第152話 ハピネス編 5
空が秋の様子を見せる頃、孫がやって来た。
「お久しぶりです。あのときは名を告げませんでしたが、わたしは、グリュー・バトランと申します」
あ、そう言う名前なんだ。シスターリンは何年もの間、名前を知らずにやってこれたものよね。気にならなかったのかしら?
「ええ。お久しぶりですね。わたしも礼儀として名乗っておきますわ。ハピネス・グランディールと申します。よろしくお願いしますね」
にこやかに笑って数ヶ月前にできなかった自己紹介を交わした。
シスターリンとは違い、わたしはにこやかにやっていくのを方針といたしますわ。オホホ。
「シスターリンから連絡は受けております。グリュー様は聖都グランディールへ移住してもらえるとか。本当によろしいのですか? 今までの地位がありますのに」
なんでもアルイン貿易都市の議員を辞職したとか。よく決断したこと。シスターリンに馬車馬のように働かされる未来しかないのに……。
まあ、聖都グランディールはわたしの管轄なので馬車馬のように働かせるのはわたしなんだけど!
「わたしにも野望がありますので」
シスターリンに鍛えられたようで、少しは男の顔になったようね。お気の毒に、としか思わないけど。
「ふふ。シスターリンがあなたを気に入るわけです。頑張って野望を叶えてください。わたしも協力いたしますので」
丸投げとも言いますけどね。
「あなたには都市政庁を任せたいと思います。市長として手腕を振るってください」
「わ、わたしが市長、ですか!?」
驚くこと? そうする前提でシスターリンはあなたに働きかけていたのに。
「ええ、あなたにですよ。聖都グランディールとともに成長していってください」
グリュー様はまだ二十代。あと四十年は元気に働ける。望むならさらに二十年延長でも可ですよ。
「ありがとうございます。神に恥じぬ仕事をさせていただきます」
胸に手を当てて頭を下げた。
「はい。神はあなたの働きを見守っています。人々を守ってください。あなたの決断をわたしは全面的に肯定します」
酸いも甘いもあるのが人の営み。手を血で汚すこともあれば恨みを買うこともある。聖人君子ではいられないわ。
逆にわたしは聖人君子でいなければならない。手を血で汚すこともできず、恨みを買うことも許されない。代わりにやってもらわないとならないのだ。
「……理解ある神で助かります……」
こちらは理解ある政治家で助かるわ。
「皆様のために仕事場を用意しなくてはいけませんね」
グリュー様は八十人ほど連れて来てる。
よくもまあそれだけの人数が誘いに乗ったものだと呆れてしまう。チャレンジャーってどこの世界にもいるものなのね。
政庁は今区画開発している隣の区画に造ることにした。
「将来、人が増えたら別の区画に適した政庁を造ります。今はこれで我慢してください」
ちょっとした村役場な感じの政庁を手のひらの創造魔法で創り出した。
「住む場所はもう少し待ってくださいね。神の奇跡も人の世界では限りがありますので」
やることいっぱい気苦労いっぱい。生身だったら血を吐いているところだわ。日に日にココアの量が増えてるのに……。
「そうですね。神の奇跡にばかり頼っていては人としてダメになりますからね」
わたしは苦労知らず、お気楽極楽で生きたいものです。無縁な人生になりそうだけど!
「では、お願いしますね」
わたしに都市運営はできない。と言うか、そちらまで手が回らない。来年までには神殿を形にしなくてはならないわ。
お布施と言う名の魔力を集める。
災害計画を打ち破った今、邪神側は闇に隠れるでしょう。
一年二年では仕掛けて来ないでしょうが、嫌がらせはして来るはず。それを払うのはシスターリンの役目だけど、対抗する拠点を築くのはわたしの役目。邪神側にいいように人生を狂わされたりしないわ。
わたしは、シスターリンに造られた命ではあるけど、生まれたからには生きなくてはならない。
それに意味を求めても無駄。無意味よ。人は生きることに意義を見つけてこそ人だわ。
わたしは人。人ならば幸せを求めて生き抜く。
さあ、わたしの戦いはこれからよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます