第71話 銃器召喚

「実戦に勝る訓練なし」


 と、どこかの誰かが言っていた。


「……そんな言葉はない……」


 あれ? そうだっけ? どこかで耳にしたような気がするんだけど……まあ、いいじゃない。危機的状況で人は進化するもの。頑張りなって。


「リン。人は成長はするけど、進化する生き物じゃないからね」


 成らぬなら成らしてみせよう創造魔法。ドクターリンにかかれば人ではなくなるさ。それで進化と言うかは知りません。


「死霊には銃は効かない。ウイルスが動かしてるから」


「まったく、ナンセンスだ」


 欧米か! と突っ込みを入れたくなるのは日本人の性だろう。


「けど、いい的にはなる」


 ウイルスで動かしているとは言え、依り代(人体)が破壊されれば動くことはできない。数の暴力で黙らせろ、だ。


「スーツを纏えばウイルスは効かないし、噛みつかれても大丈夫。水と食料は入れてある。明日までバッチリ」


「……なにがバッチリなのかはわからんが、やらなければ明日がないのは理解したよ……」


 両手に拳銃を出した。


 理解の経緯はよくわからんが、やる気が出たのならそれでよし。細かいことは気にするなだ。


「緊急事態に遭遇したら偵察ポッドに言って。念のためにイビスにつけるから」


「了解だ、ボス。んじゃ、やりますか!」


 やる気を銃弾に乗せて扉を破壊。蹴り飛ばして教会から出ていった。


 イビスによる銃無双──になるかはイビス次第。明日、笑顔で再会しましょうね。


 と、万能偵察ポッドから意識を戻した。


「……銃器召喚、か……」


 まったく、短慮としか言いようがないぜ。


 魔力次第と言うのもアホすぎるが、召喚したものは消せないとか呪いだよ。まだ邪神の呪いのほうが優しいわ。


 銃器召喚の熟練度を高める時間を弾だけを出すために使うのもアホすぎる。弾をなくした銃など鈍器なんだから構わず出しまくればいいんだよ。


 ちなみに、弾から銃が創られるイメージをして、弾だけで止めて召喚してるらしいよ。


「まあ、剣の使い方も知らない素人バカが最強の剣を願うよりはマシか」


 イビスの感じからして銃の経験はあり、野球のボールくらいの偵察ポッドに当てるのだから熟練者なんだろうからな。


「なんにせよ、駒を一つ手に入れた。なら活用しろだ」


 手のひらの創造魔法とコピー能力があれば銃器召喚は優秀な能力となる。


 イビスが出した銃器はリリーのコピーで増やせることもできるし、レベルが上がれば榴弾砲でも出せるだろう。是非ともイビスには頑張ってもらいたいもんだ。


「……リンは力を持たせたらダメなタイプよね……」


 それはすべての生き物に言えることで、オレだけに言えることじゃありません。変な誤解を与えることを言わないでください。


「それより町のマッピングだよ」


 まったく、オレの人生なんで予定通りにならんかね? 考えに考えても次の瞬間にひっくり返されるとか無情すぎんだろう。なんかいき当たりばったりな人生になってるぜ。


「ああも臨機応変に動けるのも凄いけどね」


 そうしなきゃ死ぬんだから頭を働かすしかないだろうが。オレはじっくり考えて策を練るタイプなのによ。


「リン。死体を片付けてよ。ハエがたかって来たからさ」


 と、ねーちゃんがやって来た。


「我慢してよ。死体回収まで手が回らないんだからさ」


 物資回収だってやり切れてないのに、死体回収までやったら中途半端になる。まず優先させるべきは物資回収。元手を稼ぐことだ。もちろん、死体もいただけるならいただくけどね。


「しょうがないか」


 そっ。しょうがないの。お昼まで物資回収に専念してちょうだい。


「たまに建物を壊してね。燃えやすいようにさ」


「もったいなくない?」


 そんな女子中高生みたいな曖昧な言葉を使わないの。まあ、たまにオレも使うけどさ。


「自制がない欲張りは身を滅ぼす、だよ。欲しいものを決めて確実にいただく。それが最良なの」


「わかったよ。物資回収して来る」


 ハイ、お願いね。うちの家計はねーちゃんの肩にかかってるんだからさ。


 傭兵団と我が家の家計は別。公私混同はダメ、絶対。


 手のひらの創造魔法で聖水を創りながら町がマッピングされていくのを見てると、教会にいたヤツらが西の門にやって来た。


 ……時間がかかったな……?


 新たに万能偵察ポッドを創って向かわせる。なんかあった?


「こいつらが死霊を救えとうるさいんです」


 はぁ? 死霊を救え? なに言ってんだ?


「聖水で人々を救ってください。こんなの無慈悲です」


 と、教会の代表者らしき修道服の老人。お前の言ってることが無慈悲だわ。


「リンたちは傭兵。神の御使いじゃない。慈悲を与えるのは神の務め」


 不本意なことにオレはその務めを受けたことはないけどな。


「……これだから亜人は神から嫌われるのだ……」


 そう言ったバカに万能偵察ポッドからビーム。ぶっ殺す。


「……くっ。聖水が効かないくらい呪いに浸透してたとは。なんて惨い呪いなの……」


 邪神め。やってくれるぜ。


「……な、なんてことを……!」


 修道服の老人が目を見開いて驚いている。わかるよ、その気持ちは。


「まだ呪いにかかった者がいるかもしれない」


 万能偵察ポッドを避難民に向ける。


「呪いにかかった人いる?」


 邪神の敵からの慈悲だ。自己申告させてやるよ。


 ちゃんと脅しとわかってくれたようで、皆さんが視線をさ迷わせてくれます。人はそうでなくちゃ。


「なら、さっさといけ。我々に手間取らせるな」


 ったく。クズどもが。


 護衛してる者に頷き……はできないので、万能偵察ポッドを下がらせる。


「いいの? 問題になるわよ」


 リリーの言葉もごもっとも。なら、舌打ちした者の効果を消しておこうか。後ろに殺されるがよい。


「解決方法がエゲつないわよね」


「じゃあ、リリーは許せと言うの?」


 神はジェスたちを子らよと言った。それはつまり、神への冒涜だ。守護天使たるリリーはそれを許すのか?


「主は子らを愛するわ」


「されど子らに主の愛とやらは伝わらない。自分以外を見下し差別を正義とする。オレが親なら拳で修正してやるがな」


 凝り固まった意識を正すには暴力しかない。あ、かかわりを断ち、意識が変わるまで待つって手もあるぜ。


「人は言葉だけで分かり合えるほど成熟はしてないよ」


 そして、自分の主張を通したいのなら力を持て。力なき者の言葉や愛などクソの役にも立たんわ。


 違うと主張される方々。是非ともオレのところに来て、オレの意見を言葉だけで覆してみろや。オレは言葉と暴力で対抗してやるからよ。ハッ!

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