第203話 玩具の反逆

 ヒッヒッフー。


 ヒッヒッフー。


 生まれるぅ~。


 なんてボケを噛まして驚愕を静める。


「……男に生まれた、ってこと……?」


 しゃべりからして女かと思ったらまさかの男とは。酷い裏切りを受けたような気分だよ。


「ええ。男に生まれたわ」


 まだ声変わりしてないから女の子っぽいしゃべりでも違和感はないが、声変わりしたら完全にオネェになるな……。


「……それはまた、御愁傷様です……」


 まあ、オレも御愁傷様な立場だが、この十年で折り合いはつけた。だが、女の口調が消えてないってことは、まだ自分の中で折り合いがついてないってことだろう。それはとても生き辛いことだ。


「まあ、女に戻りたいならボクの力で変えられるけど、どうする?」


「できるの!?」


「うん。できるよ」


 満面の笑みで肯定したが、ルジュ──ではなく、デミニオは眉をしかめてしまった。


「信じられない?」


「……信じられる材料がなに一つないから……」


 正直であり、疑い深くてなによりだ。こう言うタイプが仲間になってくれて心強いよ。


「性転換、と言っていいかわからないけど、魔力があれば男から女の体に変えることは可能だよ。ボクの手のひらの創造魔法ならね」


 両手をグーチョキパーさせる。


「……わたしが仲間になる必要あるの……?」


「あるに決まってるさ。神が与えた力はもちろんだけど、死にたくない。生きたいって気持ちがあり、知恵と工夫で十年も生きて来た強い意志がある。味方にするなによりの理由さ」


 それがない者を仲間になんて害にしかならない。そんな不良債権を抱え込むなどゴメンだわ。


「まだ邪神の残党はいるけど、最悪なのは追い出した。その最悪が入って来ないようにボクらの生存域を築く。そのためには神の使徒と言う存在は強力だ。デミニオは欲しくない? 安全、とまではいかなくても怯えなくても眠れる場所をさ」


 それがなによりも貴重なものとわかる生活をしてたなら断らないはずだ。


「それがウェルヴィーア教なの?」


「本当は権力者に取り入って安全に生きたかったんだけど、邪神の使徒に見つかり、撃退したら神に目をつけられた。もう、影に隠れて、ができなくなったなのなら表に出て目立つしかなくなったんだよ」


 極端だろうが、やるなら極端に出たほうが邪神の使徒も表立っては出て来れない。なにかするなら裏でコソコソ、時間をかけてってことになる。なら、こちらもその時間を使って対抗する手段を築かせてもらうまでさ。


「デミニオは、宗教を倒せる?」


「……無理、ね……」


 無理ではないが、相当苦労することは間違いないだろう。宗教は理性では御し得ないものだからな。


「ボクは、別に神を信じろとは言わない。けど、生きるために宗教を利用しろとは言う。デミニオは、それを否定する?」


 否定するなら決別するしかない。邪神の使徒に利用されないよう願っておくよ。


「……羨ましく思えるほどの逞しさだわ……」


「デミニオだって逞しいじゃない。その能力を使いこなしてるんだからさ」


 おそらく、最初は変身もできなかったはずだ。それを変身できるまでするにはそれなりの努力はしたはず。ただ、どんな努力かが気になることだがな……。


「能力は訊かないけど、レベルは教えてくんない?」


 使徒相手だと鑑定が効かないために尋ねないとならんのよね。ちなみに、イビスはオレがレベルするようにしたから見えたりします。


 ……ほんと、謎設定で意味わからんわ……。


「……レベル3……」


「マジで?」


 レベル2かと思ったら3だった。


 ゲームをしてる者からしたらレベル2も3も大差ないように思えるかもしれんが、その差はとても大きかったりする。


 邪神の揺り籠を破壊したならレベルがいっきに上がるが、魔物を倒してレベルアップするには大量の魔物を倒す必要がある。


 2までならゴブリンを二百も倒せば上がるだろうが、3に上がるには軽く千匹は倒さないと無理だろう。


 十歳の子どもがやるには不可能だ。いったいどんなことすれば可能になるんだよ!? 


「わたしは設定をつけて一つの能力にしたの」


「もしかして、食らったりしちゃう系?」


 オレと握手したとき、引っ張られる感じがした。あれは食らおうとしたんじゃないか?


「わたしより強い相手なら食らえるわ」


「弱い相手は無理ってこと?」


「……ええ。そうよ……」


 思わず天を仰いでしまった。


「レベルアップが足枷になるじゃん」


 レベル3は一流の格闘家より強いくらい。このファンタジーな世界でもそんなヤツは極少数だ。そんな極少数の強者からさらに強者に会える確率は低い。ましてや邪神の揺り籠を壊したりしたらさらに強者と遭遇する確率は低くなるってーの。汎用性がなさすぎて泣けてくるわ。


「……魔物に変身するにしても使い所を選ぶな……」


 レベルが上がれば魔物に変身する必要もない。下手に変身して狩られもしたら目も当てられないよ。


「羊の皮を被った悪魔。それがわたしの能力よ」


 言わなくていいって言ってるのに言っちゃうんだから。まあ、細かい設定がなんなのか知らないんだから能力名を聞かされてもわからんか。


「神の使徒が悪魔とか、いい皮肉だ」


「神も笑っていたわ」


 それで目をつけられたってことか。御愁傷様。


「なら、一緒に神に一泡ふかしてやろうか。ボクたちはお前の玩具じゃねー! ってね」


 オレらが思い通りに動く玩具だと思うなよ!

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