第9話 S女的なカノジョ
隣近所で彼女で幼馴染で、とにかく渚沢は俺のことが好きらしい。
毎日どこかで会えるよなどと挨拶に来たものの、外でバッタリと会うことが無くなった。
それは学校でも同じで、教室こそ一緒で顔も合わせるのに声すらかけて来ない。
これはもしや、属性が変わったという奴なのか。
「う~んう~ん……何でだ、どうしてだ」
「よぉ、野柴! 渚沢に苦戦中か?」
「何だ、椎名か。何かアドバイスでもあったら教えてくれ」
「なるようになるさ! 以上」
「――っだ、それ……」
「ま、それが狙いだしな。ガンバレ」
久々に声をかけて来たと思っていたら、全く役に立たない助言だった。
同じ教室にいるのに声すらかけられない雰囲気というかオーラが、今の渚沢にはある。
いくら好かれていると分かっていても俺から声なんて気軽にかけられるものでもなく、気付けば体育の時間が来ていた。
体育館でバレーボール……ということで、何故か渚沢とネットを張ったりする係にされる。
そうなると、いくら何でも会話くらいするはず……という妙な期待が膨らんだ。
「そっち、持ってもらえる?」
「え、あ……ご、ごめん」
「女子一人で持たすつもり?」
「いや、俺が持つから。だから君は――」
「……誰が?」
「君はネットを……その」
「君って誰のこと? わたしは君じゃないんだけど」
な、何事なんだ……これは。
もしやこの属性は、怖い系だったりするのか。
「渚沢のこと……だけど」
「遠いね、本当に。下の名前で呼ばないとか、ムカつくよ」
「こ、心がネットを持って来てくれるとありがたいなぁ……と」
「へぇ……心って呼べるんだ?」
「そ、そりゃあ、彼女なわけだし……」
「心って呼ぶことが出来て満足した? しただろ?」
ドSとまでは行かないけど、そっちに変わっていたようだな。
これも一種の試されなんだろうか。
「してる。してます」
「あっそ。早く支柱立てる! 急ぐ!」
「そ、そうする」
「見とれてボーっとしてたろ?」
「してました」
「ふーん……? イキたいか?」
「ど、どうだろうね」
中々難しい子ということは、何となく理解出来た。
Sの中に見え隠れしている好きを隠し切れない部分は、何となく嬉しく思えてしまう。
これも一種の調教なのだろうか。
言葉の意味もはっきり言ってよく分かっていないけど、多分結局好きってことなんだろうな。
「――よそ見してたら危ないんだけど?」
「うっ……くっ」
「ふふっ、情けない。相変わらず弱っちいよね、せいくんは。男の子のくせにさ!」
これはSを出しつつ、解けて来たかな。
体育を終えたら、属性が変わってくれることを祈ろう。
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