第26話 我にチートあり!

 夏が終わり秋が来た。


 そう、実りの秋。山に野に畑にと、食い物がたくさん実るのだ。秋万歳である!


「さあ、収穫祭りじゃー!」


 採って採って採りまくるぞー! おー!


 と、一人で盛り上がります。うん、寂しい……。


 秋だと言うのにかーちゃんもねーちゃんも別の仕事を入れており、山に野に畑にと出てくれないのだ。


 まあ、かーちゃんはいつものこと。麦の収穫や冬越し用に家畜の解体と、冬を乗り越えるためのお仕事だ。抜けるワケにはいかん。


 問題はねーちゃんだ。いつもならオレと収穫に励むのだが、今年は牧場の手伝いへといってしまった。


 牧場も冬越しのために人手はいくらあってもいいらしく、報酬も出るからと言って、そちらを選んだのだ。


 報酬がチーズだから許してるけど、タダだったら許さないんだからね! ちゃんといいところをもらって来てよね、プンプン!


 なんて怒ってる暇はない。ここの秋は短いのだ、一分一秒無駄にしてられんぜ。


「おはよう、リン」


 意気込んで外に出ると、ネイリーとその仲間たちが挨拶して来た。


 完全にここに住む気なようで、しっかりとした小屋を三つと冬越し用の土蔵まで作る始末。迷惑と言えないのが辛いところだ。


 戦は数だとはまさに至言。五歳児と熊だけではできないことがたくさんできるのである。困ったこともたくさんあるけどよ。


「うん」


「今日もベリー摘み?」


「うん」


「そう。わたしたちはゴッズの実とゴブリン退治をするわ。じゃーね」


 そう言うとあっさり去っていった。


 オレとの付き合いを学んだようで、さり気なくこちらの情報を聞き、そちらの情報を教えて来る。ジェスの妹だけあってオレの扱いが上手いぜ。


 流されちゃいけないとはわかっていても、現状に負けて流されてしまう。生きるとはままならないもんだぜ……。


 なんて哲学に耽ってる場合ではない。ベリー摘みにいこうっと。


「しかし、ベリー摘みも飽きたな」


 夏の半ばからベリー摘みはしてたので、結構な量となっているが、人が増えれば消費は増え、美味いとなれば人気にもなる。


 ジャムにワインに保存食にと、摘んでも摘んでも保存に回せない。またかーちゃんがおしゃべりして娼館のばーちゃんが買いに来たり、グルメじーちゃんが買い占めたりと、自分のを確保するのも難しいほどである。


「なんて、嬉しい悲鳴なんだけどね!」


 別に保存できなくても手のひらの創造魔法で創れるし、ジェスたちが魔石払いしてくれるので自分たちが食う分にはまったく困らない。


 ゴブリン退治もジェスたちがやってくれ、ちゃんと死体は野望の穴に捨ててくれる。その報酬としてイモを十個渡してるが、ボロ儲けとしか言いようがない。


 なんて笑いが止まらない状況に負けて、ジェスたちを受け入れているワケなんですよ。ハァ~。


「……成るようにしか成らないか……」


 備えることは大事だが、あらゆるリスクに備えるなんて土台無理な話。臨機応変にやるしかないのだ。


 ベリーを摘み摘み数時間。この一帯も摘み尽くしたな~。


 来年もなるんかな? と不安になるが、まあ、来年は別のところで摘めばいっか。ベリーの産地かよ! と突っ込みたいくらいベリーが生えた山があるんだからな。


「ガウ!」


 ぼんやりしてたらシルバーが警戒の声を上げた。なんや?


「……なんだ、あれ……?」


 なにか遠くに黒い靄? ではないな。左指で>を作って右目の前にかざす。


「千里眼!」


 今度は本当だよ。山々を探るために創ったんです。ベリー見つけるためにな。


「トカゲ? いや、羽が生えてんな? 虫か?」


 なんだかわからん生き物が大量にこちらに向かって来る。


「なんかヤバそうな感じ」


 数からしてヤバいのだが、ヤツらの口から見える歯がマジヤバい。あれは肉を切り裂くための歯だ。


 左指で>を作って左目の前にかざす。


「鑑定!」


 してびっくり。邪神の揺り籠製の魔物でした~。クソが!


 通称バフリー。通称って、誰がつけてんだよと突っ込みたいのを堪え、さらに鑑定。雑食性だが、アゴが弱いので柔らかいものしか食べない。特に好物が果物と来たもんだ!


「ハーイ。ベリーありまーす。柔らかい肉がいまーす。うん。最悪だネ。アハハハハァ~!」


 ──って! 逃避してる場合か逃げろや!


「シルバー、ハイヨー!」


 それがやりたかったのか? なんて突っ込みに答えている暇はなし。ヤツらは大量にやって来るのだよ。


「メッチャ狙われてるぅ~!」


 完全にロックオンされたわ。どないしょ?


 とりあえず、オレの攻撃手段て石を……って山ん中で手頃の石なんかあるワケねー! 


 ならば季節を利用した木の葉隠れよ! と落ち葉を吸って辺りに撒く。が、まったく効果ナッシング。舞う枯れ葉を突き破って向かって来てる。


「オレピンチ!」


 絶体絶命なこの状況。誰かなんとかしてー!


 と、叫んだところで救いのヒーローはやって来ない。自分の命は自分で守る。それが世界のルールだ。


 違うと言うなら助けてください! この状況を覆してください! 平和な世界にしてくださいよぅ~~~~っ!


「ナメんじゃねーぞ、こん畜生どもがっ!」


 そうだ。これはチャンスだ。そして、神が我に与えもうたボーナスステージなのだ。


 と意識を変えたら光明が見えた。


 そう。この世界で生きるために願ったオレだけの武器。


「その名は手のひらの創造魔法!」


 我にチートあり、だ!

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