第191話 パラッパー
町を掌握する。
誤解されると困るが、掌握とは支配ではない。オレの──いや、ウェルヴィーア教を受け入れさせ、根づかせることである。
「トップを洗脳するのかと思ったよ」
「ボク、ケダモノ以上に意思のない人形が大っ嫌いなの!」
人を人たらしめるのは自由意思があることだ。操り人形など侮蔑する存在であり、操るヤツは万死に値する。
「民衆は愚かなれど力なり、だよ」
確かにトップを押さえれば町を支配できるが、それは悪手だとオレは思う。効率はよくないし歪みを生むだけである。
「トップを動かしたければまず民衆を動かせ。利と幸を与えろだ。ってことで雪かき──ではなく、雪吸いをします!」
パラッパー! 吸引器~!
「ミカン。あの子たちを連れて来て。雪吸いをさせながらね」
戦奴町の地下牢にいた獣人の子らだ。
まだ警戒しているようだが、ミカンには心を開き始めている。そろそろオレのために働いてもらおうじゃないか。
「ミアさん」
あ、魔女さんの名前ね。
「町の有力者と繋がりはある?」
「そんな強い繋がりはないよ。わたしはそう言うの苦手だからさ」
「細くても繋がりがあるならいいよ。どうせあちらから繋がりを得ようとして来るからね」
よほどのバカでなければ見過ごすなどしない。もしするようなバカなら遠慮なく排除してやるまでだ。
「町長に悪いウワサとかある? それか善いウワサとか?」
「いや、善くも悪くもない町長だけど?」
なら安心か。
「それがなんなんだい?」
「悪いウワサなら無害。善いウワサなら有害。ないのなら安全なだけだよ」
「意味がわからないのだけれど?」
だろうね。オレの勝手な価値観だし。
「邪神のことは知ってる?」
「ま、まあ、邪教が魔物を生み出してるとか、世界を混乱させてるとかは聞いてるが……」
「ボクたちがここに来たのは邪神の使徒に一杯食わされたから。秘密を突き止めたと思ったらあの噴火で証拠隠滅。危うく殺されかけたよ」
思い出すだけで目からビームを連発したくなるぜ。
「邪神の使徒がいたところとここは近い。なんらかの繋がりがあると考えても不思議じゃない。その繋がりがどこかはわからないけど、町長には繋がってはないようだ」
「だからなんでだい? 意味がさっぱりだよ」
「ボクが邪神側なら町を掌握しておくし、悪いウワサで目をつけられたくないよ」
「それなら善いウワサでも同じじゃないないかい?」
「偽善の裏に悪さあり。見つけてくださいと言ってるようなものだよ」
「それなら善くも悪くもないのは?」
「だったら最初から町長に繋がる必要はないよ。仮に繋がっていて、邪神の影を隠し通せてる。それ、もう邪神の使徒だよ」
それなら願ったり叶ったり。わざわざ手がかりを残してくれてるんた、ありがたくいただきます、だ。
「あれだけの設備をあっさり捨てるヤツだよ。消すなら町ごと消してるよ」
オレなら嫌がらせのために邪神の揺り籠を町に放つね。
「この子は悪魔かしら?」
「悪魔より酷いなにかだよ」
失礼な二人だな。オレは天使より優しい女の子ダゾ。
「とにかく、ミアさんは町の有力者にウェルヴィーア教が伝道巡回に来ると伝えて。ボクのことも」
「あなたのことはどう伝えたらいいのよ。名状しがたいわ」
なんだよ、名状しがたいって? いや、名状しがたいか? 名もない魔法少女だし。
「なら、魔法教義会からの情報にして。ボクはウェルヴィーア教の先遣隊だと伝えてよ」
ウェルヴィーア教の白いローブにマジカルチェンジ。帽子も白に。シスタースズのできあがりっと。
「なんなの、この子?」
「人を超越したなにかだよ」
「ボクは人の中の人だよ!」
さっきから失礼だよ、君たち。オレほど人らしい人はいないわ!
「漫才してないでボクらもやるよ」
吸引器を出してイビスに放り投げる。
「なにするんだ?」
「町から雪をなくすの」
「意味がさっぱりなんだが?」
「町に雇用を生んで、ウェルヴィーア教の存在を示すの」
益々わからないとばかりに眉をしかめるイビスちゃん。わからないなら素直に従えよな、まったくよー。
「長い冬を乗り切るには、秋に食料をかき集めなくてらならない。けれど、まだ春は遠い。そんなときにウェルヴィーア教が雇用を生み、伝道巡回が物資を運んで来る。新鮮な野菜や肉、衣服などなど。人情として欲しくなるよね。買いたくなるよね。ついでにウェルヴィーア教に入信とかなったら最高だね」
まあ、そう言う方向に持っていくんだけどね。
「ミアさん。知り合いにお小遣い稼ぎがしたい人がいたら紹介してよ。紹介料払うからさ」
支払いは現金でも現物でも構いませんぜ。クフフ。
「……まったく。とんでもないのを押しつけられたものだわ」
なんてことを言って知り合いに声をかけに出ていった。たくさん連れて来てね~。
「イビスもよろしく。あと、求人募集もよろしく。受付はこっちで引き受けるからさ」
コミュニケーション力が低くてもそれくらいはできんだろう。
「やれやれ。人遣いの荒いボスだよ」
吸引器を担ぎ、店の外へと出ていった。
「リリー。吸引器のコピーよろしく」
「あーあ。ハピネスの守護天使になりたかったわ」
それ、守護対象に言っちゃダメなやつ。
なんて守護天使の愚痴など右から左にさようなら~。オレも働いてくださる方々のために温かく美味しいものでも作りますかね。
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