第300話 ラブビーム

「……平和すぎて怖い……」


 なんだろう。平和を求めて戦ってるのに、いざ平和になると怖くてしょうがないよ……。


「すぐそこに大海蛇がいるのに平和と思えるとか、もう終わってるわね」


 見える敵など怖くもないし、一環境でしか生息できない魔物など標的でしかない。殺す手段などいくらでもあるわ。


 いつもより二時間遅く起きて飲むモーニングティーの美味きことよ。堕落とはこれ、平和なり……。


 なんて平和など一瞬のことでしかないと知っている。平和はお仕舞~いとばかりに微かな地響きがしているよ。


「はぁ~。大事の前の小事ってか? 止めて欲しいぜ」


「小事なんだ、大海蛇は」


 災害からしたら大海蛇など通り雨みたいなもの。通りすぎるまで傘をさせば問題ナッシング、みたいなものだ。


 宿屋の上空に配置していた万能偵察ポッドの映像を壁に映した。


「……あれが大海蛇……」


 って言うか、蛇ってより龍じゃね? いや、リヴァイアサンか? 口から吐いてんのは水か? なんかショボい攻撃してんな。


「家を吹き飛ばしてるわよ」


「家くらいダイナマイトで吹き飛ばせるよ」


 つーか、オレのウォータージェットカッターなら大地まで真っ二つにできる威力があるわ。


「しかし、なんで今になって暴れてるのかしらね?」


「オレがきたからだろう」


「あれも邪神の使徒がやらせてるってこと?」


「だろうな? ただ、別の計画で動いていたとは思うけどな」


 ミレンダさんの話ではリヴァイアサンが現れたのは二年前。オレらが聖王国にやってきた時期くらいだ。とてもオレにぶつけるためとは思えない。いや、布石として置いたかもしれんか?


 まあ、どっちにしろあんな巨大な魔物が自然発生するとは思えない。邪神の使徒が、って考えるほうが自然だろうよ。


「暴れるな~」


 港から百メートル以上あるので宿屋まで攻撃は……届きそうだな。水棲かと思ったら、半水棲のようだ。


「アイリド公爵はどうでるかな?」


 城を見張る万能偵察ポッドに切り替えると、絶賛大騒ぎ中だった。


「ダメだな、こりゃ」


 右往左往して、街を守る動きはしていない。これは、街の者を見捨てて逃げるかもな。


 まあ、アイリド公爵領がどうなろうと知ったこっちゃない。聖王国の問題は聖王国で解決するものである。統治権を持ってないオレはノータッチである。


「見捨てるの?」


「神は信者でもない者に寛大か?」


 寛大だと言うならそれは邪神の使徒にも寛大でなければ理屈に合わない。寛大ではないから争いが起きているんだろうが。


「主は主の教えを守る者を救うわ」


 つまり、教えを守らないオレらはその範疇から外れるってか? クソだな。いや、知っていたけど!


「オレはオレの敵を撃つまでだ」


 ご飯とお味噌汁で朝食を摂りたいが、今日は塩むすびとお茶にしておきますか。モグモグ。


「あ、ローズ。退避」


 リヴァイアサンが徐々にこちらへと向かっており、爆水が数十メートル先の家を吹き飛ばしていた。


「自ら殺られにくるとはね」


 自分のテリトリーで迎え撃てばいいのに、なぜ地上に上がってくるかね? なんか地上攻撃能力があるのか?


「射程内に入ったわよ」


 それはこちらもだよ。いや、オレの射程は三百メートルなのでとっくに入ってたけどな。


 窓辺に立つと、リヴァイアサンと目があった。


「所詮、操られた獣はなんら脅威じゃないんだよ」


 胸の前で両手でハート型を作る。


「殲滅ラブビーム!」


 ハート型のビームがリヴァイアサンの頭に直撃。あっさりと吹き飛んだ。


「イモ五千万個分の愛は熱かっただろう?」


 オレの奥義で殺されることを名誉と思うがいい。


「とは言え、今のだと三千万個分でもよかったかもな」


 だが、リヴァイアサンを倒したことでレベルアップ。レベル16となりました~。


 レベルアップによる体の痛みはないものの、違和感で体が上手く動かせない。肉体も魔力も容量が拡大している。慣れるのにしばらく時間が必要だな……。


「リリー。危険は感じる?」


 雑魚くらいなら問題ないが、使徒クラスがきたらさすがに勝てる自信はない。リリーの守護センサーが頼りだ。


「…………」


「ないか。ウソも言えないのも大変だな」


 リリーは文句も言うし、悪態もつくが、ウソは言えない。そして、言えないときは黙るのだ。


 まあ、それに捕らわれすぎると足元を掬われるが、使いどころを間違えず、単純な問いならそれほど怖くはないものだ。


 ベッドに腰を下ろし、魔力と体力回復用のココアを飲んで体が慣れるのを待った。あ、万能偵察ポッドにリヴァイアサンの死体を回収させないと。


「はぁー。ジェスを連れてくるんだったぜ……」


 後悔先に立たずとはこのことだな。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る