第147話 ウェルカム

 夏だなぁ~と思う頃、じーちゃんと孫がやって来た。遅かったね。


「すまんな。纏めるのに時間がかかった」


「それでも纏められたんだからさすがだと思う」


 いきなり「あなたは神を信じますか?」なんて言うぽっと出の宗教団体(武力集団か?)が現れて味方になれと言われて素直に受けるヤツはいない。反感しか生まれないよ。


「そう言ってもらえると助かるよ。揉めに揉めたからのぉ……」


 それはご苦労様です。汲んでやることも察することはできないけど!


「答えが出たのなら速やかに動いたらいい。聖都グランディールはもう神殿ができてる。鼻のいい商人はもう動いている」


 個人の商人だが、個人だけあって動きが速い。第一陣と一緒にくっついていったよ。


「……羨ましいよ……」


「大丈夫。商人は物を売るのが得意でも人を纏めるのには向いてないから」


 商人と政治家は分野が違う。一緒くたにしたら火傷するぜ。


「神官に人を救えても街は回せない。政治は政治家に任せたほうがいい」


 まだ政治家のいない街。買い手市場か売り手市場かはわからないが、今がチャンスと言うことには変わりはない。


「聖都グランディールは政治と宗教は分けるつもりだし、神官の不正は厳罰にする。もちろん、政治家と神官の癒着なんて神が許してもリンが許さない。ただ、持ちつ持たれつはやっていこうと思う」


 ガチガチの縛りは相手だけではなく己も縛る。少しは緩めておかないと立ち行かなくなるわ。


「……頼もしい使徒様じゃよ……」


 苦笑いするじーちゃん。宗教は厄介と知っているのだろう。


「役人を紹介してくれるなら優遇して雇う」


 じーちゃんたちの派閥の人間を、ね。と言う副音声はちゃんと聞こえたようで三十人ほど紹介してくれ、聖都グランディールに向かわせてくれるそうだ。


「ここは残すと聞いたが、どうするんじゃ?」


「じーちゃんはどうしたらいいと思う?」


 そう意地悪く訊いてみる。


 ここはオレが生まれ、育ったところ。信徒からすれば聖地だ。あやかりたいと巡礼に来たいと思うのは当然だろう。人が集えば商売が生まれ、知名度は上がる。問題は出るだろうが、町が潤うのも確か。議員や商人が色めき立つのも確かってものだ。


「……こちらに任せて欲しい」


「うん。任せる。リンが伝道巡回に出たら好きにしたらいい。もちろん、残った者も任せるけど」


 権利をくれてやるのだからそのくらいはしろよな。


「使徒様の逆鱗に触れることはしないと約束しよう」


 まあ、天罰が怖くないのなら破っても構わんけどね。


「それで、わしたちもウェルヴィーア教に入信したいのだが?」


 おや。じーちゃんたちもかい。


「改宗はいいの?」


 議員ともなると改宗とか面倒なんじゃないの?


 この自由貿易都市群リビランはバリューサ教がほとんどとか。そうとは知らずに八年生きて来たのがオレと言う人間です。


「姿の見えぬ神より姿の見える使徒様じゃよ。それにバリューサ様の主神を崇めるのに文句を言える者がいたら狂信と見られるさ」


 バリューサ教に文句を言われる未来しか見えないが、まあ、それは折り込み済み。奇跡で黙らせてやるさ。


「問題がないなら受け入れる」


 聖紋せいもんを創り出してじーちゃんと孫に、と思ったら連れもと言われてまた長蛇の列。神の祝福あれと機械のように繰り返し唱える羽目に。やっと終わった頃には真夏となっていた。


「……貴重な時間が光の速さで過ぎていく……」


 オレの人生ってなんなんだろう? とか考え出したら負け。明るい未来を思い浮かべて今を生きるんだ!


「ボス。入信希望者がまた来たぞ」


「悪魔の使いめ」


「うん。それはボスな」


 なんてあっさり返すイビスちゃん。君、ボスに対する扱いが酷いよ。


「リンがイビスにしたことを考えれば優しいもんじゃない」


 さあ、神の子らよ。ウェルヴィーア教はいつでもウェルカム。皆に祝福を与えましょう。


「大丈夫なのか、この宗教?」


「リンがやってる時点で察しなよ」


 戯れ言など右から左にサラッとサラサラ流しましょう。信徒よ、夢と希望のウェルヴィーア教にいらっしゃ~い!

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