第29話 千里の道も一歩から
「──リーン! リーン! どこにいるんだぁー?」
ふにゃ? なんだ?
オレの名を呼ぶ声で眠りから目覚めた。
「ガウガウ」
「ん? ナナリが来た? なに言ってんだ、お前?」
そんなことより酷く体がダルいぞ? って、ローブ脱いで寝たからか。いかんな。気持ちいいからと寝るときまでローブを纏ってるから体が鈍ってるわ。
「リン!」
「ん? ねーちゃん?」
どったの? そんな険しい顔して?
「バカ! 心配させるな!」
と、力強く抱き締められた。って、本気出さないでよ! 実が出ちゃう!
ローブばかりに防御力を振ったから中のワンピースは防御力ゼロなのだ。
イカンな。オレはそう言うところが抜けてるぜ。奥の手はいくらあっても困らないのによ。
まあ、今は問題点の指摘よりねーちゃんからの圧力をなんとかせねば天に召されてしまうわ。
「……ね、ねーちゃん、苦しい……」
「──あ、ごめん!?」
すぐに冷静さを取り戻せるお姉様がステキです……。
動かない体を手のひらの創造魔法で回復。五歳児の体、華奢すぎ!
「ふぅ~。なんとか生還。で、どうしたの、ねーちゃん?」
「どうしたの、じゃない! 町が魔物に襲われて家に帰ればリンはいないし、山は魔物で覆われてるし、もうワケがわかんないよ!」
うん。ねーちゃんにはもっと説明力が必要なのは理解したよ。
「かーちゃんは大丈夫なの?」
かーちゃんには防御の指輪をさせているが、絶対防御ではない。刃物を弾く程度の防御力しかないのだ。
「かーちゃんは無事だよ。町を襲った魔物もすぐに山に向かったから大した被害もないってさ」
つまり、バフリーはオレを全力で殺しに来た、ってことか? それって、邪神はオレたちの存在に気がついたってことじゃね?
ヤ、ヤベー! チョーヤベーよ! 鬼ヤベーじゃん! どうすんのよこれ!? どうなんのよこれ?! 誰かなんとかしてよ!!
「リン、どうしたの? こんなに震えて」
「……お、思い出したら怖くなったの……」
落ち着け、オレ。邪神がオレたちに気がついた証拠はない。たんに強敵がいたから潰しに来たって推測もあるじゃねーか。決めつけるのは早計だ。
邪神の野望を砕くために転生させられたのは百──ではなく九十九人。他が暴れてくれればオレから目を逸らしてくれるかもしれんではないか。
そうだ。まだ潜伏期間。力を蓄える時。攻勢……はしたくないけど、攻勢に出なくちゃならないときはまだ先だ。と、自分を納得させて謙虚に慎ましやかに、そして、ふてぶてしく生きていこう。うん。
「ねーちゃん、外はどうなってるの?」
洞窟内にバフリーの姿はないが、あれだけの数、残党はいるはずだ。
「弱った魔物やら共食いしたのやらがいるよ」
と言うので、ローブを纏って外に出てみる。
「……酷いもんだ……」
見渡せる限りにバフリーの死体。いや、動いているのもいるな。しぶといこと。
「ねーちゃん。生きてるの潰すよ」
落ちている枝を拾い、近くにいるバフリーへと振り下ろす。べしっ。
「……意外と堅い……」
いや、オレに力がないだけか。なら突き刺すまでと、鋭い槍を創り出す。えい!
今度は刺さり、ピクピク動いてたバフリーが天に召された。
「能力開示」
う~ん。経験値2のゴミか。まあ、そのゴミに力負けしてるオレは惰弱な五歳児ですがね!
「リン。あんた槍まで創れるようになったの?」
「うん。バフリー倒してレベルアップした」
と言うことにしておく。そう言っておけばねーちゃんのやる気スイッチが押されるから。
「そうなんだ! じゃあ、あたしにも槍出してよ!」
「剣じゃないの?」
ねーちゃんソードロードじゃん。槍では……どうなんだ? 槍も使い様では剣にもなるしな。
「あたしの体だと槍のほうが使い勝手がいいんだよ」
そう言うもんなの? まあ、ねーちゃんがそう言うならオレに異論はなし。ねーちゃんの背丈くらいの槍を創り出す。
「どう? 重くない?」
穂先と石突きはタングステンを思い、柄は樫の木を想像してみた。
「うん。いい感じ──」
ふんとバフリーに突き刺した。
「軽くていいね!」
タングステンは重いって聞いたことあるが、ねーちゃんには関係ないようだ。まあ、ゴブリンの首とか捻じ切っちゃうしね。もっと重くてもよかったかもな。
「シルバーはバフリーを一ヶ所に集めて」
ローブを育てるのもいいが、野望の穴も育てなければならん。命は大事に活かしましょう、だ。
「ガウ!」
んじゃ、残敵掃討開始っと──始めて三十分。もう限界です。
「……ちょっと休憩……」
刺すだけの簡単な作業なのに、結構力と体力を使いますわ~。
「能力開示」
う~ん。レベル2か~。妥当と言えば妥当だが、邪神の揺り籠を壊さないとレベルは上がり難いな~。
魔物を倒すのはスキルアップ。邪神の揺り籠でレベルアップ。そう考えていたほうがいいかもな。
オレは強さを数字で表すのはすかん。力は複合性。数字に出ないところに強さの本質があると信じるからだ。
あくまでも指標。判断材料の一つ。その程度にしておけばいい。己の分をわかっていけば敵を見誤ることはないんだからな。
「さて。もうちょっと頑張るか」
強さに近道なし。千里の道も一歩から。最後まで立ってた者が勝者だ。
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