第9話 回復薬

 春はあけぼの……うんたらかんたら。


 いいこと言おうとしたが、学がないことを示しただけだったわ。


 まあなんだ、長い冬が去り、命が芽吹き春が来たってことを言いたかったワケですよ。


「リン。あとはよろしくね」


「うん。いってらっしゃい」


 今日からかーちゃんもお仕事開始。隊商が活発になる前に宿屋の掃除や洗濯をするんだって。お勤めご苦労さまです。


 我が家の食事当番となった、って言うか、多数決で押しつけられただな。炊き込みご飯の魔力に当てられてな。


 まあ、健康と成長を考えたらオレがやったほうがいい。健全な肉体には健全な魔力が宿るからな。


 美味しくて栄養のある食事は魔力増幅に繋がる。この冬の間に米一俵(イモ換算だと三十二個ね)出せるようなったのだ。


「十五歳になる頃は前世と同じ食事ができるな。フフ」


 ──いや、世界を救えよ! 


 とか神様から突っ込み受けそうだが、そんなもん知りません! こっちは今日を生きるのに必死なんだよ! させたきゃ暮らしをよくしやがれってんだ! 話はそれからだ、こん畜生が!


 木皿と鍋を川で洗い、昼用の米を炊く。今日は山に山菜採りに出かけるのです。


「リン。おやつはなににするんだ?」


 すっかり甘いものに目覚めたねーちゃん。山に行くのを渋るから甘いもので釣ったのだ。


「大福だよ」


 まあ、こちらの世界の豆で創ったなんちゃって大豆だけど、創造魔法さんにかかれば前世と同じ大福になるッスよ。


「何個? 何個食べていいんだ!」


「今日は特別だから四個。それ以上はダメだからね」


 糖質は押さえているけど、食べすぎはよくない。無節操な食事は体に悪いからね。


「うん! わかった」


 なんともいい笑顔を見せるお姉様。無邪気なもんだ。


 炊き上がった米をおにぎり……は無理か。手が小っちゃすぎる。


 しょうがないんでアイテムバッグに入れていくか。山菜採り用のバッグなら行くときは空だしな。


 木皿とフォーク、ウサ肉そぼろの瓶とスバって実の塩漬けの瓶を入れて準備完了。では、ねーちゃん行きますか。


「ゴブリン出るかな?」


 山刀を振り回しながら物騒なことを口にするお姉様。


 どうも、ねーちゃんの中では山菜採りが斬殺ピクニックになってるようだ。


「ねーちゃんも飽きないね。ゴブリン殺し」


 数えているワケじゃないが、少なくとも二百匹は殺してるはず。狼もたぶんそんくらいだ。


「飽きないね。あの恐怖に歪ませた顔とかサイコー! 泣き出したらもっとサイコーだ!」


 サイコーじゃなくてサイコになってるよ。


 まあ、その感覚はどうかと思うけど、魔物は人類にとって害悪。神様も魔物を駆逐せよと言ってたからよしとしよう。


「あ、山菜だ」


 山に入る前から見つけられるとは幸先いいぜ。


「ねーちゃん見張っててね。遠くにいっちゃダメだからね」


 そんなことしたらオレ死んじゃうよ。ねーちゃんと違ってオレは魔力に極振りしてんだからさ。


「わかってる。大福は守るよ」


 そこは妹って言ってよ。オレ、泣くよ。


 なんて冗談はともかく山菜採り開始。我が家の食卓を賑やかにしましょう~ね~。


 えっちらおっちら大漁じゃー!


「根こそぎだな」


 ハイ、根こそぎです。来年のことなど考えちゃいねーよ! 採れるときに採る。オレは今を生きてるのじゃあぁぁぁっ!


 って言うのはウソ。ちゃんと考えて採ってますよ。ライバルに採られないよう見えるところは採っちゃうのです。ここはオレの縄張りじゃー!


「じゃあ、次いこうか」


 山の中にレッツらゴー! と入ったはいいものの山菜がございません。なんでじゃー!?


「リン。これ、薬草じゃない?」


 と、ねーちゃんが形はヨモギっぽく、黒の斑点があるものを差し出して来た。


 鑑定眼、発動!


 右手の指で>を作り目にかざす。特に意味はなし。


「これ、回復薬になるヤツだよ!」


 出ました、ファンタジーにありがちなヤツ! 


「ねーちゃんよく知ってたね?」


「前に来た男の記憶だよ。冒険者はよくこれを集めてギルドに持ってくみたい。十束で銅貨五枚だって」


 価値や価格は知らんけど、たぶん、ボッタくられてんな。危険な山に入って銅貨五枚じゃ割に合わんよ。


 ……だが、オレらは割に合うもんだな……。


「ねーちゃん。薬草集めるよ。あと魔力回復薬になりそうな草も探して!」


 ファンタジーなら魔力回復薬もあるはず。材料となる草があるだけでも手のひらの創造魔法で創れるわ。


 この際、ちょっとでも魔力回復できたらやれることは劇的に増える。ねーちゃんよ、ブタのように探すがよい!


「面倒くさいな~」


「魔力回復薬があれば大福より美味しくて甘いものが食べられるのにな~」


「任せろ!」


 バビュンと駆けていくお姉様。食べられるのはオレの命があってこそってのを忘れないでね~!

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