第145話 人に恥じぬ人となれ
「グランディール傭兵団の本拠地を変える」
広場に集まった面々にそう告げた。
ジェスを通じて広めてはもらってたが、半信半疑だったのか、オレの言葉にざわめきが走った。
皆が黙るまで先生も黙ってます。とばかりに静まるまで待った。
広場にはグランディール傭兵団の関係者ばかりではなく、ここに住み着いた亜人たちもいる。
今さらではあるが、亜人は差別用語だ。使うのは控えるべきなのだが、それに変わるものがなかったりする。
すべてを人間と統一したいのだが、それはそれで問題があったりする。
……種が違うって本当面倒臭いわ……。
この世界、異種族交配はできない。ハーフがいるとも聞かないからそれは正しいのだろう。
種が違えば体の構造も違う。将来を考えたら一緒くたにはできない。朱に交われば赤くなるとは違うのだ、区別はしっかりとしておかなければならない。特に医療をどうにかしようと思うなら、な。
人種差別もそうだが、種族差別が根づいた世界で区別をするのはベリーハード。もう力で支配するしかないじゃん。
そんな苦労しかない未来に胃を痛めたら、いつの間にか場が静かになっており、全員がオレを見ていた。
「リンは神の使徒。この世界に慈愛と幸福をもたらさなければならない」
でないとオレの未来は真っ黒クロスケだわ!
「けど、それは苦難の道。邪神は強く、世は理不尽。慈愛と幸福を得るためには血を流さなければならない。血を浴びなければならない。泣くだろう。挫けるだろう。後悔するだろう。生きてる意味を見失うだろう」
逃げられない戦いがここにある! とか、マジクソである。
「──それでもおれは戦う! 苦難の道を歩んでやる!」
右横に立つジェスが叫んだ。びっくりしたー!
「おれも戦うぞ!」
「わたしも戦うわ!」
「戦ってやるさ!」
残留組だった者が叫ぶ。
オレが狂ってたら喜ぶところだが、まともな状態では胃が痛いだけである。
「戦う者は聖都グランディールへ向かえ。その地にて慈愛と幸福の守護たる聖騎士となり、ウェルヴィーア教信者を導くがいい」
さすがに傭兵では醜聞が悪いし、建前は必要だ。聖騎士にして聖都グランディールを守ってもらおうではないか。
「ウェルヴィーアを信じる者は厚く庇護する。世の悪意から守ると誓おう」
手のひらの創造魔法で太陽の形にハピネスの顔を模したペンダントを創り出す。聖紋
「ともに歩む者は聖紋せいもんを取れ。それを以てウェルヴィーアの信徒とする」
今ならタダですよ~。取っちゃいって☆
「リン様。おれはウェルヴィーアの信徒になります!」
オレの前に跪いたジェスが両手を差し出して来た。
ジェスってこう言うことを素でやれるからスゲーよな。優柔不断なのにやるべきときに適切なことをやれるんだからよ。
「あなたにウェルヴィーアの祝福があらんことを」
聖紋をジェスの首にかけてやる。
「ありがとうごさいます。この命、あなたに捧げます」
ジェスが持っているグランディールの槍を奪い、柄で肩を叩いてやる。
「忘れるな。自分の命は自分のためにある。他人に命を捧げるな。自分の意志で自分の命を費やせ」
「はい!」
まったく、狂信者にさせないようにするのが大変でしかたがないわ。
「リン様! おれもウェルヴィーアの祝福をください!」
「わたしもウェルヴィーアの祝福を!」
神がいる世界は信者勧誘も楽である。まあ、聖紋を配るのが大変だけど!
集まった数が数なのでその日だけでは終わらず、次の日も聖紋配りに費やされてしまった。
……いつの間に五百人も集まってるとか、集まりすぎだわ……。
やとこさ配り終わり、一日開けて朝からまた広場に集まってもらった。
「聖都グランディールへと移住してもらう。ここは、ウェルヴィーア教の聖殿を建てグランディール傭兵団の支部を置く」
ってことを説明するが、なかなか納得してもらえず、ここに残りたいと言う者が結構いた。
ここで命令してもいいが、不満を持たれても面倒臭い。徐々にやっていくことにする。
「リンは来年、ウェルヴィーアの教えを広めるために伝道巡回へと出る」
信者勧誘の旅であり、ウェルヴィーア教の教域を広め、邪神の動きを抑え込むのが目的である。
「一人の力では世界に慈愛と幸福は満たせない。それぞれが求め、努力し、広めなくてはならない。ウェルヴィーアの信徒よ、成すべきことをせよ」
教典とかも作らなくちゃならんな~。面倒臭い。隣人を愛せとかでいいか? 変なのにして悪質教徒になったらイヤだしな。
「ウェルヴィーア教にケダモノはいらない。人に恥じぬ人となれ!」
ほんと、悪質教徒にはならないでね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます