第146話 御加護
「リン様。聖都グランディールへの第一陣の人選が終わりました」
宣言してから四日目の夕方。ジェスが報告に来た。
移住はすべてジェスに任せている。戦いしか知らない英雄など使い道に困る。人を纏めて使うことを覚えてもらわんと今後に支障が出るわ。
「わかった。準備が整い次第出発して」
兵員――聖騎士はアイテムボックスを持っているのでそう大変ではないはず。万能偵察ポッドもつけるので旅路に支障はないだろう。
「わかりました。明日か明後日には出ます」
「うん。ハピネスを支えてと伝えておいて」
聖都グランディールではハピネスが神殿創りに勤しんでいる。雑務をやってくれる者は早急に必要だ。
「はい。わかりました」
ジェスが下がると、町からばーちゃんがやって来た。あ、久しぶり。
「……お前さんが使徒とはね……」
呆れるばーちゃん。だが、態度はいつもと変わりはなかった。年の功と言うやつかな?
「リンはリン。使徒は便宜上そうしてるだけ」
ばーちゃんもオレが使徒だからと言って態度を変える性格ではないだろう。それどころか使徒であることを利用する強かさがあるババアだ。
「ふふ。確かにお前さんはお前さんだね」
なにか含みのある笑みを浮かべた。
欲があり裏のある人間がこんなにも心地好いと言うのも変であるが、狂信者予備軍を相手にするよりは楽である。と言うか、こう言うのと付き合っていきたいよ……。
ばーちゃんに席を勧め、ワインを出してやる。
「ここを離れるのかい?」
「来年まではいる。そのあとはウェルヴィーアの教えを広めるためにいろいろ回る」
「神の教え、ね。御利益はあるのかい?」
その問いに、
「それに祈りを捧げれば健康でいられるし、神の御加護が得られる」
ウェルヴィーア教はお布施は要求しない。皆様の祈りをいただくだけ。皆様の祈りが世界を救うのです。
「……祈り、ね。どうせお前さんのことだから魔力を奪おうってんだろう……」
さすがばーちゃん。お見通しです。
「使えない神を持つと使徒は苦労する」
「ふふ。お前さんみたいな使徒を持つ神のほうが苦労してそうだけどね」
と、ばーちゃんの手にある聖紋が輝き、全身を包み込んだ。なによ!?
「主より汝に御加護が与えられた。よき人生を送るがよい」
はぁ? 御加護? なんだよそれ?!
輝きが消えると、そこに三十前後の美女がいた。
「……ば、ばーちゃん……?」
枯れ草色の髪が若草色に変わり、しわくちゃな顔が艶やかな顔になり、張りと艶のある肌となった。
「……い、いったいなにが起こったんだい……?」
「主を労る信徒への御加護よ。主に感謝し、大切になさい」
リリーが手鏡を出してばーちゃん――と言ったらダメか? ってか、ばーちゃん名前なんだっけ? ミ、ミ、ミラ? ミロ? ミタ? なんだっけ? ってか、いきなり三十歳も若返らせるとか罰でしかないだろう!
「どう説明するの?」
「神の奇跡でいいじゃない」
それで納得されたらこの世界に異議申し立てするわ! 却下されそうだけど!
「まあ、リンが説明すればいいじゃない」
んなアホな! と思ったけど、説明したら納得された!
それだけではなく、娼館の者がウェルヴィーア教に入信。それが他の娼館にも伝わり連日入信希望者が長蛇の列。新緑が芽吹く頃にはダリアンナの町はウェルヴィーア教を信じる者で満たされましたとさ。
「……人とは愚かだな……」
イビスは呆れてるが、人なんてそんなもの。いや、人らしくて微笑ましいもんだわ。
「そんな愚か者を救うのが宗教」
「食い物にするの間違いだろう?」
「この世の糧に感謝を込めていただきます」
神には頭を下げたくはないが、魔力をくれる者には頭を下げて感謝するし、還元もする。神に感謝する場を創ってあげましょうかね。
川向こうに祈りを捧げる教会を創り、祈りだけでは物足りないって人のために賽銭箱を置いてあげた。
「ふふ。いい商売」
「すべての宗教に全力で謝れや」
「儲かってごめんなさい」
イビスの進言に従って全方位に謝罪させていただきました。
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