第150話 ハピネス編 3
人が生きるには衣食住が大切だと、誰かが言った。
その言い分にはわたしも賛成よ。けど、社会的基盤がないところで衣食住が大切だと言われても苦笑しか出ないわ。
「……シスターリンも面倒なことを押しつけてくれるわ……」
なんて愚痴が出てしまうのも許されるはずだわ。なんたって一から都市を造れと言ってるんだからね……。
「と言うか、まずあの大穴を塞がないといけないわね」
なんの大穴か調べるのはこの際あと。万能偵察ポッドを配置しておくしかないわ。はぁ~。
直径百メートルもある大穴をとりあえず塞いだ。
「塞ぐだけでは不安ね」
不確定な情報だけど、大穴は地下迷宮とか。そこになにがいるかわからない。大型魔物とか飛び出して来たら困るし、池にでもしようかしら?
「結構、魔力を使ったし、あとでいいわね」
わたしの魔力量は多いだけに回復するのに時間がかかる。半分を過ぎると八時間は眠らなくちゃならない。もちろん、食べる量も多くしないと回復も遅いわ。
まったく、そこは都合よくはならないのが悲しくなる。シスターリンの記憶にやたらココアがあるのはそのせいね。なんだかわたしもココア漬けになりそうだわ……。
急ぐことは多々あるけど、わたしの魔力も有限。休み休みやらないと却って遅れてしまうわ。
「二人も休みなさい」
護衛の二人にも魔力回復薬ではないココアを出す。護衛と言っても聖都グランディールには万能偵察ポッドを千以上放ってある。これらの目から逃れることはできないでしょう。
「護衛が休むなど……」
「そうです。なにかあったら皆に顔向けできません……」
無理はないとは思うけど、堅苦しいのも息が詰まるのよね。
「人が増えればわたしの護衛は増やすし、交代できるようにもなります。あなたたちには隊長になってもらうでしょう。そのとき、わたしの意向を察してもらわなければいけません。わたしを籠の鳥にしないでちょうだい」
わたしもシスターリンと同じで戦いに身を晒すなど性分ではないが、たまには外に出たい。閉じ籠ってばかりでは精神的に参ってしまうわ。
「あなたたちには神代の人と見えるでしょうけど、器は人なの。人の心を持っているの。怒りもすれば笑いもする。そのことを身近なあなたたちが知っていなければわたしは壊れてしまうわ。あなた方が守るのはわたしの命だけではなく心も守らなければいけないのよ」
聖都グランディールを造るだけじゃなく、周りの人も教育しなければいけないとか、一人でやる仕事量ではないわよ……。
「もちろん、わたしもあなたたちのことが知りたいわ。これからわたしの命と心を預けるのだもの、どんな人か知っておきたいし、仲良くなりたいわ」
なんて感極まるサリッサとバリューサに柔らかく微笑む。
中から崩壊とかごめんだわ。人心把握はしっかりやっておかないとね。フフ。
二人との距離を縮めながらコツコツと聖都グランディール造りをしていると、周辺を警戒していた者から近づく者がいると連絡が入った。
万能偵察ポッドを向かわすと、商人風の集団だった。
「行動が早いこと」
じーちゃん……ん? 名前なんて言ったかしら? シスターリンからの記憶にないのだけれど? 孫も孫としてか記憶がないわ。
……シスターリンってバカなのかしら……?
「ハリュシュ。聖都グランディールには入れないで。入れろと言って来たらウェルヴィーア教に入信をしろと伝えなさい。それでも納得しない場合は、聖都グランディール周辺も開拓するつもりだと教えて」
聖都グランディール内だけで完結はできない。食料も手のひらの創造魔法では追いつかない。内に田畑を造る必要があるわ。そうなると聖都外に発展を求めることになるでしょう。
「聖都グランディールの外は早い者勝ちよ」
それだけ言えば先を読める商人なら納得して、精力的に動くでしょうよ。
読み通り、やって来た商人はその言葉に奮起して、我先にといい土地を争うように決め始めた。
「ハリュシュ。ウェルヴィーア教に入信した者はいたかしら?」
優遇されようと入信する者はいるはずだ。
「はい。いました」
「なら、
「よろしいのですか?」
「信徒に差別はしないわ」
まあ、区別はするだろうけど。
「内政や事務をやれる者も育てないといけないか」
はぁ~。優先順位が揺るぎそうだわ。
「あ、教会を造らないとダメだったわ」
祈りを捧げる場所がないと喜捨(と言う名の魔力)がいただけないわ。今は皆の祈りが必要なのよ!
「いえ、区画整理が先かしら?」
もー! やるんなら計画くらい考えてて欲しかったわ! シスターリンって行き当たりばったりすぎるんだから!
頭が混乱しそうなのを必死に抑えつけ、教会を建てる場所を考えた。
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