第151話 ハピネス編 4

 シスターリンのところから第一陣の移住者たちがやって来た。


 小さい者もいるので十三日ほどかかったが、安全で無理のない行程だったようで、脱落者はおらず、皆元気であった。


「よく来ました。あなたたちを歓迎します。しばらくは旅の疲れを癒してください」


 すぐに働けと言うほど非道ではありません。シスターリンではないのだから。


「しばらくはテント暮らしですが、食事は欠かさず出すので安心してくださいね」


 初夏だから凍えることはないでしょうし、寒くてもアイテムボックスに薪がたくさん入っている。しばらくは大丈夫でしょう。


 三日ほど休ませたら神殿(建設中)の周辺を整地してもらう。


 獣人族やドワーフがいるので力仕事でも不平を言う者は少ない。その不平を言う少数も夕食にお酒を出したら淘汰されてしまったわ。


 亜人──とは差別用語ですが、それに代わるものがないので、心の中で亜人と称させていただきます。良い総称が出るまではごめんなさいね。


「よく働いてくれて助かります」


「ここが我らの安住の地となるのです。怠けてはいられませんよ」


 バリューサが答え、サリッサが同意の頷きをする。


 あれから二人の態度は柔らかくなり、わたしを人として見てくれるようになった。とは言え、信徒の前では空気を読んで凛としていて、神の娘として接してるわ。


「そうね。自分の居場所は自分で築かないとね」


 わたしもわたしの居場所を築くために頑張らないとね。


 最大の味方になるだろうオバチャーンたちと混ざり、皆の食事を作り、皆に振る舞い、皆と一緒にいただく。こうして仲良くなると、同じ釜の飯を食うとは真理だと思うわ。


 仲良くなるのは良いのだけれど、整地の進みは遅々として進まないのが困ったものよね。


 第一陣で来たのは百人ほどで入信した商人も数十人いる。村なら十二分にやっていける人数であるけど、大都市だった場所を開拓するには焼け石に水でしかないわ。


「これは考えを変えたほうがいいわね」


 都市を造ろうなんてそもそもが間違い。無謀だったのだ。


「どうするの? シスターリンに相談する?」


 わたしの肩に乗り、親身になってくれる木蓮もくれん。脳裏に恨みがましいリリーの顔が浮かぶけど、無慈悲に振り払います。わたしの守護天使は木蓮だけなのだからね。


「無茶振りされる未来しか見えないわ」


 と言うか被害者の顔しか頭に浮かばないわ。


「……そ、そうね。自ら地獄に堕ちる必要はないわね……」


 守護天使に地獄と言わせるシスターリン。滅ぼすべきは誰なのかと考えてしまうわたしは悪くないと思う。


「都市と考えるのではなく、一区画と考えましょう」


 聖都グランディールが人で溢れるのは何十年も先。今年中にはどう足掻いても無理なのだから二百人規模が暮らせる区画に絞りましょう。


 まず神殿から百メートル離れたところを手のひらの創造魔法で整地し、そこを在住地と決めた。


 神殿に続く道を決め、区画の中心に五十人は入れる教会を建てる。


 しばらくはわたしがここに住み、開拓の司令部とする。身の回りを世話をする女の子四人も住まわせ、おばさまたち何人かに通いで来てもらう。


 女の子たちはシスターと巫女的な立場に。通いのおばさまたちは修道女的な立場にする。


 教会──第一区教会と命名。なぜか皆から始まりの教会と呼ばれてます。


 男たちには神殿周りの整地を続けてもらい、商人たちの店を表通り沿いに建ててあげた。


「ハピネス様。ありがとうございます」


 商人の代表たるダンリュさんが胸に手を当てて一礼をした。


 ……シスターリンが決めたことらしいけど、平伏されたり敬われたりするのが本当に嫌いなのね……。


「お礼なんていりませんよ。あなたたちには聖都グランディールに物資を運んでもらわないといけないのですから」


 信徒だけで都市は回らない。商人も必要だ。魔力を求めると同時に経済も求めなくちゃならない。


「我々は行商です。そう大量には運べませんが……」


「急がず気負わず聖都グランディールと一緒に大きくなりましょう。あなたたちかの働きに神の御加護がありますように」


 商人たちに祝福の光を与える。効果はゼロ円だけど。


 やる気に満ちた商人たちは、力を合わせて一番近い都市に商品仕入れに出かけていった。


 野盗や魔物に襲われても困るので、グランディール傭兵団に護衛を依頼した。


 兵団すべてを聖騎士にすると汚れ仕事ができなくなるため、ガイオーグたち元戦奴にはグランディール傭兵団として活動してもらうことにしたのだ。


「ガイオーグ。よろしくお願いいたしますね」


「はい。お任せください」


 元王国の戦士団を率いてただけあって、ジェスより風格があって団長っぽい。


「もし、ウェルヴィーア教に入信したいと言う者がいたなら迎え入れてください。わたしやシスターリンが全力で守りますから」


 戦奴や虐げられている亜人がいるなら助けろとの意味を込めて。


「はい。お任せください」


 わたしの目をしっかり見て頷いた。


 亜人を助けるのが自分の使命と思っているらしく、意気込んでいるのはわかるが、無茶だけはしないで欲しい。敵は増やしたくないからね。


「あなたたちに神の御加護がありますように」


 出発する一団に祈りを捧げて見送った。


 はぁ~。生まれたばかりなのにこんなに働かせられるとか堪らないわ。チートでイージーな人生を送りたかったわ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る