第27話 神に選ばれし者たち

 神に異世界を救えと選ばれた戦士は百人。


 老若男女、構わず選ばれた感じだ。


 おっ、漫画の主人公よろしくえらばれちゃった感じ? アガルわ~!


 だが、次の言葉で落とされた。


「……まずはこんなものか……」


 え? まずは? こんなもの? 適当に集めちゃった感じ?


「君らに救って欲しい世界はウェルヴィーア。邪神の侵略により滅ぼされそうな世界である」


 そんなとんでも話を聞いて喜んだヤツが何人もいたが、最初のセリフを聞いてなぜ喜べるかがわからない。オレらお試し扱いなんだぞ。失敗覚悟の使い捨てなんだぞ! ここは怒るところだろうがよ!


 そうは思っても小心者は黙るだけ。流されるだけである。


 神は続ける。


「汝らに力を一つ預けよう。なんなりと願うがよい」


 じゃあ、生き返らせてください。なんて思ったヤツがいたようで、神の雷を受けて戦士が九十九人となりましたとさ。願わなくてよかったー!


「汝らに断る資格なし。拒否は死。力を選び、邪神と戦う道しか選べない」


 ヤダ。神様が横暴すぎる。開始数秒でわかったけど!


「──世界最強の剣をください!」


 と、アホが真っ先に手を上げ、アホな願いをしやがった。


「よかろう。生まれ変わり、苦難を乗り越え邪神の野望を砕くがよい」


 横暴って時点でダメだとわかっただろうに迂闊すぎんだろう。もっとよく考えろや!


「──自分にだけ使える最強の剣をください!」


 ちょっとは考えた様だが、それでも迂闊すぎる。剣ばかり最強でもお前は普通かもしれんだろうが。しかも、生まれ変わってと言っただろうがよ!


 軍人か格闘家ならまだ希望はあるだろうが、一般ピープルが戦えと言われても戦えるワケがない。それでも戦えと言う神が優しくなんかあるはずがないだろう。


 そして、苦難を乗り越えろと言った。んなもん、考えなくても苦難の連続だって言ってる様なもんじゃん。


 生まれ変わり。それはつまり、オギャーからやれって言ってるようなもんじゃん。


 どこに生まれるとも、健康で生まれるとも、丈夫に育つともわからない、地獄いき。いや、地獄落ちか。この神様は閻魔様だったのか。


 って、オレは罪人か? いや、清廉潔白になんか生きて来なかったから天国にいけるとは思ってなかったけど、異世界地獄に落とされるとは夢にも思わなかったよ。


「──王がいるなら王の子として生まれ変わらせてください!」


 またハードコースを選ぶヤツがいたもんだ。いい暮らしができると思ってんのかね? オレには戦いの日々しか想像できんよ。


 無理ゲーと悟った者は生き残るために必死に考えている。それはオレも同じだ。ここでの決断が後の自分の幸せを決めるんだからな。


 だが、どう考えても光明は見えない。能力一つで生き残れるほど元の世界でも異世界でも同じことだろうからだ。


「──どんな魔法でも使える力をください!」


 それはオレも考えた。だが、この神様がそんな都合のよい力などくれるか? 強いヤツから危険なところに振り分けてもオレは驚かんぞ。


「──戦える術を身につけられる家に生まれ変わらせてください!」


 うん。戦う気満々で神様も嬉しいだろう。オレの分まで戦って世を平和にしてください勇者様。


「ゲームみたいに生き物や魔物などを殺したらレベルアップできる体にしてください」


 あ、そう言う手があったな。オレも──。


「ほぉう。それはおもしろい。では、これから旅立つ者にはレベルアップできるようにしよう。褒美だ。強い魔物がいるところに生まれさせてやろう」


 あ、うん。願わなくてよかった。あれは死ぬわ。生き残っても羅刹の道しか見えねーわ。


 クソ! 早く選ばねば。この場合、最初も最後もアウト。真ん中が安全圏なのだ。


 これはオレの持論。リストラされて学んだ。考えなしではダメ。慎重でもダメ。賢くてもダメ。愚かでもダメ。最初は目立って妬まれ、最後は役立たずと捨てられる。どちらから切られて残るのは真ん中。可もなく不可もなくなヤツだけが残るのだ。


 もちろん、それが正解とは思わない。だが、この場ではそれが正しいと思う。


 神様は試している。どんな問題があるかを見ている。勘だ。勘でしかない。たが、ときには賭けに出ることも大事。自分を信じて決断するのだ。


 それは、ここ。今、この時をもって他にはない。


「手のひらの創造魔法をください! 魔力次第でどんな魔法でも創り出せる力を!」


 高望みせず、限定的な能力で、知恵に重きに置いた力だ。


「ほう。お主はおもしろいな。よかろう。苦難を乗り越えてみよ」


 そしてオレはウェルヴィーアと言う世界に生まれた。女として。それ相応の魔力しか与えられず。可もなく不可もない場所に、だ。


 賭けには勝った、で、よいのだろうかね、未来のオレよ……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る