第69話 聖水

 うん。まず間違いなくオレと同じ神に転生させられた者だな。


 ライフル銃を持ってて違うって言うならこの世界は狂ってるとしか言いようがないわ。いや、もう神によって狂わされた人生送ってますけど!


「リン様、撃ちますか?」


 なにを? と問うのも野暮か。グランディール傭兵団には銃以上の武器が与えられてんだからな。


「ダメ。相手の武器があれだけとは限らないから」


 神になにを願ったかわからない以上、油断はできない。アホな願いしたのが多かったからな。


 ……アホな願いしてもこんな過酷な世界で七年も生きてこれたのは、それだけの運と実力があったからだ……。


「あれ、教会?」


 門をなにかの残骸でバリケードにして死霊の侵入を防いでいる。


「はい。創造神ウェルヴィーアを支える八柱のうちの一柱、バリューサ様を祀る教会です」


 あの神、ウェルヴィーアって名前なんだ。ってか、自分の名前を世界名にするとか厨二病か?


「リン様。皆が集まりました」


 偵察ポッドを動かして確認する。うん。皆さん殺る気満々やね。殺っちゃダメだからね。


 偵察ポッドを前進させ、音量をアップする。


「こちらはグランディール傭兵団。カイヘンベルク内の偵察に来た。敵対するつもりはない。銃を下ろして欲しい」


 銃を知っているだと!? って驚かない少女。逆に冷静な表情を見せた。


 ……なんか目がイッちゃってるように見えるのはオレの気のせいかな……?


「回答がなければ我々は立ち去る。町が焼かれるまで隠れてるといい」


 本当なら転生者との接触はしたくない。邪神の目をさらに集めるからな。


 だが、こうして会ったのなら避けてはダメだ。転生者は毒だ。放っておいたら知らずになにをするかわからない。


「本当にね」


 そんな同意はいらねーんだよ。だぁっとけ!


 一分二分と過ぎ、待ちに待って五分を過ぎた。


 十二分に待った。ならば、オレにかかわらない相手だと言うこと。安心して物資回収に──とはならないのがオレの今生でした~。


「待ってください!」


 教会の中から出て来たのは灰色の修道服っぽいものを着た老人と町人らしき男たちだった。


 随分と生き残った者が多いな。なぜ呪いにやられなかったんだ?


 バリケードまで近づき、老人と向かい合う。ジェスが、だけど。


「おれたちはグランディール傭兵団。雇い主よりカイヘンベルク内の偵察を命令されている。事情を聞きたい」


「助けではないのですか!?」


「助けようと思うならおれらを偵察に出すわけないだろう。ましてや生き残りがいるとも思ってないのだから」


 ジェス、辛辣~。


「そ、そんな……」


 攻撃しておいて都合がいいことおっしゃるね、この老人は。


「情報をもらえるなら町の外に連れていくことを考えてもいい」


 ジェスに交渉とか無理なので、会話の間に入る。


「あ、あの、その浮かんでる玉は……?」


「これは魔道具。リンはグランディール傭兵団の代表。町の外れにあるところから話してる」


 魔道具と言っておけば納得できるでしょう。あるって話だから。


「こちらも命をかけている。無駄な時間はない。決めるなら早くして」


 これだけ集まっていれば死霊だって集まって来る。ってか、集まって来てます。


「そ、そう言われても……」


 ったく。決断できないのばっかりだな。死にたいのか?


 なんて無茶を言ってるのはわかるが、この世界では迷いは死に繋がる。一瞬の思考で正解を選ばなくてはならないのだ。生きたければ無理にでも決断しろ、なんだよ。


「死ぬまで神にでも祈ってればいい」


 祈っても助けてくれないデスゲームをさせられてる者には不要な行為だわ。


「待ってくれ!」


 ったく。またねる〇んかよ。うちは採用してねーんだよ。


「知っている情報はすべてやるから助けてくれ!」


 そう叫んだのは鐘つきにいた少女だ。


「ジェス。食らって」


「はい!」


 あのくらいなら食らっても微々たるもの。つまみ食いだ。


「ハリュシュ。四人を教会に。他は物資回収を再開して」


 偵察ポッドをシャリーラに返し、到着した万能偵察ポッドに意識を移す。


 ジェスに視界を一瞬移し、無双してるのに納得して教会内へと移動する。


 教会内には想像以上に人がいて、眉をしかめてこちらを見ていた。


 ……こんなときでも種族差別か。業が深いもんだ……。


「なぜ生きてられるの?」


「教会はバリューサ様の加護で守られています」


 そうなの?


「正確には破邪の石が鐘に仕込まれてるのよ。半径五十メートル内に邪神の力は無効化されるわ」


 そんなものがあるんだ。


「リンがゴブリン除けの石を蒔いたのと同じよ」


 なるほど。つまり、同じことを考える者はいたってことだ。第一陣のお方かな?


「状況はわかった」


 アイテムボックスから聖水が入った樽を出す。


「これは聖水。飲めば死霊の呪いにはかからない。飲んで」


「せ、聖水ですか? なぜあなたが?」


「そんなことはどうでもいいこと。生きたければ飲む。そして、町の外に出る」


 危機的状況で押し問答してんじゃないよ。判断も決断もできないのなら言う通りにしろや。


 蓋を開け、飲むよう強制する。


「ハリュシュ。大変だけどリンのところまで連れて来て。愚図るようなら見捨ててもいい。説明できる者は一人いればいいんだから」


 わざと聞こえるように言う。耳かっぽじって聞きやがれよ。


「飲んだら出発して。ジェス。災害竜を相手する前にグランディールの本気を試しておいて」


 命がけで生存者を救ったってことを外にアピールするのと、カイヘンベルク内に強敵がいると誤認させるために、ね。


「わかりました。派手に暴れてみせます」


 オレの意図を理解できるようになって来たようだ。


 避難してたヤツらが聖水を飲み終わり、ハリュシュが率いて教会を出ていった。


 ライフル銃を持つ少女以外は、だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る