異世界で自堕落に過ごす事を許して神様––––チート持ってるけどバレたくない所存––––

ユルく夜

第1話 なんで僕にそれを……?



「レクさん、教導依頼を受注された事無いですよね?

 よろしければ今回、受けてみませんか?今日、新人さんが入ったんです!

 えーと……ほら、冒険者って助け合いの精神を育むのも大事っていうか、ソロで活動ばかりされてると何となく見てて不安っていうか……大丈夫ですか、レクさん?ちゃんと人生過ごせてますか?」


 亜麻色のボブカットヘアー、あどけなさの残る顔立ちにスタイルが悪くもなく陽気な性格……である点は好ましいけど、言わんでいい事もついでに付け加えてしまう冒険者ギルドの受付嬢。メリットとデメリットがせめぎ合う。


 彼女––––リンスさんという––––が僕を心配してくれているのか、僕に怯えているのか分からない。


 僕は女心の機微に自信が無いぜ。無いけど、どーも怯えてる寄りの顔をしている気がする。なんでや。


 キョードー依頼ってなんだ。共同?教導?新人冒険者を助ける。……教導かな。


 辺りを見渡した。真昼間の冒険者ギルドは閑散としており、教導依頼––––つまり新人冒険者を手取り足取りムフフラウェイするお仕事と思われる––––を回せそうな暇人は、僕以外に……お?1人だけ居るように見える。


 フードを被り外套を纏っていて、尚且つ小柄な背を向けているせいでどんな人かサッパリ分からないけど。今のところ何となく彼に任せたい気分だ。


 僕は不思議そうな顔を作り、気の乗らない風にリンスさんに尋ねた。


「教導依頼……そんなのあったんだ?記憶が正しければ、僕は経験してないような気がする」


「それはもう、それなりにくたびれた全身鎧に槍やらナイフやら携えて、登録したら自信満々に何も聞かず、依頼を受けてさっさと達成して行った人には不要でしょうけど。

 最近はあまり需要が無かったのですが、見た感じ色々と教えといた方が良いかなー……って人には教導依頼を受けるよう提案して、壁外へきがいの活動についてあらかじめ把握して貰ってるんですよ?」


 それなりにくたびれた鎧を着て槍やらナイフやら引っ提げた僕に、リンスさんはジト目でそんな事を言ってきた。


 ……ひょっとして、なんか変な奴みたいに思われてないか僕?困ったなー。


 んー……、まあ暇だし。テキトーに気の向いた依頼を受けるつもりだったけど、たまにはこういう日があっても良いのかもしれない。


 これも神様の思し召し的なアレという事にしよう。


「リンスさんがOKと判断したのであれば、まぁいいよ」


 つまり本件はリンスさんの責任であって、僕が上手く教えられるかどうかというのはこの際どうでも良いだろう。


「で、相手は?」


「なんか「テキトーに教えてもいいんじゃね?」みたいな顔してますけど。やるならちゃんと!必要そうな事、教えてあげて下さいねっ!」


 バンバン!と机を叩いて抗議するリンスさん。それなりの胸部が「ぽゆんぽゆんっ!」と元気に踊り出す。


 ふーん……エッチじゃん。


 こういう時に僕の細目は、マジマジと見てる感が悟られ難いような気がして有り難みを感じるんだ。


 バレてるかどうかは知らない。バレてないといいな。


 プンスコしている彼女に、僕は両手を挙げて降参のポーズを取った。


 しかし心の機微に鋭いのに、肝心の依頼で「必要そうな事」とかいう曖昧な内容を任せないで欲しい。


 普通困ると思うんだ、誰でも。そういう時の為の教官置けよ教官。チョベリバっすー。


 面倒だからさっさと進めよう。すっ飛ばしてこう。


「それで、依頼主は?新人君。どっかの宿に行けばいいのかな」


「頼みますからね!……ほら、掲示板の所にいるフード被った彼です。あんまり残ってませんけど、貼り出された依頼票を見てる子」


 正確には依頼主はギルドなんですけどねー……などと言いながらリンスさんが指を差したのは、僕がさっき暇人認定した人だった。


 なるほど……つまり、教導依頼をすぐに受けられそうな暇人は僕1人だったというワケだ。ハハハ、何だか笑ってしまうぜ。


 フードの…………「彼」って言ってたから少年か。少年に向かって歩みを進めた。足音に気付いて振り向いた彼に、僕は話し掛ける。


「やぁ、教導依頼を受けたよ。早速行こう」






 細目の冒険者––––レクの事だ––––は、冒険者登録を終えたばかりのフードの人物を連れてさっさとギルドを出て行った。


「えっ?…………あ、ちょっ、レクさん!?教導依頼の詳細、説明まだしてませんけどぉ!」


 呆然と扉を閉める所まで見送った為、声を張り上げたリンスの声が彼に届く事は無かった。スキップし過ぎてしまったのかもしれない。






 日本から僕がこの謎世界に来て多分数年。この町で活動し始めて多分2ヶ月くらい。この世界の暦とかそういうのは別に興味無いし換算はしない。僕は難しい事は考えたくないんだ。


 その間、僕は冒険者のイロハなんてモノを教わった試しが無い。


 敢えて言おう、どないせえっちゅーねんと。ギルド出てから思った。遅ぇよ僕。いやどーにかするけども。


 まともにリンスさんと会話したのが、冒険者登録した日と今日くらいだから、為人ひととなりなんて分からない。分からないけど、今日の様子を見るに多分あんまり賢くはない様に思う。可愛いけれども。


 でも僕を冒険者の指南役にしたのはマズい。


 今まで他の冒険者と世間話もした事が無いし、何ならこの世界で「レク」が会話らしい会話を一番多くしてるのはリンスさんだけという、模範的冒険者の「も」の字も無い自信しか無い。


 ハハハ。なんで受注したんだ僕は。なんで提案したんだ彼女は。

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