第192話 カミングスーン

 人を統治する。もしくは集団を統治する。


 君ならどう言う手法を選ぶ? 


 義務教育を受けた者なら法律でとか社会体制のうんたらかんたらと口にするだろう。


 そう口にできたら先人の苦労と努力が実ったってこと。偉大なる先人がいたと言うことだ。そんな先人の子孫だと言うことに感謝し、誇りを持って受け継ぎ、未来に受け渡すべきだろう。


 だが、そんなことできる者は希だ。奇跡に近い。大抵はその逆をやる。


 力で人を従え、欲にまみれ、自分の都合のいいように法律を決める。


 オレは別に独裁を否定したりはしない。それも人を統治する方法だからな。まあ、それも混乱した世でなら有効なだけで、世界情勢が安定したら害でしかないがな。


 恐怖で人を支配する。人がよくやる手口だが、オレに言わせれば悪手中の悪手。アンポンタンおバカが自分の首を絞めているのと同じだ。


 一時的には恐怖で人を支配するのもいいが、それは劇薬だ。使いすぎたら身を滅ぼすだけ。使い続けることはできない。


 まあ、なにが言いたいかと言うと、だ。人を統治、または集団を纏め、繁栄させ、人として、集団として力を持たせるには個人個人の人間性を高めるしかないってことだ。


「はい。ご苦労様。お腹いっぱい食べてね」


 雪吸いをしたお子様たちに具たっぷりのシチューとパンを渡した。


「ありがとー!」


 嬉しそうに受け取るお子様たち。


 人間性を高めるためには幼少期からの教育が必要であり、もっと手っ取り早いのはお子様たちを肯定、または認めてやることだ。


 人は愚かだが、学ぶものでもある。感謝されれば嬉しくもなるし、笑顔にもなる。心にゆとりが持てれば他人を肯定できるようになるのだ。


「怖いな、ボスは」


 雪吸い仕事が町に広がり、何百人と従事してから料理手伝いとなったイビスが呟いた。いや、怖い要素、ないでしょ! 心温まる光景でしょ!


「愛と正義の魔法少女、スズちゃんになんてこと言うんだよ」


「いや、自分で美少女とか恥ずかしくないのか?」


 恥ずかしいよ! そんな素で言われたら百億倍恥ずかしいよ! さらっと流すかちゃかして言えよ!


「どんなに見た目はよくとも中身が中身だしな、よけいに残念だよ」


 いやまあ、そうだけど、見た目がいいのは武器だ。美少女は正義なんだからね。


「まあ、男を戦場に駆り出すにはいいかもしれんけどな」


 人聞きが悪いな~。とは言わない。戦争屋(仮)なだけにオレがしていることを察しているのだろう。たまにバカになるヤツだが、人の狂気には敏感そうだしな。


「命を懸けるなら理由があったほうがいいでしょ」


「そうだな。わたしも理由があったほうが戦いやすいな」


「ウェルヴィーア教は生きるための宗教。神の名のともに死んで来いなんて絶対に言わないし、させないよ」


 あんな神のために命を捧げてたまるか。生きて生きて生き抜いて、人生をまっとうしてやるわ。


「だからボスは怖いんだよ。他人を喜んで死地に向かわせるんだからな」


 いや、だからさせないって言ってるじゃん。あんな神に生け贄に出すのも惜しいわ。ケダモノなら捧げてやるけどな。


「今日はやけに絡んで来るね。アレが始まったの?」


 オレたち九歳。始まってもおかしくない年齢である。まあ、魔法で改装してるから始まったりはしないけどね。ガールズジョークだよ。


「止めてくれ。考えただけで頭を撃ち抜きたくなるわ!」


 おぞましいとばかりに震え出すイビスちゃん。それを他に言っちゃダメだからね。違う意味でバンされちゃうからさ。


「ってか、いつまでこんなことをしているんだ? こんなことで町を掌握できるのか?」


「イビスに良いことを教えてあげよう。奇跡は起こるものじゃない。起こすものだ! ってね」


 何人も言ってそうだけど、いや、良い言葉だから何人も使ってるはずだ。奇跡を望むヤツには絶対奇跡なんてやって来ないんだからな。


「リリー。ボスはなにを言っているんだ?」


「もうすぐわかるわ」


 守護天使の啓示が下り、七、八歳の女の子がオレたちの前に現れた。


 身なりや痩せこけた顔からして貧しい家庭の子だろう。予想通りで笑いたくなる。


「……あ、あの、お母さんを助けて。病気なの……」


 小さな町とは言え、人が住む場所には貧富の差は生まれる。


 雪に閉じ込められれば食事を取ることも難しく、抵抗力が衰え、病気になることは火を見るより明らかだ。


 雪吸いはエサ。町から雪がなくなれば人は外に出る。人が外に出れば会話が飛び交う。飛び交えば最貧民の耳にも届く。


 給金を与えるばかりか温かい食事も与える。そんな人ならもしかしたら助けてくれるだろうと思うはずだ。


 その読みは今、正解と示された。


 女の子の前に移動し、その冷たい手を取り温めてあげた。


「よく頑張りましたね。あなたの願いは神に届きました。ウェルヴィーア教が全力をもってあなたと、お母さんを救い、導くと約束しましょう」


 今ここにウェルヴィーア教が奇跡を起こす。カミングスーン。


「喜劇が始まるのね」


 心温まる感動のヒューマンドラマです。

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