第301話 ハリハリ鍋
宿屋から外に出ると、街の被害は思った以上に甚大だった。
リヴァイアサンはまっすぐこちらに向かっていたが、体を捻りながらの進行で、薙ぎ払うように水を放っていたので広範囲に被害を与えていた。
「酷いものだ」
災害竜もそうだけど、邪神の使徒はなにがしたいんだろうな?
人類を根絶やしにしたいなら火山の一つでも爆発させたらいいと思うし、世界を征服したいなら国でも興したらいい。やることなすこと胡乱すぎる。ただ、世界を混乱させたいだけかとしか思えない。
まあ、それが狙いかもしれないが、災害竜の黒幕には明確な意志を感じる。なにか目標を持って動いているとしか思えないのだ。
「面倒なヤツがいるもんだぜ」
「あちらもそう思ってるんじゃない。ことごとく邪魔されてるんだから」
言い換えれば邪魔しかできてないってことだ。打ち砕いてこそオレの安寧が訪れるってことだ。
リヴァイアサンは万能偵察ポッドが輪切りにしてアイテムボックスへと収納しているのを任せ、港へと向かった。
港もいろいろと破壊されている。修復するには年単位でかかるだろうな。
>っと千里眼。
「うん。だろうな」
沖合いには小型のリヴァイアサンがうじゃうじゃといた。
リヴァイアサンを鑑定したらリヴァイアサンと名前が出た。元の世界の怪物の名前が出たら邪神の揺り籠から生まれたってことだ。
まあ、まさか海の中で邪神の揺り籠になるヤツがいるとは夢にも思わなかったけど。
「一匹だけデカくて他は小さいのか。タイプの違う邪神の揺り籠か?」
おそらく、一匹だけ生み出す邪神の揺り籠なんだと思う。ただ、これまで見てないことを考えれば特殊なタイプなんだろうな。
小型のリヴァイアサンは、イワシの群れのように集まってわしゃわしゃやっている。
「食えるかな?」
サイズ的にはアナコンダくらいあるから量はあるだろうが、どんな味がするかまではわからない。ミローズンに似た味といわれてもわかんねーよ。
とりあえず、食えるように仕留めなくちゃならんな。
万能偵察ポッドを六個、リヴァイアサンの群れ中に突入させる。
「またダイナマイト漁?」
「カマボコにするつもりはないよ」
リヴァイアサンのカマボコなんてシュールすぎんだろう。いや、食えるなら食ってみたいもんだけどよ。
突入させた万能偵察ポッドから二酸化炭素──炭酸ガスを噴出させた。
「大量虐殺ね」
「魔物に生存権はない」
魔物愛護団体がいるならそいつらも虐殺してやるよ。人類の敵としてな。
この海の環境に適したリヴァイアサンが炭酸ガスに驚き始め、炭酸ガスに苦しみ悶え、やがて動かなくなっていった。
「環境に優しい大量虐殺だろう」
炭酸ガスもそのうち消えて、リヴァイアサンに追われた魚も戻ってくるだろうよ。いつになるかは知らんけど。
「見える敵は本当に楽でいいよ」
これがたまにしか出てこない魔物なら何日時間を取られることやら。これほど楽なことはないよ。
万能偵察ポッドに回収を命じ、一匹だけ手元に取り寄せた。
「ローズ、食べるか?」
いつの間にかいたローズの前に置いてやる。
「ガウ!」
ローズは肉が好きだが、魚も食う。いや、リヴァイアサンが魚に入るか知らんが、見た目的に蛇よりだと思う。きっとローズの舌にも合うはずだ。
「毒味とか、酷い飼い主ね」
「野生の勘と胃袋に頼るだけだよ」
鑑定では食用可とは出たが、知らない食材を口にする勇気はない。誰かが食うか、誰かに食べさせたあとじゃないと口にしない主義なのだ。
「悪魔のような主義だこと」
悪魔のような冴えたやり方なのは自負してるけどな。
「ガフーガフー」
ローズが興奮して食うときは美味しいときの行動だ。
アナコンダサイズのリヴァイアサンを食べるローズ眺めながら、どう料理するか考えた。
マグロのような赤身だから刺身にしてもいいが、生食は誰かに食べさせてからにして、まずはしっかり焼いてから食ってみるか。
「ガフ~!」
半分ほど食って満足したようで、残りをオレに寄越してきた。いい子だよ。
「そんな子に毒味させたけどね」
守護天使に食わせられるならそうしたいよ。
「指人形がリヴァイアサンをかぶりつく姿、見たい?」
「いや、見たくないな。軽くホラーだわ」
やはり毒味は生きてるものに限るな。
ナイフを出してリヴァイアサンを切り、火を焚いてからよく焼いて食べてみた。
「……これは、あれだ。鯨だ……」
鯨を食う年代ではなかったが、料亭に連れてもらったときに食ったことがある。
まあ、そう何度も食ったものじゃないが、初めて食った記憶が残っている。リヴァイアサンは鯨に似た味だ。
「リヴァイアサンが鯨と同じ味とはな。不思議なもんだ」
なにはともあれ、鯨と同じ味なら鯨料理と同じくしたらいいな。
「鯨のハリハリ鍋、美味かったっけ」
水菜に似た野菜はあったから、今夜はハリハリ鍋に決定だな。クフフ。
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