第36話 傭兵

 オレ、春から夏に移り変わるこの新緑の季節が一番好きだな~。


 食べれる山菜も成長して固くなり、山に入ることもない。畑の収穫もあと少し手間はそんなにかからない。一年でゆっくりしてられる期間だろう。


「この平和が続けばいいのにな~」


 と言ったのが神の逆鱗に触れたのだろうか? 神の怒りが一本の矢となってオレの頭へとこっつんこ。用心してなきゃ死んでました。


 平和の尊さを知る者は波乱の理を知るのである。byリン。


「ガウ~」


「気にするな。オレも山から来るとは思わなかったからよ」


 油断したつもりはないんだが、相手がそれを上回ったのだろう。上には上がいるもんだからな。


「しっかし、いい腕してんな。シルバーの察知を躱すばかりか、姿がまったく見えねーよ」


 しかも、魔力気配まで感じないとは。人間の可能性を見た気分だぜ。


「だが、チートの前では無力よ。千里眼!」


 右目に>っとな。ハイ、そこにいましたよっと。


「シルバー。ゴー!」


 指先からレーザーポインター出して居場所を指してやる。


「ガウワ!」


 どんなに鍛えようが人は人。鍛えられた熊に勝てるワケもなし。数メートル逃げたもののシルバーの張り手で空へと放り出された。


「ナイスホームラーン!」


 うん。いい死合いだった。感動はしなかったけど。


 壊れた人形の様に地面に落ちた襲撃者のもとへと向かう。


「……冒険者か……?」


 なかなか立派な弓を持っているが、格好が冒険者ってより暗殺者っぽい。顔も隠してるし。


 >っと鑑定。職業、傭兵と出た。


「傭兵? がなんでオレを襲うのよ?」


 さすがの鑑定も襲撃の動機までは教えくれない。いや、もっと魔力を込めたら可能だけどな。


 死んだら皆お宝。服をひんむいてお宝探し。おっ、金貨が二枚も出て来たぁ~~! マジかぁ~~! スゲぇ~~!


「初金貨。ナンマンダブナンマンダブ~」


 自分でもよくわからないがなぜか金貨に拝んでしまった。


 他にも探ると、短剣と投げナイフっぽいもの、紐や野営道具が出て来た。


「計画された襲撃っぽいな」


 行き当たりばったりの襲撃したんではなく、オレを狙う用意をして来た感じだ。


「恨まれる覚えがないんだがな?」


 仮に恨まれるとしても来るのは殺し屋であって傭兵ではないだろう。意味わからんわ。


 まあ、過ぎたことは考えても無意味。死体は野望の穴にポイ。また来るかもしれないので対人センサー(っぽいものを)仕掛けておくか。


「カー! 山から人来る。八人」


 三丸が飛んで来てそんなことを告げた。今度はなんだ?


「カー! 町から人が来る。十人以上」


 さらに町からもかよ。なんなんだ、いったい?


「シルバー。町からのは任せる。殺せ」


 十人以上は殲滅案件。お宝より命である。


「ガウ」


 駆けていくのをしばらく見詰めてから、山へと目を向けた。


「クソったれな世界だぜ」


 嘆いても無駄とはわかっていても嘆かずにはいられない人の惰弱さよ。まったくイヤになるぜ。


 千里眼で見ると、革鎧に槍を持った兵士──いや、傭兵か。鑑定で見るとガンズ傭兵団と出た。


「戦奴狩り、ね。獣人相手にか?」


 身体能力は人間より上だ。まともにぶつかっても勝てるはずもないんだがな? なんかカラクリがあるのか?


「コノメ。獣人の感覚を鈍くする薬、ね。小狡いこと考えるヤツがいたもんだ」


 人間にも効く様だが、嗅覚に優れた種族には特に有効らしいよ。薬は奥が深いぜ。


「リン、どうしたの?」


 ネイリーがいち早くオレを発見して近寄って来た。


 気づいてないか。弓のヤツと同じく近づいて来る傭兵も手慣れたヤツらなんだな。


「山からカモが来る」


 戦奴狩りとは言わない。騒がれても困るからな。


「手伝う?」


「いらない。普通にしてて」


 オレも対人戦闘に慣れておかなくちゃ。まあ、一方的な嬲りになるだろうけどな。


 左の袖口から辺りの空気を吸引しながら近づいて来る傭兵たちの元へと向かった。嗅ぎたくないんで。


 幼女が一人現れても傭兵たちに動揺はない。が、訝しんでいる顔はしていた。


「ユガのヤツ、しくじったな」


 と、傭兵たちが姿を現し、剣をオレに向けた。


「見た目に騙されるな。相手は魔物を統べる魔女だ。確実に殺せ」


 え? オレ、そんな名で呼ばれてんの? なんで? どうして? ってか、誰が広めてんだよそんなこと? 誹謗中傷もいいところだぞ!


 右手の指を>(ヨリオオキイねと)にして右目にかざす。


「目からビーム」


 まあ、正しくは熱線。炎を収束させて発射させてるだけ。レーザーは最小にしても魔力を食うんでな。ビームにしたのは語呂がいいからだ。


 ……人を傷つけるのにミサイルを撃つ様なもんだからな……。


 拳銃くらいの速さで撃ち出されるので、傭兵たちに避ける術なし。皆仲良く右太腿を撃ち抜かれましたとさ。


「リン!?」


 その叫びに振り返ったらネイリーたちが武装して集まっていた。オレの言葉に違和感を感じたのかな?


「こいつら、戦奴狩りだ!」


 知っている者がいるのか。この世界じゃポピュラーな職業なのか?


「町からも来る」


「なに!? 皆いくぞ!」


 と、男たちが町のほうへと駆けていってしまった。せっかちさんやね。


「シルバーが殺してる」


 オレの側にいないんだから悟れよ。


 まあ、いいさ。今はこちらに集中だ。いろいろしゃべってもらいたいからな。フフ。

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