第5話 客(カモ)
ゴブリン狩りは順調だった。
一日三匹は釣ることができ、すぐには殺さず、嬲りに嬲ってから殺している。
ただ、嬲りに嬲ると新鮮さが失われるようで、オレの野望はトントンと言ったところだ。
まあ、それでも確実に蓄積されているのだから不満はない。百円貯金してるみたいで楽しいくらいだ。
……貧乏性なやっちゃ、とか言っちゃイヤよ……。
ねーちゃんが楽しくゴブリンを嬲ってる間、オレは楽しく農作業。早く芽が出ろ伸びろよ実が成れよ~。
ちょっと余裕ができ、日々ルンルン気分で農作業してたら一丸がやって来た。カモか?
「男が一人、来る。武器は杖。レベルは高そう」
オレの魔力も日々成長しているので、従魔の知能も高まり、相手を観察する能力も身について来たのだ。
……鑑定とかも能力追加しておくか……。
「五丸。ねーちゃん呼んで来てくれ。客だって」
まだ客かは分からないが、ねーちゃんの虐殺はまだ知られたくない。迫害されたり怖がられたり、活動に支障があることは避けておいたほうがいい。今の内は、な。
畑から家の前へと移り、遠くに見える男を観察する。
スキル、千里眼!
なんてものはありません。びっくりした?
とか、一人遊びが痛いくらいになる今日この頃。もっと人がいるところに移らないとコミュ症になりそうだわ。
「リン。客か?」
「まだわかんない。一丸の報告だと外のもんみたい。結構強そう」
「不意打ちでもダメな感じ?」
ねーちゃんもオレとしかしゃべってないから変な言葉使いになってしまうのだ。
……マジーな。このままだとねーちゃんもコミュ症になりそうだわ……。
「無理っぽい」
「なんで?」
「体格がいい上に姿勢もいい。歩く速度も一定だし、杖も実戦用だ。つーか、杖ってよりメイスだよ」
「メイスって?」
「殴るための武器だよ。オークでもひき肉にしそう」
まあ、この世界のオークがどんなもんか知らんが、前世の熊なら一撃で頭をカチ割れそうだぜ……。
「どうするの?」
「客じゃなかったら作戦Cでいく。覚えてる?」
中二くさいがそこは笑って流してくださると助かります。
「わかってる。酒だろう」
この姉にしては上出来。あとは演技力……は求めません。最初から諦めて、普段のねーちゃんが出るよう作戦を考えてます。
やって来たのは、見た目僧侶系。肉体は戦士系と言う、職種はっきりしろや! と叫びたいくらいの男だった。
「この家の子どもか?」
見た目はアレだが、しゃべってもアレだった。オレやねーちゃんが普通だったら確実に漏らしていただろう。メッチャ怖いわ。
「そうだよ! なんか用かい?」
ねーちゃんも怖いだろうが、弱味を見せたら負け、みたいな? 中二の不良の心理で強がってみせた。
……ねーちゃんの性格を考えての作戦とは言え、もうちょっと冷静さを身につけさせんとならんな……。
ねーちゃんの後ろに隠れながら男を不躾に無遠慮に、子どもの性質を利用して男を観察する。
「母親はどこだ?」
威圧するように問うて来る。
子どもと思って侮っているな。だが、フェイクの可能性もあるので油断はできん。
「かーちゃんなら町だよ。客かい?」
交渉役はねーちゃんだ。さすがに三歳児では怪しまれるからな。
「ああ。いい女だって話だからな」
下卑た笑いをする男。それに嫌悪して怒ろうとするねーちゃん。それを押さえる三歳児。まったくこの世はクソである。
だが、文句を言ったところで世界はこともなし。世界はオレたちのためにある。と考えたほうが生産的である。
「帰るまで待つなら風呂に入りな」
「風呂? こんなとこにそんな大したもんがあるのか?」
「客が作った。あんた、魔力はあるか?」
不躾に無遠慮に。妙に世間慣れしてないほうが相手を誤魔化せるし、警戒もされないものだ。
「あるが、それがなんだってんだ?」
「リン。取っておいで」
隠れてるオレを引き剥がし、いけとばかりにケツを蹴る。
勢いでコケるが、それも演出。ヨタヨタと立ち上がり、家に入る。
「酷いねーちゃんだ」
男の茶化しにねーちゃんがフンと鼻をならす音を聞きながらオレの拳大の石を持って戻り、ねーちゃんに渡す。
渡したらすぐにねーちゃんの背後に移動。また不躾に無遠慮に男を見る。
「それに魔力を込めて水に入れるとお湯になる」
ポイと石を男に投げた。
「……ほーん。そんなもんがあるんだ……」
キャッチした石を掲げ、不思議そうに見ている。
「リン。水溜めるよ」
コクンと頷き、ねーちゃんと一緒に水汲みを開始する。
「風呂ね~。酔狂な客がいたもんだ」
すまん。酔狂はオレだ。風呂なしの人生は辛いんでな、食事を我慢して作ったんだよ。製作日数八十二日。苦難の道程だったぜ……。
ただまあ、綺麗すぎると変な勘繰りを受けるので、入るのは夜。小さな光の下で入ってるけどね。
今はねーちゃんもオレも汗まみれ土まみれで綺麗ではないから問題なしです。
よっこらしょえっちらほと川と湯船を何度も往復して満杯にする。普段はねーちゃんの魔法でいっぱいにしてます。
「石を水に入れて」
ねーちゃんの言葉に男は不思議そうな顔しながら石を湯船に放り投げた。
ジュワジュワと水が温まり、一分もしないで四十度(たぶん)になった。
「体洗って入って。金もらえればエールを買って来る。冷やすと美味いってさ」
「冷えたエール? 魔法具か?」
「知らない。そいつは冷やして飲んでた」
夏は暑いから冷やす石も作ったのです。
「なら、頼む」
銅貨五枚入りました~。
「風呂、入って。その間に買って来る」
ねーちゃんと二人、町のほうへと向かった。
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