第244話 ガンバレ
戦いは移動なりと見つけたり。
なんかどこぞの武将みたいなこと言ってしまったが、そう言いたくなるくらい移動に時間を取られてしまう。
夜明けとともに陣形を築いておきたいのに、まだ半分も南の平原に到着していない。補給部隊なんてまだ王都から出ていない。これ、本当に大丈夫か?
「……邪神に勝ちたきゃ戦国武将を転生させろよな……」
思わず愚痴が漏れてしまう。
「ガイオーグ。もっと早くならない?」
このままでは朝になってしまうと、ガイオーグに苦情を入れた。
「これでも急かしているんだがな。どうにも上手くいかん」
「戦いが終わったら再教育して」
こんなグダグダな軍隊など使いもんにならんわ!
「勝つのは決定事項なんだな」
「当たり前。聖王国に勝つ方法ならいくらでもある。けど、この戦いはザイフルグ王国の矜持を取り戻すためのもの。ザイフルグ王国の兵士が戦わないと意味がない」
矜持は一日にして成らず。汗水流し、血反吐を吐き、命をとして戦い、それで勝ってこそ矜持は強固なものとなる。でなきゃこんな苦労しないよ。
「ザイフルグ王国の矜持を取り戻したいならがんばって」
「わかった」
ガイオーグの覚悟だけが唯一の救いだな。
「街を見てきたわよ」
夜中になってルジュが帰って来た。ゆっくりだったね。
「どうだった?」
「怪しい人物が何人かいたわ。ただ、見張っているだけの人員って感じがしたわ。一応、万能偵察ポッドをつけておいたわ」
「やるときにはやる」
「使えるところ見せておかないと、あなたになにをさせられるかわかったものじゃないからね」
わかってらっしゃる。付き合いは浅いけど、一番オレを理解してるかもな。
「状況は?」
「五時間くらい遅れてる。おそらく、もっと遅れる」
ガイオーグや団長クラスが激を飛ばしているが、効果はいまいち。兵士の練度も一日にして成らずだな……。
「聖王国はどう?」
「兵士の質がいいから朝には南の平原に到着して陣形を構えると思う」
昼前に陣形を構えないと、聖王国に先手を打たれるな、これは……。
「負けるの?」
「負けない」
負けはしないが、ザイフルグ王国の兵士の活躍はなくなるな。
「ジェス。悪いけど、横から仕掛けて、乱してから退いて」
警戒はされるが、背に腹は代えられない。ザイフルグ王国の兵士たちの奮闘に期待しよう。
「背後はいいのか?」
「何人か残しておいて。予備の万能偵察ポッドを向かわせるから」
予定通りにいかないのはいつものこと。臨機応変にやるしかないよ。
一時間が過ぎてジェスが四つに分けて進軍する一つに攻撃を仕掛け、混乱に陥れた。
……ジェスも状況が読めるようになったものだ……。
ただ強さを求めるだけじゃなく、物事を考えるようになった。他もそうなってくれると助かるんだがな~。
まったく、ザイフルグ王国に来てから愚痴が止まらないよ。はぁ~。
「ガイオーグ。ジェスが時間を稼いだ。もし、昼前まで陣形を調えられなかったらザイフルグ王国の未来はないと思って」
なんのリスクもなしに国を取り返せると思うなよ。力なき国は滅ぼされるだけだ。
それはオレも同じ。自分への戒めでもある。死にたくないのなら知恵と力を身につけろ、だ。
「……わ、わかった……」
「行動で示して」
冷たく言い放った。ほんと、マジで頼むよ。
「戦いってこんなに面倒なものなのね」
「まったく」
災害竜退治は辛かったが、万全の用意をしたから女騎士が現れても勝つことはできた。だが、ザイフルグ王国奪還は片手間にやっていた。準備も万全とは言えない。いや、勝つ準備はした。けど、人の心や練度まで気がつけなかった。ほんと、一人でやれることには限界があるぜ。
「それでも勝ちは揺るがないの?」
「揺るがない」
ただ、望んだ勝ち方にはならないだろうな~。
また戦略の練り直しか。大人になる頃にはピンクの髪が真っ白になってたらオレは破壊の神の使徒になってやるからな。
「ルジュ。いざとなったらリンの代わりをして」
「わ、わたし!? む、無理よ!」
「別に戦いを指揮しろとは言ってない。後方指揮をして。使徒の存在を示して、王都の民を安心させて」
「益々無理よ! わたし、しがない事務員だったのよ!」
「なら、これからは頼れる使徒になって」
そうしなければ生き残れない。やれないじゃない。やるんだよ。
「……そんな……」
「ガンバレ」
そうとしか言ってやれない。所詮、がんばるしかないんだからな。
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