第2話 異世界革命
「──三歳から始める異世界革命じゃー!」
決意を声に出して叫んだ。
「リン!? どうした?!」
おっとイカン。あまりの鬱屈に叫んでしまったが、隣にねーちゃんがいることを忘れてたわ。
ちなみにオレたちは裏の山に入って山菜採取してます。人はパンだけでは生きられないからだ。あ、リンってオレのことね。よろしく。
「モ、モグラがいたからびっくりしたの」
ナナリねーちゃんはたぶん六歳。日付とかわからんし、誕生日なんてもんもないから、年を越えた数で把握してんだよ。
「静かにしろよ。猟師のおじちゃんがこの辺にも狼が出るって言ってたんだから」
六歳にしてはしっかりしたねーちゃんだが、情報難民なお陰で知識が足りてない。静かにしても嗅覚が鋭い狼には臭いでバレるわ。
「ごめん。静かにする」
オレも三歳とは思えないしっかりしたしゃべりだが、オレがしゃべるのはねーちゃんとかーちゃんの前だけ。他とはしゃべらないのだから問題はねーさ。
「しっかり探すんだぞ。もうパンはないんだから」
「うん、わかった」
そうだな。今は異世界革命より今夜のメシだ。春先の山菜は幼児舌にも優しいんだよ。
三歳児が山菜採りとかダジャレかよ! とは思ったが、わかってくれる者もいないので黙々と山菜採りに精を出す。
「……あんまりないな……」
がっかりするねーちゃん。
そりゃ二時間も探し回ってカゴ半分も集まらないんじゃがっかりもする。くたびれ儲けもいいところだわ。
「リン。またイモ出せる?」
ねーちゃんが期待のこもった目を向けて来る。
オレが魔法を使えることは二歳のときに教えてある。もちろん、手のひらの創造魔法とは言ってない。無知な五歳児に説明したところで理解できないからな。ただ、芋を出せる魔法としか言ってない。
それで信じられるの? と思うのはごもっとも。だが、この世界には魔法があり、誰しも魔力は持っている。火種ていどの魔法ならねーちゃんにも出せるくらいに常識なのだ。
そんな情報難民で幼女なねーちゃんに疑うと言う考えはない。魔法が使えることよりイモを出したことに喜んだよ。
「一個なら出せるよ」
ウソである。
これでも前世の記憶を継いで生まれたのだ、魔力を高めることをしないワケがないだろう。無意味な人生は前世で卒業したわ。
今のオレならイモくらい十個は出せる。だが、この不衛生で魔物がいる環境で全魔力を食だけに注ぎ込むことは死を意味する。
魔力の五割は魔物除けの魔法を石に込めることに使い、三割を衛生に。一割は魔力貯蓄。残りをイモに使っているのだ。
そのイモもただのイモとして創造しているワケじゃない。栄養バランスを考えて創造してるのだ。
「……一個か。あたしもイモを出せる魔法が欲しかったな……」
ねーちゃんが使える魔法は水と風。火は少々だ。
勘のよい方ならお気づきだろう。貧乏な家に生まれ、六歳の身で水と風の魔法を使う状況などあるワケがない。
そう。ねーちゃんの属性をいち早く見抜き、使えるように導いて来たのだよ。
と言っても比べる対象がないからどれだけのものかはわからんが、水は二リットル出せて、風で枝を切れるくらいだ。
もちろん、使い方もこうしたらいいんじゃない? と誘導して結構な使い方ができてます。主に家事方面でな。
「イモよりねーちゃんの魔法のほうがいいよ。いろんな仕事に役立つし」
三歳の幼女が言うことじゃないが、閉ざされた環境では疑うことはない。まあなんだ、ちょっと洗脳っぽいのはご愛敬☆ ってことで許してチョンマゲ~。
「……そうだな。冒険者はいろんな仕事をしないとならないしな……」
異世界転生のテンプレ。冒険者。かーちゃんからの情報しかないからわからんが、隊商の護衛をするくらいには需要があり、英雄にもなれることもあるそうだ。
それを聞いたねーちゃんは冒険者に憧れ、こんなクソったれな状況から抜け出したいようだ。
まあ、それはしょうがないだろう。母親のアハーンとかウフーンとか聞かされる状況で精神が健やかに育つワケがない。現実逃避に似た夢を見なきゃやってられんだろうよ。前世の記憶があるオレですら辟易してんだからな。
「うん。魔法が使える冒険者は稼ぎがイイって言うしね」
すまんな、姉よ。前世の記憶があろうと三歳児にできることは少ないのだ。サポートするから今を頑張って生きてくれ。今日のイモには魔力上昇する効果をつけるからよ。
「いっぱい魔法を覚えていっぱい仕事をして、こんな町から出ていくんだ!」
それはオレたちを置いていくと同義だが、その頃にはオレも育っている。だからそれまではオレを守ってね。下地はオレが整えてやるかよ。
「ねーちゃんならできるよ! 天才だもん!」
オレは褒めて伸ばす三歳児。異世界革命のためなら外道にもなれる幼女なのだ!
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