第8話 美味しいは正義

 今年の冬はゆるやかに過ぎていく。


「平和だね~」


 と、雪ウサギをぶっ殺す姉を見ながら呟いてみる。うん、殺伐としてますわ~。


 まあ、雪ウサギを淡々と解体するオレも殺伐としてんだけどね。


 冬にだけ現れる雪ウサギは、単独行動する魔物のようで、毎日のように三丸に釣られてやって来る。


 中型犬くらいのサイズで動きは敏捷。鋭い牙と爪を持っていた。


 もうウサギじゃねーよ! とか言っても無駄。ここは異世界。前世の常識など肥溜めにポイだ。いや、この世界で肥溜めあるか知らんけど!


 そんな凶悪なウサギではあるが、残虐姉妹の前では美味しいだけの存在。天からの恵み。スタッフが美味しくいただきましただ。


「リン。はいよ」


 無惨に四肢を切られたウサギしゃん。君の命はオレたち姉妹が無駄なくいただくから成仏してネ。呪っちゃイヤよ。


「ありがと」


 ねーちゃんに礼を言って皮を剥ぐ。


「……ウサギ肉、飽きた……」


 ボソッと呟くねーちゃん。飽きるの早いよ。


「毎日違う味にしてるじゃない」


 うちの食卓を握ってるのは四歳児のオレです。


 四歳児になにができんのよ? と思う方もいらっしゃるだろう。


 だが、食材がない状況では焼くか煮るかのどちらか。四歳児の体でもそのくらいはできるわ。つーか、こうして捌いてんだから焼くや煮るくらいなんでもねーよ。


「そうだけど、肉とイモは飽きるぅ」


 しょうがないねーちゃんだなぁ。食べれるだけ幸せなんだよ。


「じゃあ、町から鍋を仕入れて来てよ。イモじゃないの出すからさ」


「リン、イモ以外にも出せたのか?」


「最近出せるようになった」


 人間の基礎は食事から。と言うかは知らんけど、肉を食うようになってから魔力量が増えていった。


 二月くらい前までは一日十五、六個のイモを出せてたが、肉を食べるようになってから徐々に出せる量が増え、今なら二十五は余裕である。


 まあ、すべてをイモに換えているわけじゃないし、一日の消費が六個だけ。二十五個出したのも八日前のことだ。


「なにが出せるんだ?」


 お目々をキラキラさせる七歳児。平和なところに生まれて平和に育てば可愛い子になっただろうに。なんて、詮無きことよ。今のねーちゃんを愛しましょう、だ。


 とりあえず、ねーちゃんが喜びそうなものを創造する。


「なに、この赤いの?」


「飴だよ」


「飴!?」


 この世界、飴はある。が、やはり高価なものらしく、商人のオヤジからご褒美に四つもらったと言っていたよ。まあ、あんまり美味しくなかったから残り一つはねーちゃんにあげたけどな。


「舐めてみなよ」


 なんの躊躇いもなく飴を口に放り込んだ。


 ……お菓子に釣られて誘拐されないか心配だな……。


「美味しい! なんだこれ!?」


 飴だよ。とは言えないな。前世のイチゴ飴(大玉)なんだからな。


「果物の飴だよ。ヘビイチゴの高級なやつ」


 便宜上、ヘビイチゴと呼んでるが、種類は別でちゃんと食べられ、春のおやつとなっているのだ。


「美味しひぃ~」


 聞いちゃいないか。


「もっと欲しい!」


「出してもいいけど、今日もウサギ肉とイモモチだよ」


 オレは元から食に興味はない。とは言いすぎだが、ほどほどの味なら文句は言わない質なのだ。


「うっ。それはヤだ……」


「飴なら一日五個は出せるから今日は鍋を仕入れて来てよ。美味しいの創るからさ」


 作るではなく創るなのがミソ。まさに創作料理だ。


「わかった。鍋を仕入れて来る」


 ハイ、いってらっしゃい。悪ガキどもに絡まれても殺しちゃダメだからね。スタンハンドで即落ちさせるんだからね。


 イヤそうな顔で町へといくねーちゃんを見送り、雪ウサギの解体を再開させる。


「……はぁ~。肉を町で売れたら楽なんだがな……」


 溜まる一方のウサギ肉についため息が漏れてしまう。


 中型犬くらいのウサギから採れる肉は約十キロ。細かく解体すればもっと採れるとは思うが、労力に見合わないので腿と背の辺りを採るだけ。内臓系は怖いので野望の穴に捨ててます。


 解体した肉は真空パック(創造魔法万歳である)し、地下の保存庫に仕舞っておく。


「保存庫もいっぱいか。こりゃアイテムボックスをつくらんとならんな」


 アイテムバッグは狼の皮を利用して創ってはみたが、魔力不足で容量は少ない。今の段階ではちょっとした冷蔵庫くらいか? まあ、一日イモ一個分ずつ広げてるし、入れるものは非常食だけ。そう急ぐこともなし、だ。


 それに、ねーちゃんにもアイテムバッグは渡してある。万が一には対応できんだろう。


 しばらくしてねーちゃんが鍋を買って帰って来た。お疲れさん。大丈夫だった?


「ああ。なんか魔物が出たとか騒いでたけど」


「そっか。まあ、町のことは町に任せたらいいさ」


 オレたち、町の外のもんって扱いだしな。


 鍋をもらい、手のひらの創造魔法で無洗米を三合ほど出す。イモ三個分か。


「なにそれ?」


「米って野菜? まあ、食べると美味しいもんだよ」


 水とウサギ肉の角切り。ニンジン、ゴボウ、油揚げ、醤油、砂糖、みりんを創ってぶち込み、家の竈で炊く。


「いい匂いね。なに作ってるの?」


 雪ウサギの毛を糸にし、編み物をしていたかーちゃんが匂いに釣られてやって来た。


「炊き込みご飯」


「炊き込みご飯? リンが考えたの?」


「うん」


 それで納得するお母様。徐々にやっていけばそれが当たり前となり、受け入れるものである。いや、テキトーだけど!


 まあ、変とは思ってるだろうが美味しいは正義。正義の前では変など些細なことなのだ。


「美味しいー!」


「本当ね」


 うん。雑に創ったにしては美味いな。やはり米はいい。もうちょっと魔力が増えたら味噌汁も創ろうっと。


 冬はまだ続く。いっぱい食べて魔力を増やしましょう、だ。


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