第201話 第三の使徒、ルジュ

 手のひらの創造魔法。


 この能力の弱点は手のひら。手のひらからしか魔法は創れないことだ。


 一番から四十九人にはオレの能力はバレてはいないが、五十一番からは知っている。


 それは弱点だ。もし、使徒同士が争うことになったらオレのほうが不利でしかない。


 その可能性がある限り、弱点を補う術と隠す対処を用意する必要があった。


 簡単な対処としては手のひらを隠すこと。体型を隠すローブを羽織り、義手を出すってことだ。


 ローブ内で手のひらの創造魔法を行い、義手から出せば誤魔化せるんだからな。


 まあ、こんな騙しは誰でも考えつくことだろう。おそらく、イビスも理解しているはずだ。何度も神の力を与えていたんだからな。


 ……神の力は鑑定できなくても感じることはできる謎設定。クソが……。


 誰でも考えつくことを許容できるほどオレに度胸はない。怖くて夜も眠れないわ。いや、毎日ぐっすり寝てたけど!


 誰でも考えつくことなら義手は誘いにすればいい。さらに奥の手を持てばいい。そのためのリリーである。


 神の介入には腹が立つが、能力が一つ増えるのは歓迎だ。それは他の使徒よりアドバンテージを得られるだろう。しかも、その能力はイビスしか知らないのだからもうズルである。


 コピー能力でオレはコピーする。残機無限じゃね?


 なんて考えは甘かった。大量の魔力を使ってコピーされたのはオレの肉体だけ。そこに魂はなく、ただの肉人形(心臓は動いてたよ)でしかなかったのだ。


「魂は唯一無二の存在。コピーなんてできないわ」


 と、守護天使様のお言葉。


 がっかりしたものの、バカとハサミは使いようである。


 肉人形。見方を変えればゴーレムだ。なら、オレが影から操らせればいいじゃない、である。


「──なっ!?」


 驚くルジュ。痛みに悶えるわけじゃなく手が吹き飛んだことに驚愕した。


 それはつまり、肉体を変えているわけじゃないってことだ。


「その驚きは自分の能力のヒントを与えているのと同じだよ」


 オレの言葉にルジュは一瞬にして驚愕を引っ込め、左手を突き出した──瞬間に吹き飛んだ。


 説明する必要もなくイビスがやっていることだが、ちっちゃい手によく当てられるものだ。デュークさんも顔負けだな。


「手で触ることにより相手の姿をコピーして纏う感じかな?」


 これが能力を偽るものなら立派だが、今のは咄嗟だ。能力を使って来て慣れがそうさせたのだろう。


「ルジュ。その名前は偽名かな?」


 本当の名前でやってます、ってことはないだろう。能力は考えて選んだはずなら名前を同じにするマヌケじゃないはずだ。


「まあ、名前も能力もどうでもいいの。あなたは何番目なのか教えてくれる?」


 それでオレが神に選ばれた者と言う証明になるはずだ。


「……七十五番目よ……」


「ふふ。ボクが能力を告げてから必死で考えたんだね」


 オレもそのくらいで転生したかったよ。もっと考えれたら手のひらの創造魔法に設定とかつけられたのにさ。


「手のひらの創造魔法を願った人、よね?」


「そうだよ。よくわかったね」


「あなたが消えてから神が褒めてたから、ウェルヴィーア教のことを耳にしたときあなた以外いないと思ったわ」


 あのクソ神に褒められても嬉しくないわ。


「なんとなく、ルジュをボクの近くに転生させた理由がわかったよ」


 オレの補佐をさせようとしたんじゃないかと思う。


「神に選ばれた者に拒否権はない。ルジュも邪神と戦わなければならない」


 逃げられる術があるんなら是非とも教えて欲しいくらいだわ。


「……したくない……」


「うん。その気持ち、よくわかるよ」


 オレだって平和に、おもしろ可笑しく異世界をエンジョイしたいわ。


「でもね、そんなことボクがさせないよ」


 神に選ばれた者は皆平等。皆で邪神と戦いましょう、だ。


「ルジュがのうのうとしている間にボクたちは何度も邪神と戦ってるの。何度も命の危機に瀕してるの」


「わたしだってしてるわよ!」


 この子、本体は女か?


 前世は男かと思ってたが、この叫びからして女のようだ。


「生まれたところは電気もガスもない山の中で、毎日毎日魔物に怯えて暮らさなくちゃならない。食べるものだってない。そんな日々を送りながら邪神となんて戦えるわけないじゃない!」


「だからその能力を選んだわけか。賢いじゃない」


 戦う術じゃなく生き残れる能力。是非とも欲しい人材だな。


自由貿易都市群リビランに蔓延っていた邪神の使徒は粗方片付けた。けど、末端は各地に残り、この町にもいた。ボクが君に接触したことも遠からず知られることになる」


 オレがこっそり教えちゃうんだけどね。


「だから提案。ボクたちの仲間にならない? 今なら幹部クラスで受け入れるし、そちらの条件も飲むよ」


 オレたちは戦いに来たわけじゃない。オレの強さを見せつけに来たのだ。


「本当に?」


「ボクは人との約束は守るよ。神に誓って、とかは絶対に言わないけど」


 クソに誓うくらいならそこら辺にいる虫にでも誓うわ。


「……前世のような暮らしさせてくれる?」


「元の世界のようにインフラが整備された都市を持ってないから前世のようにとは約束できないけど、大抵のものは出せるよ」


「マレイア様たちを助けてくれる?」


「ウェルヴィーア教に改宗してくれるなら聖都グランディールに教会を用意するよ。もちろん、着るものも食べるものも困らせたりしない」


「わたしには、なにをさせるの?」


「神の使徒としての使命をまっとうして欲しいだけだよ」


「わたしの能力は戦い向きじゃないわ」


 うん、知ってる。


「大丈夫。ボクが戦える術を用意してあげるから」


 そのための手のひらの創造魔法ですっ。

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