第30話 六歳

 冬だ! なんだ! なんとかだー!


 うん。上手いこと言おうとしたが、なんも思いつきませんでした。すみません。


 まあまあ、そんなことは置いといて、だ、今年も冬が来ました。なので今日から六歳とします。ハッピーバースデー! イエーイ!


 寂しくない?


 いえ、もう慣れました。ってか、前世も含めて誕生日会なんて開いてもらったこともねーよ。ついでにお呼ばれされたこともありません。言わせんな、そんなこと!


「あいつら、本当にここで冬を越す気なんだな」


 獣人たちが建てた小屋は三軒。ドロレンガを積んだ原始的なもんだが、結構上手にできており、暖炉まであるそうだ。


 小屋の他にも薪小屋、貯蔵庫まで作っていて、確実にここを村化しようとしてるのがありありだった。


「まっ、お手並み拝見だな」


 手助けする義理もないんで見物させてもらうよ。


 朝の水汲みを終えて家へと戻る。


 ちなみにうちは石と木材のハイブリッド。ボロいけど頑丈にできています。


 なんでかって言えば、とーちゃんの家系が樵で、四代くらい続いてたそうだ。まあ、とーちゃんが女と駆け落ちして途絶えたけどね。


「ねー。雪ウサギは山の奥で狩って来てね」


 雪ウサギ狩りの準備をしていたねーちゃんにそうお願いする。


「ん? なんでよ?」


「生まれたての雪ウサギのほうが美味しいから」


 これまでの経験からして雪ウサギは山の奥で生まれてる感じなのだ。


 それは、雪ウサギの胃から出て来た草や木の皮からの判断。人が入って来ない場所に邪神の揺り籠があると思う。


「奥までとなると大変じゃない」


「これも訓練。雪山で一晩明かして来なよ」


 冒険者の夢をまだ見てるなら、だけど。強制はしないよ。冒険者になっても雪山にいかなきゃいいだけなんだからね。


「……わかった。やるよ……」


 素直なお姉様はステキです。最初は雨宿りの洞窟でいいんじゃない。いきなり雪の中は厳しいからさ。


 やるんなら一晩のお弁当とお菓子ね。夜は温かくして寝るんだからね。薪は持った? ハンカチは? 夜更かししたらダメだよ。


「あんたはあたしを甘やかしたいの? ダメにしたいの?」


 オレを守ってくれる頼もしいお姉様に育って欲しいだけですが?


「一晩くらい干し肉で耐えられるよ。いって来る」


 ハイ、いってらっしゃい。気をつけてね~。


 そんではオレは雪かきならぬ雪吸いをしますかね。吸引っと。


 まずは家の周りを雪吸いして、徐々に広がっていく。


 ──雪なんて集めてなにすんのよ?


 いや、雪を集めるのが主目的ではありません。基の魔力の増加と熟練度を高めるために鍛えているんですよ。


 雪はアイテムボックスが空いてるのももったいないから入れてるだけ。なんかスゲー容量になったからさ。


「……埋まったって感じはしないな……」


 一時間くらいやったのに、学校の校庭に雪玉一つ置いた感じしかしない。アイテムボックスに振りすぎたかな?


 まあ、大は小を兼ねるって言うし、容量が大きいことはいいことだ。


 また一時間ほど続けると粗方雪はなくなってしまった。


「まだ初雪だしな。こんなもんか」


 初雪はだいたい三十センチくらい。しょっぱなから飛ばすこともあるまい。冬はまだ始まったばっかりなんだしな。


 バフリーを殺してレベル3になり、魔力もイモ約三百個分になり、二時間雪吸いをやっても熟練度も高まり、魔力消費も三割程度。日々成長が見えるって楽しいもんだぜ。


 雪が降る降る雪が降る~。オレのアイテムボックスまだ余裕~。あっちにこっちに雪を吸う~。


「ってか、今年は雪が少なくね? 暖冬か?」


 まっ、異世界とは言え、自然は人の思いなど意に介さない。あるがままにあるだけよ~。


「雪ウサギが出ない! なんでなのよ!!」


 毎日雪ウサギを探してあっちにこっち。雪が降らないことにより雪ウサギが現れないと、ねーちゃんがキレてます。


 いや、獣人たちや去年から来る様になった猟師のおっちゃんも同じなんだとか。


 そんな自然相手に怒ってもしょうがないよ。良い日もあれば悪い日もある。悪いときがあるから良いときに備える。それが自然の中で生きるってことだぜ、ねーちゃんよ。


「困ったね~。雪が降らないのは助かるけど、雪ウサギの毛皮は売れるのにね~」


 ほんと、それだけは困るよね~。いい収入源なのに。


「雪降れよ、バカたれが!」


 そうだそうだ、雪を降らせろや、自然が……ん? 自然? ん? ん? ちょっと待てよ。雪ウサギって邪神の揺り籠から生まれてるんだよな。それって自然か? いや、不自然だろう。あり得ない生命の営みじゃん。


 あれ? ん? いや、そんな、あり得ないよ。考えすぎだよ。止めろよオレ。変な想像すんなや。


 なんて言いワケ無用。不自然な生命の活動を不必要に阻害してるヤツがここにいます。正直に名乗り上げなさい!


 ハイ! オレです! 雪ウサギの活動に必要な雪をメッチャ吸ってまーす!


 ………………。


 …………。


 ……。


 いやいやいやいやそんな、いやそんな。ないって。ないない。そんなのないって。雪を吸ったから雪ウサギが出ないってあり得ないっしょ! おかしいって!


 だが、あり得ない世界でおかしいのがこの世界。しばらく雪吸いを止めてみました。


「マジか!?」


 ハイ、マジでした。雪吸いを止めたら雪ウサギが現れました。


「狩りだ狩りだ、狩り祭りだぁー!」


 ヤダ。ねーちゃんが祭りとか知ってる。オレは知らないのに。


「……気をつけていってらっしゃい……」


 うん、まあ、なんだ。めでたしめでたしってことで、また来週~。バイナ~ラ!

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