第305話 仕事は平等に

 それから五日。街の有力者にあとを任せるための段取りを教えてからアイリドを出発した。


「ハピネス。アイリドの監視と管理をお願い」


「こちらも忙しいのだけれど」


「それはどこも同じ。仕事は平等に」


 オレはちゃんと平等に仕事を振り分けているし、それぞれの仕事もチェックしている。ハピネスの仕事が少し減ったことはマルッとお見通しだ!


「……上司にしたくない人ね……」


「不公平な上司がお望みならルジュの仕事を回すけど」


 ルジュも復興や戸籍調べで毎日午前様。優しいドリンクを何本も飲んでいるよ。


「ブラック企業も真っ青ね」


「辞表を出したいなら神に出して」


 そのあとのことはオレは知らん。神の御元にいくか地獄にいくかは自分で確かめろ。


「生き続けるのは大変ね」


 まあ、だからと言って簡単に死ぬこともできないだろう。背後から監視がいなくならない限りは、な。


「ハァ~。わかったわ。監視と管理をしておくわ」


「よろしく。あと、可能なら広場にハピネス像を建てておいて。魔力を徴収したいから」


 紋章でも魔力は徴収できるが、街の維持のためにもたくさん徴収しておきたい。取れるところからは取れるだけ取らしてもらう。


「ハイハイ。わかりましたよ」


「ハイは一回」


「ハイ、わかりました──」


 イーって顔が浮かぶように通信を切るハピネス。反抗期か?


「イビス。バスチーユ要塞はどう?」


 次はバスチーユ要塞で兵の訓練をお願いしているイビスへと通信を繋げた。


「順調、とは言えないな。兵が千人まで届いてない」


「対策は考えてるのでしょう?」


 聖王国に散り散りになるザイフルグ王国の民を集めても一万五千人強。若い者を連れていかれたが、兵士となれる年齢は二千人もいない。そこから適正検査して兵士となれるのは千人がいいところだろうと見ていた。


「まあ、そうだが、どこまで許容できる?」


「核ミサイルで壊滅、ってところまでは許容する」


 後始末が大変だが、一発で終わらせるなら環境回復に力を使ったほうが楽だよ。


「……いや、そこまで許容されても困るんだが……」


「やり方はイビスに一任する。能力の限界を超えてやって」


 その手助けならしてやるからよ。


「武装を第二次世界大戦まで高めるよ」


 M1ガーランドって、第二次世界大戦で使われてなかったっけ?


「対戦車ロケットを持たせた部隊を創る」


 対戦車ロケット? 相手は歩兵がほとんどだぞ?


「効果があるの? 手榴弾じゃダメなの?」


「敵に戦車があった」


「戦車? この時代に?」


 邪神の使徒に戦車なんて出せるヤツがいたのか?


「チャリオット──戦闘馬車と言えばわかるか?」


「うっすらと思い浮かぶていどには」


 ベン・ハーなら観た記憶はある。


「まあ、そのていどで構わんよ。チャリオット部隊が敵にいるんでな、対戦車ロケットで対応する」


「わかった。対応は任せる」


 第二次世界大戦の対戦車ロケットってのがどんなのかわからんが、イビスが効果あると言うなら承認するまでだ。


 ……なぜイビスが第二次世界大戦の武器を出せるかはスルーしておこう……。


「ボスのほうはどうなんだ?」


「少々問題は起きたけど、作戦に支障はない。今はアイリド公爵の兵を追っている。少しちょっかいをかけたらバスチーユ要塞に向かう」


「ちょっかい、ね。殲滅はするなよ。雌雄を決めさせるんだからな」


「わかってる」


 戦争は勝ち方が大事。世間に知らしめる必要がある。歴史の闇に葬って終わりでいいなら隕石落として終了させてるよ。


「まあ、ほどほどにな」


 肩を竦めてそうな姿が思い浮かぶように通信が切れた。


「ルジュ。派兵の用意はできた?」


 次はルジュに通信を繋いだ。


「約六百人は用意できた。春になったら三百人。春の終わり頃に三百人をビリノートに送るわ」


「あと四百人は?」


 頼んだのは千人。四百人足りてない。


「自由貿易都市群リビランで集めているわ。夏には送れるよう誠意努力中です」


 つまり、遅れているってことか。


「万が一のときは聖王国で調達する。なるべく多く送って」


「わかったわ」


 吐血してそうな姿が浮かび上がるように通信が切れた。


「神も酷いことをする」


「やらせてるのはリンだけどね」


「選んでやってるのは皆だ」


 嫌なら逃げたらいい。退職届けと言う名のドロップアウト権はそれぞれが持っているんだからな。


「オレは死にたくないし、望む未来もある。こんなところで死んでらんないんだよ!」


 アイリド公爵軍と思われる集団へと一式爆弾(イ○ナズン的なものね)を落としてやった。


「神の天罰だ!」 


 オレがやることは神が許したもう聖なる行い。そして、神の言葉である。文句があれは神にどうぞ、だ。 

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