第200話 罠
あいる・びー・ばっく。
とは言ってないけど、背中がそう言ってイビスちゃんが部屋を出ていって二日。伝道巡回が明日の夕方には着くだろう頃、男の顔になって戻って来た。
「……なにがあったのよ?」
戦争は男の顔をしている、になるじゃないのさ。あ、これが本当の男の娘っ?! な、わけねーか。
「どんな場所にいようと狙い撃つ」
あ、うん、そうですか。それはなによりです……。
「殺してはダメだからね」
弾よけは多いほうがいい。なにより、使徒殺しのペナルティーとか食らうのが嫌だ。
いや、ペナルティーがあるとは聞いてないが、あの神のことを考えるとあると見たほうが納得できるのだ。
使徒は九十九人。世界に均等に配置するなら使徒同士が会うなどまずない。あったとしても各自が動けるような年齢になってからだ。
なのに、オレの近くに使徒がいた。あ、イビスはイレギュラーだと思います。
これには意味がある。どんなかはわからないが、仮に試されていると見るなら、使徒は協力し合えるかどうか、じゃないかと思うのだ。
勘でしかない。勘でしかないのだが、この勘に助けられたこと数多。蔑ろにしてはいけない実績がある。なら、勘には従うのみ、である。
「イビス。使徒殺しはペナルティーがあるかもしれない。だから、殺してはダメだよ」
「つまり、傷をつけるのはいいってことだな」
思考がキチすぎる。まあ、理解が早くて助かるけど。
「相手の能力がわからない。だから、臨機応変に頼むね」
「ん? 変身能力じゃないのか?」
「どう変身するか、本当に変身能力かもわからないよ。相手は警戒してるから発動するところも見せないし」
それだけで相手の用心深さがわかると言うものだ。
「遺伝子による差はあるだろうけど、ボクたちの魔力にそう違いはない。邪神側にも気づかれてないのならレベルは低いはず。なのに、ボクの勘が警戒してる。見張られてるとわかっているだろうに慌てた様子もない。これで考えられる理由は一発逆転の方法があるか能力がとんでもないかのどちらかだよ」
なにより警戒するのはあいつの豪胆さだ。怯えることもせず、自然のままに過ごしている。
「本来持つべき性格か、鍛えられたものか、どちらにせよ厄介な相手だよ」
「つまり、ボスみたいなヤツってことだな」
「ボクは用心に用心を重ねる臆病者だよ」
あいつほど肝は座ってない。不利とわかる前に逃げ出すチキンガールさ。
「キレたら大胆不敵になるヤツがよく言うよ」
それはオレの悪いところ。直せるものなら直したい欠点だよ。
「とにかく。臨機応変に頼むよ」
いくつかの予想はできるが、予想は予想。相手がそれを超えるかもしれない。五十一番目以降のヤツに油断も過信もできんわ。
「万能偵察ポッドはイビスが操作して」
「わたし専用に青く染めさせてもらった。残りはオートにしてくれ」
町に放った万能偵察ポッドは百機以上になる。そのうち青く染められた万能偵察ポッドは十三機か。まあ、イビス専用があってもいいか。好きにおし。
「そんじゃ、接触しましょうかね」
鬼が出るか蛇が出るか。どっちでもいいが、キチだけは勘弁して欲しいわ。
ウェルヴィーア教の本拠地(旧魔女イブリーヌのお店)を出て、しばらくしてイビスが狙撃ポイントへと向かっていった。
町にはもう雪はなく、噴火で降り注いでいた灰も上空で吸い込んでいるから教会まですぐに到着してしまった。
>っとサーモグラフィーをするとヤツは教会内にいた。
いや、二十四時間万能偵察ポッドで監視してたから中にいるのはわかっている。隠し通路も探し出して出入口を見張っているから逃したりはしないが、それでも能力がわからない以上、ネズミ一匹見逃したりはしないさ。
教会は相も変わらずボロっちー。寄付した金は食料にだけ使われていて、教会には回してないようだ。
「こんにちは~! ウェルヴィーア教でぇ~す!」
教会に入り、中にいる三人に明るく呼びかけた。
しばらくして会長さんが現れた。
数日前の昇天間近とは違い、目に活力があり、姿勢もいい。本来は理知的な人なんだろう。うちに欲しいくらいだ。改宗してくんねーかな~。
「ご無沙汰しております。体の調子はいかがですか?」
「お陰様で体調はいいです。御寄付、ありがとうございます」
胸の前で手を組んで頭を下げた。バリューサ教の祈りか?
「人を救い、人を導くのがウェルヴィーア教です。感謝なら神にお伝えください」
もし神に通じたらふぁっくなゆーとお伝えくださいませ。
「……はい……」
皮肉に聞こえたのか、会長さんはうつむきながら答えた。
「今日来たのは、明日には伝道巡回を率いるシスターリンがご到着することをお伝えに参りました。前にも言いましたが、ウェルヴィーア教は邪神の使徒が起こした災いを鎮めますが、町に潜んでいる邪神の信徒を滅することも行います。その際は、ご協力いただけると幸いです」
含みのある笑顔を見せた。テメー、神の怨敵を隠してたらただじゃ済まさねーぞ、ってな。
「マレイア様」
と、あいつが奥から出て来た。
「ルジュ。下がってなさい」
その姿に似合った可愛い声。だが、その年齢にしては不釣り合いな冷静さがあった。
「なにか誤解があるようなので、わたしがお相手します」
不安そうな顔を見せるマレイアだが、ルジュと呼ばれた少女の揺るぎないない笑顔に頷き、奥へと下がっていった。
「初めまして。ルジュと申します。この教会で見習いをしています」
「ボクはシスタースズ。ウェルヴィーア教の信徒です」
ルジュが差し出された手を反射的に握ったら、ルジュの手から慣れしたんだ魔力が流れて来た。
──クソ! これを狙ってたのか!?
と思った瞬間、オレの手とルジュの手が吹き飛んだ。
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