第102話 憎悪

 リンちゃんによる即売会は大盛況で終わった──ら、よかったんだが、大盛況すぎて欲しい人にいき渡らず、ちょっとした騒動になってしまった。


「これがちょっとなの?」


 う、うん。ちょっとじゃないね。下手したら暴動になりそうな勢いですわ~。


 娼館の男たちが脅しつけてるが、頭に血が昇った方々には通じない。買わせろと騒ぐばかりである。


「どうにかならないかい?」


 姉ばーちゃんが訊いて来るが、ない袖は振れない。この日のためにコツコツ貯めて来たのだからな。


 と言う建前だが、備えは十二分に備えてはある。今日と同じくらいの量はアイテムボックスに入っている。


 でも、だからってそれを出すかと言えばノーである。そっちの事情など知らねーよ、だ。


「どうにもならない。リンは万能じゃない」


 それどころか凡人だと思っている。なんでもかんでも解決策を用意できるワケじゃない。


「頼む! 金なら出すから!」


「魔石はあるんだ、売ってくれ!」


 ナヌ? 金はあり魔石はあるだと? なんだよ、それを先に言えよ。ぼったくっていいのならなんぼでも売るよぉ~ん。


「わかった。なんとかする。明日まで用意する」


 リリー。今日は寝かせないぜ。オレは明後日のことがあるから夜の九時には寝るけどね!


「…………」


 おや。そんな蔑んだ目をしてどうしたの? お客様には笑顔ダヨ。


 娼館の小間使い的な子と若いのを借りて仕出し。お駄賃を出すとよく働いてくれる。


 皆の頑張りにより九時までに仕出し完了。六割アップの値札も張りおわった。


「……まさにぼったくりね……」


 親切価格です。


 明日も気持ち良く働いてもらうために食事を振る舞い解散とする。


 静かになった食堂。いるのはオレとマルレインおねーさん。報酬にチョコレートを出したら最後までお手伝いしてくれました。ってか、ご褒美待ってるのかな?


「……イビス。いる?」


 万能偵察ポッドを通して外にいるイビスに語りかけた。


「ああ。いるな。三、いや、四人かな? 一人、プロが混ざってるな。上手く闇に溶け込んでる」


 それがわかるイビスもプロなんだろう。なんのかは知らんけど。


「あ、あの、いったいなにが……」


 状況がわからないマルレインねーさん。まあ、わかったらスゴいわな。オレだってイビスから言われなきゃわからなかったし。


 ただ、予感はしていた。


 なにを? と問われると答えに窮するのだが、なんか体の奥でゾワゾワするのだ。


「……ボス。恨まれることしたか……?」


 商品を売っているとき、見張りをしていたイビスがそんなことを囁いて来た。


「恨まれないようにはして来た」


「……どうして来たかはさておき、憎悪しかない者が辺りをうろついている。明らかに中を窺っているな」


「憎悪とかわかるんだ」


 空気の読めると自負するオレにはまったくわからんが。


「……昔、仲間に鈍感力がどうとか聞いたことがあるよ……」


 ああ。オレも聞いたことあるな。それが?


「いや、なんでもない。とにかく、憎悪を持つ者がボスを見ている。わたしの勘が言ってる。こいつはヤバいって」


「どのくらい?」


「バケモノだ。今のわたしに勝てる気がしない」


 まあ、魔物とかいる世界だしな、バケモノの一匹や二匹いても驚かないわ。


「そう。やっぱりいたか」


「やっぱりとは?」


「邪神の手下的存在がいる」


 そう思ったのは牧場にハーケンハイローが出たときだ。


 魔物溢れ、なんで起こるんだ? 徐々に増えるならまだしも何十何百と突然現れるとかおかしいだろう。ましてや人がいるところで。


 ゴブリンや雪ウサギなどは単発に近く元を探してるのに未だに見つけられないでいるんだもん。あんなに簡単に発見できるとか変だろう。


 ずっと考えてたが答えは出ず、カイヘンベルクの地下で触れたあの憎悪で疑問から疑惑に変わった。


 もしかして、邪神の手下的存在がいるんじゃないか? ってな。


 なら、あのときが邂逅の瞬間であり、神の手下的なオレを殺すチャンスだったはずだ。オレならなにを置いても確実に殺るぞ。


「町を跡形もなく吹き飛ばすなんて考えるバカがいるなんて誰も考えつかないわよ。いたらリン以上に頭の腐ったゴミクズよ」


 ……遠回しどころか直球でオレをディスってるよね……。


「あと、ゲスいのが宿を窺っている。こちらは盗み目的だろう」


「わかった。警戒してて」


 と、今にいたるワケです。


「憎悪は感じる?」


「消えた。が、いるな。首筋がピリピリする」


 そう言う感覚は信じるに値する。オレだってそれを頼りに生きて来たんだからな。


「撃つか?」


「撃って」


 せっかく出したのに血で汚されたくないからな。


「クリア。ただ、プロには逃げられた」


「問題ない。見えてる」


 万能偵察ポッドを通して>っと千里眼。う~~~うん。発見。


「ロッシュニー。町の外なら処分して。あ、いただけるものはいただいてね」


 キャンプ地で待機させているエルフたちに指示を飛ばした。


「お任せください」


 冷たい声で返事をするロッシュニー。虐げられて来たせいか、ケダモノを殺すのに一切の躊躇いがない。うん、いいことだ。


 食堂から庭に出る。マルレインおねーさんはテーブルの下に隠れました。


 さて。憎悪くん(仮)。君は出て来るかな? それで君の価値が決まるぜ。

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