第2話 是が非でもツッコまない
冒険者。ちょっと危険を伴う事もあるフリーターの事だ。
この町––––ドンコスという変な名前だ––––を覆う高い壁の中でのお仕事は兎も角、壁を抜けて採取や狩猟を行うとなれば……魔物との戦いに備えなくてはならない。裸で歩いたら自殺志願の変態だ。
「武器、持ってる?それとも魔法使いだったりするのかな?」
僕は歩きながら、フード君––––連れ出した新人君の事を
僕のポケットマネーを使うなんて展開は勘弁してくれやがりませ、なんて事を思いながら。結構溜まってるけど、ご当地グルメ用の費用だからねコレ。
「……武器として持って来た訳じゃないけど、ナイフはある。魔法が、使える」
声変わりしてるんだかしてないんだか、微妙な感じの言葉が聞こえた。
なんなら一生懸命男っぽい感じを繕った女の子の声の様にも聞こえる。別にどっちでも良いけど。
「そっか。防具は着込んでる?革製の鎧とか、服でもいいけど」
「……そんなの無いわ……無いわい」
……何だか苦しい修正を図った様に思える。ツッコミは入れまい。
「つまり、その外套の下は普通の服。武器のつもりは無いけどナイフはある。魔法は使える。……なるほど」
死にたいのかな?
「……魔法をバリバリ使いこなして、魔物を何度も倒してきた経験があるという事か」
「魔物なんて倒した事ないわ……無いわい」
……もしかするとツッコミが欲しいのかもしれない。そして死にたいらしい。
「……なるほど。つまり身体能力に自信があって、例えば狼相手でも楽勝で逃げ切れるという事だね?」
「……魔法でどうにかする」
僕はポケットマネーを溶かす事にした。
この無謀なフード君……いや、フードちゃんを魔物の餌にしてpgrする趣味は無いから、まぁ仕方無いね。おぉ、このフードの仔羊に神の御加護のあらん事を……。
革製の服やらブーツやら帽子やら革装備一式購入した。小柄な彼女に合うサイズが普通にあったようなので一安心だ。
「わた、……僕の?」
「そうだよ」
僕は複数所持していたズタ袋に購入品をポイポイ入れて、フードちゃんに渡そうとした。しかしフードちゃんは少し困ったような様子を見せて受け取ろうとしない。
「……払えない」
払えないも何も、僕が既に払ったんだけど……あぁ、僕にお金を返済しようとしてるのか。
僕は呆れてため息をついた。
「僕は君の自殺に付け合うつもりはないんだ」
「!?」
「プレゼント。死にたくないなら全部どっかで装備しなさい。その状態で壁外に出るのは……自分をドラゴンだと思い込んで崖をフライアウェイするも同然だ」
高慢ちきな様子も無いから、お金持ちのお嬢様のエンジョイ……という事も無いだろう(偏見)。
そんな年頃の、多分女の子……が、まともな装備も無く冒険者になるなんて抜かしているのだ。どんな事情か知らないけど、金なんてあろうハズも無い。多分。
ブレイブボアというアホな猪の魔物、その革で作られた一式は決して安くは無いけど……まぁ良いんだ。コレも故あって僕の為でもある。
えーと、他には……。
この世界において強さとは大体魔物を
ゲームでいう経験値的なモノで、それは魔物の活力だか生命力だか何かそんな感じのアレを倒した奴等が吸収してウェーイしてく。
正確には身体能力が向上し、内包する魔力というのも増える。
しかしレベル的な分かりやすい指標も無いし、魔物を倒したから「「ホニャララ」を習得した!」という事も普通は起こらない。世知辛い世の中である。
というワケでフードちゃんの今後の為に、ズタ袋やら回復薬やら諸々必要そうなアイテムを持たせてフードちゃんが諸々装備し終わった所で壁外へ出る。
袋から鉄兜を取り出して装着し、バイザーを下ろした。ドンコスの町から20メートルくらい空けた辺りに広がる森––––通称「ドンコスの森」––––へと入る。
魔物を一緒に倒してあげる事で、彼女がソロなり他のパーティなりで活動するのに支障が無いように底上げしておきたい。主に僕の目的や精神衛生的な理由で。
そう言えば名前とか聞いてないな……まぁ別に良いか。
「じゃあ、取り敢えず魔法撃ってみようか。この木を魔物と思って、さぁパーリナィ」
僕はたまにノリでテキトーなワードを使う。パーリナィが良く分からなかったのか少し首を傾げたフードちゃんは、少ししてから今度は横に振った。
「わた……僕は、魔物を相手する時の為に取っておきたい。そんなに魔法、撃てないから」
魔物を倒した事無いらしいから、大して器も大きくないというのは当然の事だ。魔物やら何やら倒す事で人としての器が大きくなり、魔法を使う為の魔力もより多く溜められる。
まぁ筋トレならぬ魔力トレとして限界まで魔法使いまくってブッ倒れて……を繰り返せば、身体が「増やさなきゃ(使命感)」となって少しずつ増えたりもするんだけど。
ゲーム脳でも無きゃ毎日ブッ倒れるなんて変態行動を取ろうハズも無い。僕は変態だった。
「……そういえば、魔物と遭遇したらどうするつもりだったの?」
「目潰しして逃げるくらいは出来るわ……出来るわい」
戦うつもりも無かったワケだ。そりゃ防具要らないやって思うわな。
今はフードやコートの下に多分革装備一式を装備してくれている……と思う。着替えまで見てないけど。多分女の子だし。
「ダイジョビダイジョビ。僕は……こう見えて、中々優秀でね。この辺の魔物相手に遅れを取る事は無いんだ」
胸甲をゴィンッと叩いて胸を張った。手甲も胸甲も鉄製なので微妙に音がデカい。ちょっと失敗だ。
安心させようと試みた行動だけど、何故かフードちゃんは胡散臭いモノを見る目で見てくる。少しして、口を開いた。
「……何かイヤらしそうな目してたし、戦ってる様子も見た事無いし。不安」
僕はフードちゃんに催眠魔法を掛けて眠らせた後、その辺の木を殴り倒し回った。
バキバキバキズダーンッ!と倒れまくる木々を見届けた後、深呼吸してクールダウンした。
「…………よし、僕は怒ってない。怒ってないぞ。ふぃー、ふぉー、よーしよし。僕はそう、クールガイさ。子供の
ついでにフードちゃんを
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