第7話 四度目の冬
今年も冬がやって来た。
たぶん、四度目の冬だ。なので今日から四歳とする。
「今年の冬はなんとか越せそうね」
かーちゃんが降る雪を見ながら嬉しそうに呟いた。
この地域はかなり雪が降るところのようで、ピークには二メートルは積もるほどだ。
そんな中でどう暮らすん?
薪を大量に集めて穀物類や干し肉を貯める。あとは根性で乗り切る。以上!
──乱暴だな。
ハイ、乱暴です。だって自然相手ですし。根性出さなきゃ死ぬんだもん。諦めたらそこで終わりですもん。
とは言え、今年からは文明の利器ならぬ魔法の利器があります。冬、かかって来いや! である。
「この石、温かいね」
越冬道具その一。熱石と命名した野球のボール大の石は、冷たさをエネルギーにして熱を発するようにしたのだ。
薪をくべるようにバケツ一杯の雪か氷をくべると二時間ほど五十度くらいの熱を発し、四つ置けば厚着すれば充分過ごせるのだ。
まあ、小まめにくべなくちゃならんが、寒さで死ぬよりはマシだ。一酸化炭素中毒で死ぬこともないしな。夜、寝るときは太陽の熱を溜めた石を行火あんかに入れれば朝までグッスリよ。
越冬道具その二。黒板&チョーク。行動が制限される間、読み書きの練習をするのだ。
「文字なんて誰に教わったの?」
母上様からのごもっともな質問。
「町で」
と、お姉様が短く答えた。
「……そうなの……」
ねーちゃんは早めの反抗期ですよ、母上様。気にしない気にしない。ねーちゃんがつっけんどんな分、オレが甘えますから。ママン、抱っこ~。
家の中ではそんなもんだな。では、外用だ。
まあ、外用と言っても熱石をバラマキ雪を溶かし、ゴブリン用の誘い石を狼用にして一丸たちに散ってもらう。
あとは、ねーちゃんによる残虐劇の開演である。
七頭くらいの群れをぶっ殺すと、五日くらいでまた新しい群れが現れるのだ。
……さすが異世界。怖いわ~……。
なんて怖がるだけ無駄。あるがままを受け入れて今日を生きましょう、だ。
「オレの野望も日々溜め込まれてる。命に感謝です」
野望の穴に放り込まれる狼さんに感謝の合掌。賛美の合唱もしてやりたいが、知らんのでラララ~とだけ歌っておきます。
去年の冬は耐えるだけの苦痛な日々だったが、余裕ある冬は楽しいもんだ。雪だるま、作っちゃう?
まあ、四歳児なので雪玉作るのが精一杯だが、これはこれで楽しいもの。童心に……って、身の丈に合ったことしてますね。失礼。
「……なにが楽しいのよ……」
ねーちゃんは呆れ顔ですが、オレは破顔で雪の中をかき分けてます。チョー楽しィ~!
まあ、長い冬。雪遊びもほどほどにして、野望の穴に雪を入れますか。
「穴に雪なんて入れてどうすんの?」
「夏の暑いときに出そうと思って」
前世ほど暑くはないが、「なにもしたくね~」と思うくらいには暑くなる。来年の夏は涼やかに暮らすぜ。
「……変な子……」
ゴブリンや狼をぶっ殺してるお姉様も変ですからね。まあ、変にしたのはオレなんだけどね!
「今日は狼来るかな?」
「ちょっと無理じゃない?」
ぶっ殺したの三日前だしね、早ければ明日には来るでしょ。
「ねーちゃん。見てても来ないんだから雪入れるの手伝ってよ。雪かきもいい運動になるんだからさ」
四歳児では大して雪かきできないんだよ。その鍛えた体をより鍛えるために雪かきしなさい。ほれほれ。
「わかったよ」
いっぱい入れてよ。将来のためにね。
えっちらほっちらスコップもどきで雪を放り込んでいると、三丸が飛んで来た。どうした?
「白い生き物、いる」
白い生き物? イエティでも出たか?
「ねーちゃん。なんか出たみたい。わかる?」
五感の感覚も人間離れしてきたねーちゃん。索敵センサーを発動だ!
「あっちにいるね。なんだろう? 気配が小さいな?」
四歳児の背丈では雪しか見えないし、まだ人なので気配も感じない。ちょっと捕まえて来てよ。生きたまま、だからね。
で、頭がちょっと陥没したウサギ? を捕まえて来た。
「生きてる」
「辛うじてね」
まあ、生きてるからいいか。お前さんは誰だい? と手のひらの創造魔法で、中型犬くらいのウサギに触って鑑定する。
「雪ウサギ。冬になると現れる魔物で人を襲う。肉は旨い、か」
細かい鑑定は魔力を食うので、名前と習性、食えるか食えないかさえわかればいいのだ。
「リン! こいつ食えるのか!?」
「食えるし、旨いって」
こんな美味しい魔物がいるなんて。去年の冬は気がつかなかったぜ。
「肉! 肉だ肉! 肉だー!」
七歳児(ねーちゃんも一歳増やします)とは思えない雄叫びである。
「リン! もっといる?」
「三丸。四丸と一緒に探して来てくれ」
二羽に探してもらう。
「ねーちゃん。まずはこいつを食べようよ。塩で焼いたら美味しいよ」
あ、今日はまだ魔力を使い切ってないからコショウを出しちゃいますか。
「そうだな! デカいからいっぱい食えるな!」
「もう肉は食いたくないってくらい食えるよ」
猟師のおっちゃんも冬は狩りができず、大きな町に出稼ぎに出てるから、もう一月は肉を食ってない。
堅いパンやイモ、豆は飽きた。肉でこの冬を乗り越えるぜ!
「ねーちゃん。腿んとこ切って」
「血抜きしないとダメだろう」
獣を解体できる七歳児。だが、手のひらの創造魔法を持っている四歳児がいる。いい感じにしちゃいますよ~。
「腿はリンが焼くからねーちゃんは残りを解体しちゃって。毛や骨は穴に入れておいてね」
「わかったよ」
切ってくれた腿を担いで家へ戻る。
さあ、今日はごちそうだ!
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