第8話 隣近所的なカノジョ
『ごめんください』
とある日の朝、俺が寝ている間に誰かが挨拶に来ていたらしい。
これに対応したのはもちろん姉の萌だったわけだが、玄関先で何やら口論となっている。
元々喧嘩っ早い姉ではあるが、朝から訪ねて来た誰かと揉めるなんて何事なのだろう。
そう思いつつも、眠いので様子を見に行くことはしない。それでも聞こえて来る声だけは、耳を塞ぐことはままならないわけで。
「は、はぁ……? アレのどこが良くて来てんのか知らないけど、つきまとってんの?」
「違いますよ? 隣近所に越して来ただけで、偶然なんです。せいくんの為に越して来たと思われても、そうと言い切れません。本当ですよ?」
「うっざ……。そんなことはどうでもいいけど、挨拶ついでにダメ弟を迎えに来たんだろ?」
「あはっ、嫌ですね~よくお分かりじゃないですか~!」
「ふぅん……? 既成事実を作って、そのまま押しかけるつもりだな?」
「そうとも言い切れませんけどね~、あはっ!」
何やら穏やかじゃない。玄関先で殴り合いに発展してもおかしくないぞ。
そういう意味で、布団の中にいて良かった。
そう思っていたのに、
『バカ弟!! 聞こえてんだろっ! さっさと顔を見せな!!」
うわ、バレてた……。
隣近所に越してきて挨拶して来た可能性のある人物は、カノジョしかいない。
――というより、幼馴染カノジョとして挨拶しに来ているし……。
「ど、どうも……お待たせしま――」
「やっ! せいくん、相変わらずお寝坊さんだよねっ」
「渚沢、えっと……? 朝から何事かな?」
「何事でもないよ? 聞こえていた通りだけど、隣近所に越して来ました! そんなわけで、ご挨拶なんだよ。どう? 嬉しいでしょ!」
「う、うれ……うっ!?」
その場に残っている姉の般若顔が間近すぎて、笑顔になりきれない。
聞こえていた口喧嘩は一部だったのかも。
どれだけ合わないのか、腕組みをしている姉の腕から血管見えてる件。
怒りで我を忘れそうで怖い。
「うんうん、嬉しいよね~! そういうわけなので、これから毎日どこかで出会える確率が上がると思うんだよ。楽しみだねっ!」
「た、楽しみだなぁ~は、はは……」
「それじゃ、今日は帰ります! またね、せいくん!」
「ま、また~」
何だったんだ……、本当に隣近所に越して来たのか。
幼馴染の方が違和感は無いはずなのに、隣近所だとすると恐怖感が増しそうなんだけど。
「せい、塩を撒け!!」
「塩?」
「早くしな!! それ撒いたら掃除! せいのカノジョだか何だか知らないけど、女のせいだからな! バーカバーカ!!」
萌の怒りはいつになく頂点に立っている。
それにしても隣近所か……。一体どこの近所なのやら。
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