第144話 天然?
なにも考えず寝て起きたら次の日になっていた。
時計を見れば十時過ぎている。この世に生まれて初めての寝坊であった。
「おはよう」
リリーが現れ、濡れタオルを差し出して来た。
頭が働かないながらも受け取り顔を拭く。ふぅ~。さっぱり。
「誰か起こしに来た?」
「誰も来なかったわ」
オレは一人部屋でリリーと寝ている。いや、リリーは寝ないけど、オレから離れないから仕方がないのだ。
……呪いの人形かな……?
「守護天使です」
リリーの突っ込みは無視して風呂場へと向かった。
すっきりさっぱりお目々ぱっちりで居間にいくと、ばーちゃんが朝食兼昼食を用意してくれてた。
「ありがとう」
ばーちゃんに礼を言っていただきます。そして、ごちそうさまでした。とても美味しゅうございました。
これまでならすぐに仕事場(あ、四阿ね)に向かうのだが、一段落ついた今は慌てる必要はない。いや、やることはいっぱいあるよ。だけど、ハピネスにも任せてるからゆっくりできる時間があってもいいじゃない、だ。
なにもせずゆっくり飲むミルクティーの美味いことよ。このまま……いや、止めておこう。下手な幸せ発言は死亡フラグに繋がるしな。
「ばーちゃん、今の暮らしはどう?」
向かいの席(掘り炬燵となっております)で縫い物をしている。人が増えたから服や下着が追いついてないのだ。
「うん? ええ、楽させてもらってるよ」
「そのうちグランディール傭兵団の本拠地を別の場所に移すことになる。もし、ばーちゃんがいきたくないのならここに残ってもいい。ここはグランディール傭兵団の支部とするから」
ってか、ここの正式名がねーや。あ、魔女の町とかは却下ですから。
「それなら残るよ。この歳で新しいところに移るのも辛いからね」
ばーちゃん、見た目は七十くらいだが、年齢は六十二。オレの優しい魔法で健康な体だから五十代の体力だろう。しかし、精神のほうは若くならず、完全に老人な思考だった。
「わかった。リンはまだいるからよろしく」
「こちらこそよろしくね」
ミルクティーを飲み干し、仕事へと意識を切り替えた。
……ってか、生き残ることが仕事とか泣けて来るぜ……。
外に出ると、チビッ子どもが壁となっていた。
「ねーね!」
「リンねー!」
と、チビッ子どもの津波が襲いかかって来た。
レベル12(ティラウス退治で1上がりました)の体なのでチビッ子どもが何百人と襲いかかろうとびくともしないが、頭の上までまとわりつかれると鬱陶しくてしょうがないぜ。
振り払うのも危険なのでされるがまま。チビッ子どもが飽きるまで待つことにする。
いつもなら二十分もすれば落ち着くのだが、今日は三十分経っても静まらない。うっぷんが溜まってたか?
「リンねー。お仕事終わったんでしょー! 遊ぼう!」
「遊ぼー遊ぼー」
そんな暇はないと、いつもなら魔法のシャボン玉に包んで放り投げるのだが、今日は魔力と体力は余っている。それに昼食後まで時間もある。相手してやるか。
なんて甘い考えでした。健康体のチビッ子どもの体力は底なし。しかも三十人近くいるから休む暇なし。ティラウスを相手するより過酷であった。
……オレはどこでフラグを立てたんだ……?
昼になってやっとチビッ子どもから解放され、四阿の手前で事切れた。
「なんの殺人事件だ?」
「ガウガウ」
「すまんな。当たり前のように答えられてもわたしに熊の言葉はわからんよ」
「ガウガウ」
「お前さん、どんだけボスに改造されてんだよ」
「ガウ~」
うん。君たちが仲が良いのはわかった。だから助けてくださいませ。
レベル12なのになんでこんなに衰弱すんのよ? マジであり得ないんですけど!
シルバーに雑に転がされ、イビスに首根っこつかまれて四阿のベンチに寝かされた。
「回復薬、飲むかい?」
ハイ、飲みます。と、メロン味の回復薬を飲ませてもらった。
「……酷い目に遭った……」
オレの人生、酷い目にしか遭ってないけどな。
「ボスって時々バカになるよな。天然?」
違う! と言えない自分がいる。オレ、本当に天然なの?!
「まあ、やるときはやるからいいけどな」
そう言っていただけると助かります。
「それで、今後はどうするんだ? 事前に教えてもらえると助かるんだが」
本当ならイビスには聖都グランディールにいて一軍を率いてもらいたいのだが、性格的にイビスはワンマンアーミー。率いたとしても十人以下でないと効率が悪くなるはずだ。
「大多数を聖都グランディールに移す。本拠地を移せば商人も徐々に移っていく。そうなったらここは支部兼ウェルヴィーア教の教会とする」
ウェルヴィーア教の聖地としてダリアンナの町を潤すことにする。柵しがらみを大切にするって大変だぜ。
「来年の春まではここにいる。イビスは銃を出して。無理しない程度でいいから」
銃の製造工場を創るのでイビスに頼ることはない。が、念のため銃を出すことはしてもらう。出して損はないからな。
「……ボスの優しさが怖いんだが……」
「リンはいつだって優しいよ」
「……ボスは、優しいをなにかと履き違えてると思う……」
それは受け取り側の主観。けどまあ、優しさはときとして残酷とも冷徹とも受け取られるときがあるからな、アドバイスとして受け取っておくよ。
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