第245話 戦争日和
昼前、聖王国側と同時くらいに南の平原に出ることができた。
そのまま戦いに、とはいかない。人を配置して陣形としなければ烏合の衆。各個撃破されて試合終了である。
しかも、聖王国と打ち合わせしたわけでもない。相手の動きを見て対応しなくちゃならない。誰かシナリオを作ってくれ、だ。
聖王国の動きに注意しながら陣形を作る。
一応、中央に千。左に千。右に五百。後方に五百を配置する。
約四千の兵力があったけど、そのすべてを戦地に持っていけるわけではない。予備兵力も作らなくちゃならないし、新兵をいきなり戦わせても殺されるだけである。
前面に出せるのは三千がやっとである。本当なら二千でやりくりしたいくらいだ。
……三千対一万五千か。戦争警察が見たらボロクソに叩かれそうだな……。
夕方に陣形が完成したが、今日はそれでお仕舞い。その場で夜を明かすことになる。
パンと干し肉、水は持参させてるが、兵士としては苦痛だろうな~。
戦国時代もゴミみたいな食料だけ持って何日も戦わされたとか聞いたが、よくそれで戦意を保てたもんだよ。偉人となるべき者には理由があるんだな。見習いたいもんだよ。
「ルジュ、歴女だったりする?」
戦国武将じゃなくてもいいから歴史好きな女子であってくれ。
「織田信長なら知ってるわよ」
うん。歴史オンチの女でした。クソが。
「ガイオーグ。夜中ちゃんと火を炊いて。明日に向けて体調を万全に」
「ああ、わかっている。明日、開戦しそうか?」
「なるとは思う。敵はこちらの約五倍。五千の兵を動かしても一万が残る。三軍にわけて一日毎に仕掛けてくれば苦もせず聖王国は勝てるから」
戦争の素人でも思いつくことであり、オレも兵力があるならやりたいくらいだ。
「これで勝てると言い切れるんだからリン様は怖いよ」
「前哨戦で負けていたらこの先、絶対に勝てない」
二万の兵を出せるならその五倍は兵はいると見たほうがいい。十倍だったらさすがに戦略を変えるがな。
「最初にやることに変わりはない。大丈夫?」
「しっかり訓練はさせたよ」
「なら、よかった」
獣人だから野蛮人かと思ったけど、ちゃんと文明人でよかったよ。
十歳は寝る時間なので十三歳のルジュに任せて横になった。
ぐっすり、とまではいかないけど、六時間は眠れた。今日はなんとか戦えそうだ。
風呂に入り、軽く食事をしてからルジュと交換する。昼まで眠っていいからまた街に出てくれよ。
「戦争をしたがるバカの気が知れないわ」
なんかプースカして眠りについた。なんなの?
「聖王国の動きは?」
夜のオペレーターに尋ねる。獣人でも二十四時間起きていられるわけじゃない。二交代でやっています。
「偵察をたくさん出していました」
こちらの陣形を探っている感じか。
「被害は?」
「ありません。六人ほど捕獲しました」
「殺さない程度に情報を聞き出しておいて」
欲しい情報はもってないだろうが、なにがあるかわからない。聞き出しておいて損はないだろう。
山の向こうが白くなってきた。
「ボス。動き出したぞ」
ワイバーンの駐屯地を見張るイビスから連絡が入った。
「お願いした弾は撃ち込んだ?」
「ああ。ただ、他のところへ飛んでるのが一匹いたな。おそらく伝令だと思う」
空を飛べるのがあるなら戦況を伝えることもするだろうよ。
「わかった。ワイバーンが飛び立って視界から消えたら排除して。飼育員は殺さないで」
「了解」
やがて太陽が山から顔を出した。
「ガイオーグ。ワイバーンが飛び出した。現れても気にしなくていい。視界に入ったら中央は出て。ミモリ。しっかり働いて」
「わ、わかった」
「ミカン。ミモリのサポート、よろしく」
「了~解~」
軽い人工知能だよ。
「今日は戦争日和だ」
大陽がどんどん昇り、聖王国の背後からワイバーンが十騎ほど飛んで来た。
「残りは迂回して背後から襲う、か」
航空戦力があると厄介だよな。
「ミモリ。旗を掲げて」
中央の陣からザイフルグ王国の旗を掲げ、白い竜に跨がって聖王国軍へと駆け出した。
「ザイフルグ王国の兵士たちよ、救世の乙女に続けぇぇぇぇっ!!」
中央軍が咆哮を上げて駆け出した。
聖王国軍は動くことはない。ワイバーンによる強襲爆撃でこちらを混乱させる作戦なんだろう。
だが、ワイバーンはもうオレの手中に入っている。聖王国軍の後方に樽を落としてやった。
十の樽が地上に激突。大爆発を起こした。
「……邪神の使徒め。よけいな知識を聖王国に広めやがて……」
アイカワ帝国で銃が発明されたのなら火薬もあるってこと。なら、聖王国にあっても不思議じゃない。ワイバーンと樽を見て邪神の使徒が広めたと理解したよ。
……まあ、証拠はないが、オレならやる。絶好の実験だからな……。
聖王国軍はパニックになるが、左右の軍は冷静だ。ザイフルグ王国兵を挟み撃ちにしようと駆け出した。
「ガイオーグ。左右から来る。射程に入ったら撃て」
「了解! 第一突撃兵は右! 第二突撃は左! 用意!」
選出した三百名の突撃兵が百五十ずつに分かれる。
「構え!」
三百丁の突撃銃──M1ガーランドが聖王国軍に向けられた。
「撃て!」
第二次世界大戦で活躍した突撃銃が火を吹いた。
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