第299話 ミレンダ亭
「……確かにボロいな……」
ミレンダ亭とやらはすぐにわかった。
「ボロくて悪かったね」
ミレンダ亭の前でおばちゃん連中とおしゃべりしていたミレンダさん。大きい声でしゃべっていたからミレンダ亭なのもミレンダさんなのもわかったまでだ。
「さすがに趣があるとは言えないよ」
どう配慮しても「廃屋ですか?」としか言いようがない。どうして商売ができてるのが不思議なくらいだ。
「正直な子だね。なんかうちにようかい?」
「そこの宿屋のおっちゃんからここを紹介されたから食事にきた。食べれる?」
「バイダからかい。まったく、律儀な男だよ」
律儀? なんのこっちゃ?
「まあ、食いたいなら出すよ。ただ、海のものはないからね」
「港で聞いたけど、魔物が住み着いてるって本当なの?」
「ああ。大海蛇が住み着いて漁ができないんだよ」
大海蛇? って、シーサーペントとかリヴァイアサンとかか?
「退治できないの?」
「できるならとっくにやってるよ」
まあ、ごもっともだな。
「公爵様はなにもしないの?」
「獣人の国と戦争でそれどころじゃないよ。聖都に攻め込むとか言って徴兵まで始めたからね」
徴兵とかあるんだ。それだけ兵士がいないってことかな? それとも数で押し切る気かな? まあ、どっちにしろ訓練されてない集団など敵ではない。レベルアップの糧としかならんわ。
「山の向こうから獣人の本隊がきたって噂、隣の男爵領で聞いたね。春には攻勢に出るんじゃないかって」
「それは本当かい?」
「噂だよ。ただ、聖都はもう壊滅して、王様や貴族はどこかに逃げたみたい。難民から聞いたからそれは本当だと思うよ」
噂を広めたいならおばちゃんに聞かせるのが一番。あることないこと広めて疑心暗鬼を広めてくださいまし。
「ここも危ないのかね?」
「う~ん。戦争は王様に敗けを認めさせないとならないから、ここにはこないんじゃないかな? ただ、戦いになったら難民は流れてくるかもね。ここは聖都からも遠いしね」
なぜか安全な場所ってのは伝わるもの。きっとここにも難民は流れてくるだろうよ。
「この国、大丈夫なのかね?」
「だね~。海は大海蛇はいるって言うのにさ」
おばちゃんたちはため息をつきながらもおしゃべりに衰えることはない。こっちに飛び火しても強かに生き残るんだろうな~。
「まあ、中へ入んな。出せるものは多くないけどね」
「食べれるならなんでもいいよ。旅の間、碌なもの食べれてないからさ」
ミレンダ亭に入ると、中はそれほどボロじゃなかった。
テーブルは三つしかなく、本当に小さい店である。これでよくやっていけるな? 他にもなにかやってんのかな?
「適当に座りな。お任せでいいね?」
「うん。美味しいのをお願い。お金ならあるからたくさん出してちょうだい」
旅は食べるのも楽しみの一つ。まあ、これまで美味しい料理に出会ったことないけど!
しばらくしてミートパイみたいなのが出てきた。
「う~ん。いい匂いだ」
「本当は魚を包むんだけど、今は肉に代えてるんだよ」
ナイフとスプーンで切り分け、口へと運んだ。お、うめーじゃん。初めて美味いもんに出会ったぜ!
「鳥団子のスープだ。パンを浸して食うと美味いよ」
と言うのでやってみたら激うまだった。ってか、レベル高くね? 元の世界のレストランに出しても通じる味だぞ。
「ミレンダさん、料理の天才だね!」
「それはありがとさんね」
肩を竦めるミレンダさん。どうやら事情があるっぽい。
「これだけ腕がいいなら、魚料理も美味しいんだろうな~」
「まあ、魚料理のほうが得意ではあるね」
それは是非とも魚料理を作ってもらわないとな。食わずには立ち去れないぜ。
「魚捕まえてきたら料理してくれる?」
「ふふ。捕まえてきたらね」
ならば捕まえてこようじゃないの。
大海蛇がどんなものか知らないが、成功報酬があるならやる気爆上げ。厄介事がイベントに切り替わったぜい。
たくさん出てくる料理をすべて平らげて魔力へと変換させていった。
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