第28話 バフリー

「──ああ、勝ったぞ! 生まれる前のオレ! 紛れもなくオレの勝利だ。ヒィーハー!」


「ガウゥ~!」


「アハハ! わかってるさ! まだこの勝負は終わってないってな!」


 後ろを振り返ればバフリーの群れが迫って来てる。


「お速いこと。シルバーに乗ってなかったら追いつかれてたな」


 シルバー全力で離れないのだから時速は百キロ以上は余裕か。こんなのに群れで狙われたら町なんて簡単に滅ぼされんな。コエ~。


「シルバー! 雨宿りの洞窟へいけ!」


 もうこの山、ってか山脈か? 結構連なってるけど? まあ、シルバーによりオレの行動範囲はかなり広くなり、山の地形や木々の分布、川や滝の位置、雨宿りできる洞窟なんかも熟知している。


「まさに地の利は我にありだ!」


 山を下に上に小川を跳び越えやって来たのは雨宿りの洞窟だ。


 昔、シルバーの同種の熊が住んでたのか、毛やフンが落ちていたが、綺麗にして休めるようにした。


 まあ、雨宿りできる程度のものなので物はなにもない。ローブ着てれば寒くも暑くもないし、アイテムボックスには食料も入ってるからな。


 雨宿りの洞窟の奥行きは二十メートルもない。完全な行き止まりだ。


 逃げ込むの? と普通は思うだろう。だが、我に勝機あり。いや、正確にいうなら策あり、かな?


 雨宿りの洞窟が見え、時速百キロ(体感で)のまま飛び込み、急ブレーキーーで止まるワケもなく壁へと激突。シルバーが弾かれる。


 だが、オレにケガはなし。ローブが衝撃を吸収してくれ中には届きませーん。勝利のブイ!


「って、まだ早いっと!」


 起き上がり、ローブの埃をパンパンと払う。身嗜みは大事です。だって女の子だもん。


「ガウ!」


「慌てんなってーの!」


 ローブの左袖口をバフリーに向ける。


「我が左手は暴食の口なり。魔法陣展開! 吸引!」


 とかなんとか格好つけちゃったりなんかりして~。恥ずかしっ。


 なんてまあ、お巫山戯はこのくらいにして漏斗な感じの魔法陣を洞窟いっぱいに広げ、襲い来るバフリーを袖口からアイテムボックスへと放り込む。


 漏斗な感じの魔法陣だけで自前の魔力が吹き飛んだが、いざという時の魔石は仕込んである。


 すぐにアイテムボックスに入った魔石を魔力に変換。これで魔石が八個も飛んでしまった。残り四個だぜ。


 しかし、慌てることなかれ。変換した魔力で入って来たバフリーを魔力に変換する。


 ここで物を言うのが熟練度。やればやるほど熟練度が増し、消費する魔力は減ることになる。


 徐々に徐々に魔力が溜まり、それをローブに回す。進化したローブはさらに大量のバフリーを吸引する。


「なんて美味しいインフレスパイラル」


 あ、ゴメン。適当に言ってみた。


「ヌハハハハ! ジャンジャンバリバリジャンジャンバリバリ確変キター! 誰かドル箱持って来てー!」


 あ、ゴメン。これも適当に言ってみた。オレ、パチンコしたことねーし。


 魔力が溜まる溜まる、バフリー様々だぜ!


「ってか、まるで蝗害だな。邪神もおっかねーもん生み出しやがるぜ」


 ラグビーボールほどのトカゲだか虫だかわからんものが万単位で襲って来るとか悪夢を通り越して絶望だわ。ほんと、あの神様鬼畜だぜ。


 あ、いや、鬼畜は邪神のほうか。元凶なんだしな。


「ガウゥ~」


「飽きたとか言うな。飽きてんのはオレのほうだわ」


 お前は寝てるだけだが、こっちは終わるまでこの場から動けないんだぞ。飽きた上に疲れたわ。


 吸引してから一時間が過ぎようとしてるのにバフリーが尽きる気配はない。下手したら億とかいたりしてな。


「ヤベー。悪夢から絶望に変わりそうだわ」


「ガウガウ、ガウ?」


「え? 脱げばいいじゃないって?」


 あ、それもそうだな。自動にすればいいだけじゃん。バカかオレは?


 よいしょっと。ハー疲れた。


「念のためにアイテムバッグを分けてて正解だったぜ」


 ローブを脱いだら機能はストップするようにしてあるので、アイテムボックスから物を出すことはできないのだ。


「暗くなっちゃったな」


 バフリーで外は見えないものの、襲われたのは夕方。とっくに陽が暮れてる時間だ。


「かーちゃんやねーちゃん、心配してるかな?」


 まあ、してるとは思うが、それほどではないだろう。シルバーが一緒にいるんだからな。


「腹減ったな」


「ガウ」


 んじゃ、夕飯にするか。そうだ。今日は誰もいないから前世の料理を創っちゃおうっと。なにがいいかな~?


「うん。ラーメンだ。シルバーには和牛を出してやるぞ」


「ガウ?」


「まあ、食えばわかるさ。でも、ねーちゃんたちには内緒だからな」


 オレは前世でよく食べた味噌ラーメン。シルバーは松〇牛だ。


 松〇牛なんて食ったことないけど、神様印の能力なら大丈夫だろう。どうよ、シルバーくん。


「ガフ~ン!」


 そうかそうか美味しいか。そりゃなにより。あとでこっそりビーフジャーキー創っちゃおう。


「ごちそうさまでした」


「ガフガフ」


 うん。食ったら眠くなった。


「しっかし、一向に衰えんな。逃げるとか考えつかんのか? 魔物ってバカなの?」


 まっ、賢いよりはいっか。寝よう。


「おやすみ、シルバー」


「ガウ」


 シルバーの腕の中で眠りについた。

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