第31話 指輪
今年の冬は緩やかに流れていく。
おっと。そこの君。なにか言いたそうな顔をしてるが、ちょっとオレの話を聞いて欲しい。
人は過去を見ていては幸せな明日はやって来ないものだ。だからと言って過去を忘れてはいけないよ。過去を学ぶことによって未来をより良いものにできるんだからな。
後悔と反省をしたら意識と思考は未来に向ける。それが大事。人が飛躍して来た理由である。
──言いワケは終わりか?
ハイ、終わりました。なので、どんな非難も文句も言い分も聞きませぇ~ん。右から左にさようならぁ~。ミルクココアを飲んでトレビア~ン。
うん。穏やかな冬である。
「リーン! おもしろいの狩って来たよー!」
………………。
「リンってば! 早く出て来いよ!」
ハイハイ、知ってますよ。ごめんなさいね。今生のオレに安寧なんてありませんよ。クソが!
カップを片手に外に出ると、毛玉? 雲? よくわからない白モコモコをねーちゃんが抱えていた。
「なにそれ?」
「襲って来たから槍でぶっ刺したんだ」
行動を聞いてるんじゃなくて、なんなのかを聞いてるんだけど──なんてねーちゃんに聞いてもダメか。思考が野蛮人だもん。
とりあえず、左指を右にかざして>っとな。
あ、今さらだけど、>は英語のブイじゃなくヨリチイサイね。方向とかは問わないでいただけると助かります。なんで鑑定は左目。千里眼は右目。ヨリチイサイを使うでよろしくです。
あ、ヨリオオキイは後々ね。
「……魔物だね。オールダーって通称らしい……」
通称ってことは一般的になってるってこと。つまり、他から流れて来た、ってことか?
「一匹だけ? 他には?」
「いたよ。いっぱい。ただ、逃げ足が速くて殺せなかったんだ」
さらに鑑定すると、こいつは人を襲うのではなく、周囲に冷気を放って人の活動を阻害する魔物のようだ。
……ねーちゃんの服は寒さ対策ばっちりだからオールダーにとっては天敵だな……。
オールダーに触ると意外とふわふわ。持ってみたら意外と重い。よくわからん魔物だぜ。
「解体してみる」
ふわふわの中がどうなってるか興味あるし。
で、毛(と仮定)を刈ると、ネズミ? のような生き物が現れた。
「……森ネズミの亜種かしら……?」
とはハリュシュ。いつの間に!? って、ジェスたちもいました。全然気がつかんかったわ!
イカンな。集中しすぎた。ねーちゃんやシルバーがいても本人が鈍感では意味ないわ。もっと感覚を鍛えにゃならんな。
「亜種?」
鍛えるのはあとにして気になったことを尋ねる。
「魔物はその土地に合わせて進化するのよ。本来は森で生きてるだけのネズミなのよ」
ってことは、魔物は元来この世界の生き物ってことか? ったく、謎が増えるばかりである。
「リン。そいつは食えるのか?」
オレの影響か、ジェスが食えるのかを問うて来る。
「……食える……」
「なにか問題があるのか?」
言い淀んだことになにかを察したジェス。もしかしてオレよりオレのこと理解してんじゃね?
「肉、よくない。薄い」
オールダーは肉食だ。だが、こんな季節に活動する生き物なんてそうはいない。食えないから生まれ持った魔力や栄養を消費する。故に味が落ちるってことだ。
「オールダー、肉よりこっち」
毛(と断定)のほうが断然価値がある。
「使える」
これを糸にしたらいろんな衣服が作れるし、布団に入れたら温かくなる。クッションにもいいかも。
「ねー。いっぱい狩って来て」
「狩って来いって言われてもな~。あいつら気配察知が鋭いし、素早いからいっぱいは無理だよ」
ねーちゃんがそう言うのだからそうなのだろう。ったく、魔物なら魔物らしく襲って来いや。
「リン。おれたちが狩って来るから食料と交換してくれ」
と、ジェスが提案して来た。
「いいんじゃないの。あたしより素早いし」
ねーちゃんがそう言うってことは獣人の身体能力は高いってことか。
「銅貨三枚まで」
「なっ、それは──」
と、抗議の声を上げようとしたハリュシュの口をジェスが塞いだ。
「わかった。それでいい」
了解したジェスは、抵抗するハリュシュを連れていった。
「まったく、あのねーちゃんにも困ったもんだよな。銅貨三枚稼ぐのにどんだけ大変だと思ってんだよ」
今では銀貨一枚稼ぐくらい楽勝だが、小さい頃から苦労し、牧場で働く大変さを知ったのだろう。文句を言うハリュシュを軽蔑の目で見ていた。
まっ、人それぞれの価値観。オレがどうこう言う資格はないさ。
「なあ、リン。あたしも狩りたいんだけど、なんかいい方法ないかな?」
「ジェスたちに任せたらいいじゃない」
ねーちゃんは雪ウサギ狩ってなよ。ライバルが減ったんだからさ。
あ、猟師のおっちゃんは出ないからか、来なくなりました。
「そうなんだけど、遠距離攻撃が欲しいなぁ~って。なんか考えてよ」
ソードロードとマギロードがあるんだからそれを鍛えなよ。飛ぶ斬撃とか魔法の矢とかいろいろあるでしょうが。
あ、でも、遠距離攻撃はあったほうがいいな。
「魔力はたくさん使うけど強力な一撃と、魔力が節約できて矢並みの攻撃、どっちが好み?」
「強力な一撃!」
即答ですか。まあ、ねーちゃんらしいけど。
「わかった。創ってみるよ」
魔力的に問題はないと思うけど、物が物だし、やってみないとわからない。一晩ゆっくり考えてみて創ったらあらできた。
「……マジか……」
手のひらの創造魔法、マジチート。ちょっと怖くなったわ……。
「リン。できたの?」
「うん。できた。かなりヤバイものが」
これは封印したほうがいいんじゃないか? 邪神に目をつけられること間違いなしだぜ。
なかったことにしようと思ったときは既にお寿司。いつの間にかねーちゃんに召し上げられてしまってました。
「どうすんのこれ?」
お目々をキラキラさせるお姉様。オレはとんでもないものを生み出した……っていいや。知らん。成るように成るだ。
「利き腕とは逆の中指にして」
「わかった!」
左手の中指に指輪を嵌めた。
「じゃあ、指輪に魔力を込めて」
「わかった!」
そして、ねーちゃんがぶっ倒れました。
うん。そりゃそうだろうな。レーザー出せる指輪だし……。
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