第306話 バスチーユ要塞に到着

 アイリド公爵軍を軽く燻してからバスチーユ要塞へと向かった。


 まだ二月くらいの気候だが、気温は十度を越えていて、大陽が出るとちょっと暑いくらいだ。


「……荒れてんな……」


 聖王国は地理的に暖かいから冬麦を植えるところもあり、聖都周りは麦畑が広がっている。けど、植える暇がなかったようで、至るところが荒れていた。


「復興が大変だ」


 まあ、やるのは聖王国のヤツら。オレじゃないのだから気に病む必要はナッシングだ。


「その復興計画を考えるのはリンじゃないの?」


「それも聖王国のヤツに一任します」


 オレはただやれと命令するだけ。戦勝国の権利である。


「食料不足になるんじゃない?」


「なるだろうな。けど、人も死ぬ。そう酷いことにはならないさ」


 なったとしても戦争の結果であり、聖王国の失態。そして、邪神の使徒のせいである。それでこちらに文句言われても知るか! である。


 あと一日くらいのところで野営し、次の日の昼にバスチーユ要塞が見えてきた。


「この辺は麦が植えられてるな」


 そう指示は出したが、ちゃんとやれてることびっくり。聖王国の者を使ってるのかな?


 報告書は上がっているはずだが、読んだ記憶がない。任せてからのことなのかもしれないな。


「ボス。きたか」


 麦畑を眺めていたらイビスから通信が入った。


「うん。きた。もう少ししたらバスチーユ要塞に入る」


 今回は使徒としてバスチーユ要塞へ入るのでリンの姿になっている。聖王国との決着をつける戦いだからな。


「了解。聖王国の斥候とかいるから気をつけろよ。威嚇で辺りを火の海にはしないでくれな」


 人を放火魔と勘違いしてないか?


「爆弾魔の間違いでしょう」


 オレは別に爆発狂じゃないよ。ただ、吹っ飛ばすほうが早いからやってるまでだ。


「同じことでしょうが」


 異議が探し出せなかったので黙っておいた。クソ!


 バスチーユ要塞を一周してから中へと入った。


 もうこの辺はザイフルグ王国領として統治しているようで、要塞の門は開きっぱなしで、見張りもいなかった。


「リン様。ようこそお出でくださいました」


 ザイフルグ王国の者だろう兵士たちがオレを迎えてくれた。


「ご苦労様。食料は足りてる?」


 ちゃんと食料はアイテムボックスを通して送ってはいるが、一万人以上いるのだからちゃんと行き渡ることは難しいだろう。必ず零れ落ちることがあるのだ。


「懐に入れた者が何人か出ましたが、イビスにより強制労働の刑にされました」


 銃殺、とかじゃないんだ。


「殺すより死ぬまで働かすほうがボスの好みだろう?」


 好みってなんだよ。オレケダモノなら殺すよ。


「まあ、物資のちょろまかしだからな、国家反逆罪まではいかんだろう」


 国の物資をちょろまかしてんだから国家反逆罪にはしてやれるが、罪としては小さい。ちょろまかしで死刑にしてたら恐怖政治になりかねないよ。


「バスチーユ要塞の司令官はイビス。イビスが決めたならリンは肯定する」


 裁判官までやってらんねーよ。バスチーユ要塞で起こったことはイビスが決めたらいい。


「了解。お任せあれ」


「状況説明をお願い」


 司令室となっているところへ向かい、状況を説明してもらった。


 イビスの説明によれば、聖王国側は冬麦の刈り入れが終わってから仕掛けてくるようだ。


「戦う場所は三つ。バルイータ平原かサルサの街、大穴としてここだな」


「大軍を動かすならバルイータ平原が適してる」


 戦争の素人でもわかる。戦うならバルイータ平原だろうよ。サルサの街では戦う場所がないし、ここにくるまでの苦労を考えたらバルイータ平原で戦ったほうがいい。こちらにはワイバーンがいるのだ。見晴らしのいい場所で迎え撃つほうがいいはずだ。


「だな。わたしもそう思うよ」


「兵力は増えてる?」


「聖都に閉じ籠っているヤツらに呼びかけて三百人は増やせた。計千三百人ってところだな」


「そうそう増えることはないか」


 と言うか、聖都にまだ人がいたんだ。逃げ出したのかと思っていたよ。


「訓練は?」


「銃を持たせて立たせるくらいはできるぞ」


 案山子、ってことか。まあ、しゃーないか。案山子でも戦車を妨害できる壁にはなるだろうよ。


「聖都、どのくらいの人が残ってた?」


「はっきりとわからんが、最低でも二万人はいると思う。逃げる先がないからな」


 二万人か。よく生きていられるものだ。ヒャッハー! な状況になってんじゃないのか?


「あまり聖都を壊されたくない」


「一番壊したのはボスだけどな」


 異議が見当たらない。


「開戦まで時間があるから一度見にいく」


 聖王国の工作部隊に忍び込まれていたら嫌だからな。しっかり確認しておこう。


「ナナリとミューリーがいるから合流するといい」


 ねーちゃんたち、もうきてたんだ。気が早いこと。


「巫女たちと会ってくる。あとはよろしく」


 ウサギの獣人(聖女)として会ってはいるが、使徒として会うのはこれが初めて。ちゃんと顔合わせしておくべきだろう。終戦後、バスチーユ要塞はバスチーユ教会となるんだからな。


「部屋はそちらで用意してくれ。巫女たちはノータッチなんでな」


「わかった」


 肩を竦め、巫女がいる聖堂へと向かった。

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