第70話 ライフルガール

「……単刀直入に尋ねる。お前は転生者か?」


 なにやら渋い口調だこと。武士か?


「そう。転生者。あなたも?」


 尋ねるまでもないが、はっきりさせておこう。


「ああ。転生者だ。随分と便利な能力を願ったものだ」


 オレの能力に心当たりがないということはオレより前に転生していったヤツか。


「そちらは考えなしに願った」


 ライフル銃でこの世界を乗り越えようとか、頭のネジが外れたかのようなレベルだわ。


「言い返せないのが腹立たしいよ。まさか女に生まれ、銃を出すのにも魔力が必要なんだからな……」


 女に生まれた? ってことは前世は男か。神様は男を女に変える嫌がらせがマイブームなのか?


「能力は訊かない。他の転生者と会ったことある? リンはない。あなたが初めて」


 世に九十九人しかいないのに、こんだけ近くに転生させてるのか?


「わたしもお前が初めてだ。たぶん、この出会いは偶然だろう。わたしはもっと遠くの地で生まれたからな」


 それは本当に偶然なのか? あの神のことだからなにか企みがあるんじゃないだろうな? なんだか猜疑心で判断を間違いそうだぜ。


「提案がある」


 なにか意を決した顔を見せる少女。前世はおっさんだと思うとモヤっとしたものがあるけど。


「なに?」


「わたしをお前の傭兵団に入れて欲しい」


 また急だな。転生者同士が組むっていいのか?


「いいんじゃない。それも主が求めるものよ」


 トライアル・アンド・エラーかよ。やらされる身にもなれってんだ。こっちはエラー・イコール・ダイなんだからよ!


「わたしの能力は、銃器召喚。前世の銃器ならなんでも召喚できる」


「魔力次第、でしょ」


「ああ。今のわたしにはこれが精一杯。弾もなんとかして一日八発出せるようにした」


 チートな能力を与えるなら使えるような仕様にしろよと怒鳴りたいぜ。


「自分の能力はたとえ転生者でも教えないほうがいい。敵に回るかもしれない」


 邪神が味方に取り込むかもしれないし、命欲しさに売るかもしれない。知っても知られてもダメだ。


「構わない。わたしではこの世界を一人で生きていける気がしない。しかも、非力な女として生まれ、能力も引き出せないのでは遅かれ早かれ死ぬ。死ぬのならまだしも女として生きるなどごめんだ。ならば、強いヤツの下につくのがベストな選択だ」


 なんともストイックなものの考えをするやっちゃ。リアリストか?


「……ひ弱なまま男に嬲られるくらいなら悪魔にでも魂を売るさ……」


 身の毛もよだつとばかりに自分を抱き締める少女。なにかイヤなことがあったのでしょう。そっとしておきましょう。


「名前は?」


「イビス。ファミリーネームはない」


 ん? ファミリーネーム? 外国生まれの方かな?


「グランディール傭兵団代表のリン。イビスと同じ歳で女。口調は気にしないで。と言うか、イビスも口調を変えなさい。イヤでも。前世を隠すために」


 チート能力使って隠すもねーだろうと言うアホはやってみればいい。厄介なことがさらに増えるから。


「わかった。浅はかな自分よりこの世界を上手く生きている者の言葉だ。従おう」


 意外と素直やね。外国のお方っぽいから自己主張が強いと思ったのに。


「正直、転生者同士がつるむのは危険だと思う。リンは傭兵団を創ることで神に目をつけられ、監視者までつけられた」


「酷い言いようね。主からの慈悲なのに」


 慈悲ではなく放置がよかったよ。あのままなら世界の片隅で平和を成就できたのに……。


「今の声が監視者か?」


「わたしはリリー。リンの守護天使よ。よろしくね、イビスちゃん」


 会話に入って来るんじゃないよ。イビスを見習ってわきまえろや。


「……そうか。わたしは運がよかったのだな……」


 なにか運がいいことを言ったか? オレなら「頑張ってね~」とダッシュで逃げる状況だがな。


「リンといるなら戦いしかない」


「フッ。クズどもに奪われるくらいなら戦いで死ぬことを選ぶさ」


 オレ、百合に趣味はないから。だからってビーなエルにも興味ないから。変な気、起こさないでよ。リンとの約束だからね。


「わかった。イビスをグランディール傭兵団に迎える。第五機械化──隊を設立するから仲間を増やすといい」


 グランディール傭兵団の証である腕輪を渡す。


「好きなほうの腕にして」


 なんの疑いもなく左の腕に通した。覚悟を決めたから全面的に従うってことかな?


「イビスがまともに戦えるまで時間がかかる。だからイビスの能力を補助する力を与える。いい?」


 一応、承諾を得ておこう。転生者は誠意をもってあたらないと邪神より厄介な敵となるからな。


「ああ。頼む。もっと融通の利く能力にしてくれ」


 腕輪にイモ四万個分の魔力を込め、イビスの意思で使えるようにし、弾を撃ち尽くした銃をダストボックスにボッシュート。魔力変換する。


 とするだけでイモ三十万個分の魔力が持ってかれた。クソ。神の力にほんのちょっと触れただけじゃねーかよ! 持ってきすぎだ!


「……だ、大丈夫か? なにか酷く消耗したように見えるが?」


「……問題ない……」


 イモ三十万個分の魔力。苦労して貯めた魔力を半分もなくなるって、結構精神的に来るわ~。


「魔力を渡した。わかる?」


「え? ……あ、ああ。凄まじい魔力がある……」


「微々たるもの。イビスにはその三倍の魔力を持ってもらう。その魔力で銃を出して熟練度を上げて。魔力が尽きたらまた魔力を送る。コンマ三秒で出せるようにして。明日までに」


「え? 明日まで?」


「そう。明日まで」


 大丈夫。十万もあればできるって。


「悪魔かな?」


「悪魔より酷いなにかよ」


 オレは健全な傭兵団運営をする雇い主なのに酷いわ~。

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