第204話 優しい宗教です
「それで、女に戻る?」
話を戻して戻るかを問うた。
「……あ、うん……」
視線を逸らして俯いてしまった。
まあ、強く願っていたことが簡単に戻れるとなって戸惑っているのだろう。
「変身できるのに戻るのに抵抗があるの?」
「……いや、うん、まあ……」
「自分の中で整理できてないのならあとでいいんじゃない? 男でいるメリットもあるんだしさ」
前世が女だったのなら女のデメリットも知ってるはず。オレは知らないからまだ女をやってますけどね。
「……男でいるメリットか……ん? もしかしてあなた、前世は男だったの?」
ん? あれ? 今のセリフの中に男だったヒントなんてあったか?
「うん。前世は男だよ」
神に選ばれた者に前世の性別がバレたところで問題はない。共通の秘密だし、性別以前に前世の記憶があるとか言えないしな。
「……よく受け入れてるわね……」
「女であるメリットがあるからね」
女、子どもだと相手は油断してくれるし、男を操るにもいい。まあ、貞操の危機や月のものがあるけど、そこは手のひらの創造魔法でなんとでもなる。デメリットにもならないわ。
「順能力が高いのね」
「そうしなきゃ生き残れなかったからね」
前世のオレはそこまで順能力は高くなかった。そうさせたのはこの世に生まれて必死に生きて来たから身についたものだ。
「変身能力を選んでこうして生き残ってるんだからデミニオだって順能力は高いでしょ」
変身なんてコミュニケーション能力がなくちゃ豚に真珠だし、ド田舎に生まれてこの町まで移ってる。それだけで順能力が高いと言っているようなものだ。
「そう、ね。今思うとよく生きて来れたと思うわ……」
「死ぬも地獄生きるも地獄なこんな世だけど、生きててよかったと思うならこの先も生きていけるさ」
こんな世でも老衰で死ぬまでは生きたい。それを邪魔するヤツは無慈悲に排除してやるまでだ。
「デミニオがどんな幸せを求めてるか知らないけど、男でいることもまたよし、じゃない。どこかの美少女は男嫌いになるくらいのトラウマをもらちゃったしね」
アレも女でいるメリットで女でいるアホだしね。
「……いつでも女に戻れるのよね?」
「うん。信者から魔力をいただいてるからね」
業績(?)は右肩上がり。聖都グランディールに回し、生活物質を創っても毎日イモ二千万個分は貯蓄できる。災害竜でも襲っても来なければいつでも女にしてやれるさ。
「……カルトも真っ青ね……」
「うちは、人に優しい宗教です」
平和な世でなけば健やかで豊かな老後は過ごせない。ならば、清く正しい宗教でなければいけない。表向きは、だけど。
「じゃあ、しばらくは男のままでいるの?」
「ええ。変身してれば女だしね」
と、一瞬にしてルジュへと変身した。なくした両手も復活している。細かい設定したんだろうな~。
「ルジュ、でいいの?」
「ええ。基本形態がこれだから」
「変身した姿って歳は取るの?」
ふとした疑問を尋ねてみた。
「いえ、そうは設定しなかったわ。しとくんだったと後悔してるわ……」
オレなら年齢を自由に設定するかな? それなら状況に応じていかようにも対処できるし。
外部(?)がどんなに損傷しようと中身には傷がつかない。隠密活動にはもってこいだわ。
「その体は、見た目通りなの? 魔法とか使える?」
「見た目通りの女の子よ。獣の解体は得意だけど」
つまり、変身した者の能力を使えるってことか。益々隠密向きだな。
「じゃあ、使徒用のローブを与えておくよ」
デミニオ──ではなくルジュの手をつかみ、手のひらの創造魔法でローブ(下着もね)を纏わせた。
「そのローブは銃撃を受けても平気だし、いざと言うときは戦闘強化服ともなる。アイテムボックスには必要なものが入ってる。なにか欲しい機能があったら言って。よほどのものじゃなければつけられるからさ」
「攻撃手段ってある?」
「一応、攻撃魔法は撃てるけど、銃のほうがいいでしょ」
「いや、銃がある国の生まれじゃないからよくないわよ」
そりゃごもっとも。
「そこは慣れて。生き抜くためにもね」
裏方をやってもらうとは言え、最低限の自己防衛手段は持っていたほうがいい。なにが起こるかわからないんだからな。
「どこで練習するのよ?」
「しばらくはボクたちと一緒に行動してもらうから練習し放題だよ」
これから旧ザイフルグ王国にいかなくちゃならない。自己防衛手段を持つにはもってこいさ。
「危険、なのよね?」
「邪神の使徒が出て来ない限り安全だよ。なんせうちは前衛が充実してるからね」
一騎当千が二人もいる。魔物の群れ三千匹も襲って来ないと出番はないよ。
「それならいいけど……」
「まあ、まずは腹ごしらえしようか。あ、デミニオに戻ってね。旅に出るまでに体を作らないとならないからさ」
変身した姿が歳が取らないと言うことは成長もしないってこと。なら、デミニオに戻って体を作ってもらわないとね。
外に出て精のつく料理を作り始めた。
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