第7話 幼なじみ的なカノジョ ③

 幼なじみの定義がよく分からないまま、手を引かれながら学食に来てしまった。


 渚沢”被害”に遭っていると思しき連中が、バレバレな気配を出しながら俺と彼女の近くに居座り、一言一句逃すまいと、全力で耳を傾けているようだ。


 そんな中、手作りでも何でもない定食がテーブルに並んでいて、渚沢は両手を揃えて可愛らしく『頂きます』をしている。


「せいくん、どうしたの? 食べないの?」

「うぅ……落ち着かない」

「――あぁ! そっか、そか。せいくんはアレをお望みなんだ? 確かにアレはその辺にいる適当男子が一番に望んだ行為だけど、実際にやったことはないんだよね」

「な、何が?」

「うんうん! 無駄ギャラリーが集まっている状況で、確かに大ダメージになるだろうし、効果は抜群! かもね」


 ただでさえ視線の集中砲火で冷や汗を流しまくりなのに、彼女のように落ち着いて箸と茶碗を持ってご飯を食べるのは、難易度が高すぎる。


 そんな俺を尻目に、渚沢は嬉しそうに何度も頷いていて動くに動けない。


「せいくん!」

「え?」

「えいっ!!」

「――もがっ!?」

「おー! 成功だねっ! 口の中に突入したよ」


 突入したんじゃなくて突っ込まれただけなんだけど……というか、何かの野菜の塊が口中に入った。


「ど? 美味しい?」

「おいひいれす……んぐぅ」

「もっとして欲しい?」

「や、やめっ――んごぁっ!?」

「次は大根でしたー! 美味しい?」

「もぎゅっ……んぎょっ」


 どうやら渚沢は幼なじみ的イベントの一つである、『あ~ん』なるものを実行しているようだが、実は未経験だったのか強制的に俺の口の中に、野菜を放り込んでいるだけだ。


 それを目の当たりにしている野次馬連中からは、口々に『ないわ~』や『あいつも違うかも』などと聞こえていて、近くの席から次々と立ち去って行く音が聞こえている。


 ただのやっかみだと思うが、彼ら的渚沢の本命認定から外されたとなれば、気持ち的に楽になれそうだ。


「……くん、せいくん! わたしをほったらかして、どこの誰を見つめているのかな?」

「ど、どこも見てないよ」

「嘘だ~! 絶対誰かを見つめてたよ! どこを見てたのか、言え~!!」


 ここは嘘でも渚沢と言っておかないと、色々怖い。


「こ、心のことを見つめてた」

「わたしのどこを?」

「そ、その辺りを……」


 見ていたのは周りのテーブルとかイスだったので、渚沢の座っているイスを指した。


「それは駄目なんだよ、せいくん」

「へ?」

「あれでしょ? 膝の上で『あ~ん』して欲しいって、そういうことだよね。いくらわたしでも、それは無理なんだよ。だってまだ始まったばかりなんだよ? せいくんが他の男子よりも欲が強いのは理解しているんだよ? だけど、それは待って欲しいなぁ」

「いっ、いや……そうじゃな――」

「まぁでもさ、しばらく変わるつもりは無いんだから、辛抱強く待つことも大事だと思うんだ! それでいい?」

「はい……それでイイデス」

「うんうん! いい子いい子!! それじゃ、わたし行くね! ゆっくり食べてていいからね。バイバイ!」


 全くもってよく分からない。

 勘違いされまくっている挙句、渚沢の俺への気持ちが強いのか弱いのか……。


 ”好き”って、何なんだよ。

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