第103話 プークスクス
ウェルヴィーアは邪神に侵略されているからそれを救えと神は言った。
ちょっと自分が賢くて先の展開が読めると思ってる君、これをどう解釈して良いか教えてくれよ。曖昧で胡乱げでふわっとしてて、オレにはまったくわからんわ。どうしたら世界って救われるのよ? アホで矮小なオレにご教授してくんなまし~。
「誰にケンカ売ってるのよ?」
理不尽って見えないものにだよ。ケッ!
ツバでも吐きたいところだが、七歳児のツバなど誰得である。あ、おれです。ってヤツは死ね! お前が世界の敵だわ!
「……お前が使徒か……」
「ハイ。お前雑魚決定」
現れた憎悪を振り撒く闇色のローブを纏う男に告げた。
出ているのか顔だけの判断が難しいが、人だとは思う。まあ、ただの人ではないだろうがな。
「……ざ、雑魚だと……」
「雑魚でなければなに? まさか邪神四天王が一人とか言わないでね。笑い死にするから。あ、それが狙いか? なんて狡猾な……」
悔しいが、それだったらオレの負けだ。素直に負けを認めるぜ。
「あちらは今にも怒り死にそうよ」
それで死ぬなら良いじゃない。手向けに優しい笑みで見送ってやるよ。
「……使徒めが……」
「そう、それが雑魚だと証明してる。すぐ怒る。すぐ恨む。すぐ我を忘れる。これが雑魚じゃなくてなにが雑魚? お前は出て来るべきじゃなかった。心を隠し、影に潜み、目的のためだけに動くべきだった」
そうすれば疑惑は疑惑のままだった。オレに気がつかれることはなかった。ずっと先手を握っていられたのだ。
「お前を殺せば、なんて恥ずかしいことは言わないで。いや、雑魚ならお似合いの言葉。ほら、言って言って」
そこで躊躇わず「殺してやる!」など言えば雑魚は雑魚なりに立派と思えるのだが、こいつは躊躇った。なにか思考に入ったのだ。
「どこまで醜態を晒せば気が済む。どこまで自分たちの秘密を暴露させれば気が済む。お前はこちらの推測を証明してるんだぞ」
もうその足にキスしたくなるくらい感謝しかありません。まあ、思うってだけでしないけど。
「……お前になにがわかる……」
「え、なになに? 哀れだと同情して欲しいの? 一緒に悲しんで欲しいの? 可哀想だと言って欲しいの? ねぇ、どうなの? 教えて教えて」
プークスクス。
「……最低だわ、こいつ……」
そんな最低なヤツの守護天使になってるってどんな気持ち? ねぇ、教えて教えて。
「……ゆ、許さん……」
「あ、ゴメーン。気に障っちゃった? 許して~」
リンちゃんの可愛さに免じて許してちょんまげ~。
「──許さぁあぁぁぁぁん!!」
ヤダ。キレちゃった。怖~い。
怒りマックスな男は、腕を振り上げると、自分の心臓に突き刺した。ワーオ。だいた~ん。
「……この町を恐怖と血で満たしてやる。おのが罪を悔いるがいい……」
「いや、やるのはお前。こちらに罪なんてないんだけど? それともなに? これまでの自分の行動を否定するの? 自分の意志じゃなく他人の意志だったの? これまでして来たことを最後に否定するの? じゃあお前、なんのために生きて来たの?」
やるんなら最後まで自分の意志でやれよ。自分がやったと誇れよ。なに今までの苦労を放り投げてんのよ。
「お前の人生、まったく意味がなかった」
なんて言ったら涙を溢れさせた。え、なに? 後悔した感じ? それとも走馬灯でも見ちゃった感じ? チョーウケるんですけど~!
突き刺したところから血が溢れ、大地に血溜まりを作る。まるで枕を涙で濡らすように。あ、たとえがイマイチだな。
「……呪われろ……」
そんな男の耳元に口を近づける。
「残念ながらそれは祝福となる。なぜならお前がオレの糧となるから。お前を利用するから。お前の価値をオレが決めるからだ。ありがとう。オレのために生まれて来てくれて」
それだけは感謝するし、無駄ではなかったと言えるよ。
事切れた男が血溜まりに沈んだ。
と、血が集まり出し、球体となる。赤から黒に、黒から白に、次々と色を変え、やがて透明となり、ダイヤモンドダストのようなキラキラしたものを吹き出した。
……そう。これが見たかった。いや、知りたかったのだ。邪神の揺り籠が生まれる過程をな……。
まあ、さすがに人の血から生まれるとは予想だにしなかったが、誰かが仕掛けてるんじゃないかとは思っていた。邪神の揺り籠がある場所が不自然だったからな。
神も邪神も絶対ではない。なにか制約があったりするのか知らないが、曖昧で胡乱げで、なにか人任せなところがあるのだ。
……世界とはこの星のことか? 社会システムのことか? なんなんだよ。わかんねーんだよ。お前らのゴールどこなんだよ? はっきりさせてから選べってんだ……。
「……なに、あれ……?」
なんてトリップしている間にダイヤモンドダストみたいな光が蜘蛛に変化した。
炬燵くらいある蜘蛛とか気持ち悪いな。
変化したのか生み出されたのかはわからないが、ダイヤモンドダストみたいな光が魔物となるんだな。しかも、いっきに現れるのか……。
なんて観察していたいが、さすがに数十匹にもなると直視するのが辛くなって来た。めっちゃキモいわ~。
姉ばーちゃんからもらった笛を出して吹く。侵入者がいたら吹けと渡されてたんです。
よく訓練されてるのか、娼館の男たちがすぐに現れた。その手にリボルバーやショットガンを持ってな。
「魔物溢れだ! 退治して!」
さあ、野郎ども。銃の有用性を示すのだ。
「わざと溢れさせたわね」
ハイ。わざと溢れさせました。銃を売るまたとないチャンスですもの。
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