第194話 裏ボス

 教育は一日にしてあらず。千里の道も一歩から。昔の偉人は良いことを言いました。


 けど、今を生きるオレには鼻で笑う戯れ言である。そんな悠長なこと言ってらんねーんだよ。


「ってなわけでシスターナミリーに神の祝福を~」


 シャランラーンとシスターナミリーに魔法をかけてあげた。


「シスターナミリー。これで軽い怪我なら治せるようになりました~!」


「悪魔か」


 悲しいことに神の使徒です。


「いい、シスターナミリー。あなたに与えられた神の祝福はまだ小さい。けど、あなたのがんばり次第で怪我や病気だって治せるようになるわ。だから、町を回って弱き者を癒して来なさい。飢えている人がいるならお腹を満たしてあげなさい」


 と、シスターナミリーを町に出させた。もちろん、一人では可哀想なので白く染めた万能偵察ポッドをつけてあげた。人工知能つきで。


「いきなりは酷くないか?」


「人は挫折して大きくなるんだよ」


 オレだって一から教えて千くらい身につけさせたいよ。けど、邪神の使徒は待ってくれない。それどころか遥か先をいっている。その事実を知ってのんびりしていられるわけないやろ。


 だからと言って急ぎすぎてもダメだ。急ごしらえは歪みを生む。育てるべきところは育てないと弱点になる。ジュアたちが来るまでは基礎を仕込んでおかないとな。


「なら、わたしがついていくよ」


「ハイハイ。お好きにど~ぞ~」


 そう言う優しいところをいじるといじけそうだから軽く流しておく。


 シスターナミリーの妹と弟と料理を振る舞っていると、魔女イブリーヌがやって来た。おひさです。


「なにやってるのよ?」


「布教活動だよ」


 それ以外、なにに見えるのさ?


「わたしには、炊き出ししているようにしか見えなかったけど?」


「弱者救済は神の教え。善き明日へと導くのがウェルヴィーア教の望み。ボクたちは人が人らしく生きる世界を創るのです」


 なんてらしいこと言っておく。解釈はご自由に。


「それで、どうしたの?」


「町長が会いたいそうよ」


「なんで?」


「え? なんで? いや、町長が会いたいと……」


 ったく。どう言う理由でかを聞いてんだよ。メッセンジャー失格だぞ。


「わかった。会うよ」


 料理も尽きたしちょうどいいタイミングだしね。


「ミズニー。ボクが帰って来るまで屋台をお願いね。お駄賃あげるからさ」


「うん、わかった!」


 いい子いい子と頭を撫でてやる。将来、オレのために健やかに育てよ。


 一応、ミズニーに万能偵察ポッドをつけ、魔女イブリーヌのあとに続いて町長のもとへと向かった。


「町長の耳に入るのに十七日か。そこそこにできる町長だね」


 オレの見立てでは二十日くらいはかかると思ってたんだけどな。


「町から雪がなくなれば嫌でも耳に入るよ」


 そりゃそうか。雪を吸えば金をもらえるんだから根こそぎ吸い取るわな。


「それを耳にして町長はなにか言ってた?」


「なにも言ってなかったけど、気にはしてたはね。ウェルヴィーア教のことは噂で入って来てたからね」


 さすが自由貿易都市群ってところだな。こんな田舎の町にも噂が流れて来るんだからな。


 ……それでいて邪神の使徒の情報は入らないんだから嫌になるぜ……。


 役場へと到着して、町長室的なところに通された。


 そこには男が三人。服装から町長、秘書、有力商人、ってとこだろう。


「初めまして。ボクはシスタースズ。お見知り置きください」


 ぺこりとお辞儀した。


「あ、ああ。わたしは、バイドラを預かるダガルだ。こちらはカヌガル商会のビヤーボ殿だ」


 町長の口振りからしてカヌガル商会は大きい商会のようだ。いや、二人の顔、なんか似てんな? 親族か?


 席を勧められ、秘書さん(仮)が出してくれたお茶をいただいた。


 町長さんも九歳の女の子相手にどう切り出していいのかわからないようで、気不味い空気を出していた。


「あ、あの、君はウェルヴィーア教の教徒でいいのかな?」


「正解に言うなら信徒かな? ボクたちシスターはハピネス様の直属で邪神の使徒と戦う役目を持っているの。今回も邪神の使徒を見つけ、根城に侵入したまではよかったんだけど、証拠隠滅とばかりに噴火させられたの」


 まだ噴煙は上がっており、溢れた溶岩もまだ冷えてない。


 まあ、雪吸いで集めた雪を万能偵察ポッドから排出として溶岩を冷ましているけど、被害の規模が大きくて町に来ないようにするので精一杯なのだ。


「邪神の使徒は人の敵。見過ごせば混乱しか生まない」


 窓の外に目を向ける。


「もう十日もしないで神の使徒たるシスターリンがバイドラの町を救うべくお越しくださります。ダガル様以下、バイドラに住む皆様のご協力をお願いします」


 神々しい笑顔を見せてお願いする。


「……は、はい。わかりました……」


 町長としては言うしかないだろう。邪神側と見られたくないだろうからな。


「ありがとう。もし、ウェルヴィーア教の救いを求めるなら遠慮なく言ってちょうだい。人を救うのがボクの役目だからさ」


 まったく、可もなく不可もない町長で助かる。問題は商人のほうか。


 オレの話に驚いたような顔をしているが、オレの目は誤魔化されない。こいつは、バイドラの裏ボスだと、な……。

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