第307話 案山子
「初めまして。使徒のリン。あなたたちのことはハピネスから聞いている。よくバスチーユ要塞の太陽となってくれてありがとう」
ごっめーん! 君らの顔、区別つかなくて前に会ったかもわかりませーん。そして、ハピネスの担当なので関わり合うことは少ないと思いまーす。
「リン様のお力になれたら幸いです。我々をお導きいただきありがとうございます」
ハピネスのヤツ、いい教育してるじゃないか。助けてくださりとか言われてたら不快な顔になってたぜ。これならもうちょっと任せても大丈夫かもな。
「仕事量に寝返らないようにしなさいよ」
寝返って楽になるならオレが先に寝返っているよ。邪神側もきっとブラックだぞ。
「引き続き、信者たちの太陽でいて欲しい」
「はい。リン様の光を浴びてよりたくさんの信者を温めていきます」
ハピネスも変な言い回しを教えること。どこで学んでくるんだ?
連絡は小まめにしているが、ハピネスの思考までは伝わらない。なにを考え、なにを思うかは知らんのだ。
礼拝堂を出てイビスの執務室へと向かった。
「イビス。聖王国の動きは?」
「特に変わりなし。遅々として遅れているな。やはり、春開戦は難しいと思うぞ」
「ちょっかいをかけすぎたかな?」
「これは仕切ってるヤツが無能か、仕切るヤツがいないかだろう。他国と戦争をやれるヤツなんてなかなかいないしな」
まあ、そうだな。素人のオレが戦争をするために二年以上かかった。混乱している聖王国を纏めるなんて至難の技だろうよ。
「読みが外れた」
聖王国も反撃に出るのに二年あればできると思ったんだがな。
「そのときは絨毯爆撃でいいんじゃないか?」
「これ以上、人材を減らしたくない」
いや、減らしている大元がなにを言ってんだか! とは言わないで。勝者は戦後のことを考える必要があるんだよ。
「相手に負けを認めさせる戦いをするのは必要」
もちろん、全面降伏してくれるならそれに越したことはない。だが、聖王国は国王を有しており、高位貴族が支配している。開始時間が遅れても降伏することはないだろうよ。
「やはりわたしは将軍には向いてないな」
オレだって向いてないよ。元は一介のサラリーマンなんだから。
「戦争はザイフルグ王国の将軍に任せる。リンたちは影から介入すればいい」
これはあくまでもザイフルグ王国VS聖王国。ウェルヴィーア教は協力してるにすぎないのだ。
「黒幕なのにね」
「黒幕だからこそ表に出てはダメ」
黒幕を否定する気はないし、歴史にはウェルヴィーア教が関わったことも残す。これが神の望むものだと残すためにな。
「この戦いは神が望みたる奴隷解放戦争。聖王国の悪道を世に知らしめてザイフルグ王国の正しさを歴史に残す」
「フフ。建前はな」
「戦争なんて建前でして、強国の都合のよい利益を得るためのもの。世間を納得させればいい」
勝てば官軍負ければ賊軍。勝ってこちらの意を示せ、だ。
「開戦時期が遅れることを見越して兵の訓練をして」
「了解。訓練が遅れているから助かるくらいだ」
「まだ千人だけ?」
「兵の教育は一朝一夕にはできないよ」
わかってはいるけど、千人は少なすぎる。せめて二千は欲しいところだ。
「なら、調達してくる」
「聖都でか?」
「うん。二百人くらいなら集められるはず」
「もう二月のもないぞ」
「案山子くらいには役に立つ」
ただ戦場にいるだけでも敵を威圧できるし、壁にも囮にもできる。まあ、食費がかさむのはいただけないがな。
「まあ、元より作戦に組み込まれてない兵力。ボスがなんとかしてくれるならわたしは文句はないよ」
開戦までオレの仕事はない。いや、いろいろ創造はしてるけど、なにかをしながら創造魔法を使うのは日常だ。案山子を調達してくるくらい苦ではない。
「それ、社畜根性って言うんじゃなかった?」
………………。
…………。
……。
「違う」
「その長い沈黙が認めてるようなものじゃない」
違うったら違う。これはオレが幸せになるための努力だい。
「リリー。そう責めてやるな。あまりボスを刺激すると被害が大きくなるんだから」
「それもそうね。自棄糞になると碌なことしないしね」
アホどもの戯れ言などフルスロットルで無視。案山子を調達するべく執務室を出た。
さあ。お買い物開始といきまっしょい。
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