に空間が発生する。

 アワアワしながら落下してすぐに、浮上していた土が降り固まった。


 首から下の身動きが取れずにギャーギャー騒ぎ始めたので、仕方なく魔法を続ける。「オクチニアース」で口内に土をドバドバと侵入させて、「ツチノマスク」で土製マスクを作成し頭の下半分をガッチリ覆っておいた。僕の仕事は完璧だ。


 フードちゃんは身を起こし木から顔を覗かせて、地面から顔を生やしてブンブン首を振ってる変なゴブリンを発見した様子。

「へっ?」と間抜けた声が洩れる。


 ……ナイスなリアクションだ。そんな可愛い反応するとは思ってなかったから、ちょっとギャップ萌えっていうのが、こう……いいね。

 先刻の暴言を許してもいい気分だ。ハッハッハ!


 再び静寂を取り戻した森で、明るくフードちゃんに話しかけた。


「さぁ、君の魔法で倒そう!」

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