第6話 幼なじみ的なカノジョ ②

「じゃっ、行こ?」

「い、いきなり腕組みは……」

「幼なじみを舐めんなよぉ? 恥ずかしいだとか、人目が気になるとか、そういうのどうでもよくなるんだかんね?」

「は、はぁ……そうですか」


 昨日まで小悪魔を演じていたカノジョ、渚沢なぎさわこころはどういうわけか、今日から俺の幼なじみとなっていた。


 モブから始まって現在は幼なじみ。

 ”好き”を理解させるためにしては、焦りを感じているような展開の早さだ。


 それはともかく、予想以上に人の目がチラチラと突き刺さる。

 

 それも、

『はぁっ!? 何であの野郎が渚沢と登校なんだぁ!?』だとか、『あいつもヤラれるのか、可哀想にな』などなど、嫉みと同情の言葉が聞こえるように投げられている。


 そのほとんどが先輩と見られる男子で、女子たちは何も気にしていない。


「いっ……痛ぅっ!? え、え?」

「せい君は何にも気にしちゃ駄目なんだからね? というか、全部でたらめなんだよ?」 

「い、いやっ……で、でも」

「幼なじみにはつきものなことなんだから、君が気にすることじゃないし!」


 その割には手の甲をつねって来たし、無意識なのか癖なのか、カノジョは自分の爪を噛んで気を紛らわしている様にも見える。


 大胆な行動を取って来ている割には、実はかなり不安で憶病なのかも。


 教室に入った所で、

「よしっ! それじゃあ、せい君。またお昼休みにね!」


 てっきりべったりとクラスの連中に見せびらかすかと思えば、教室に足を踏み入れた時点ですぐに離れた。

 小悪魔はすでに過ぎ去って今は幼なじみのはずなのに、カノジョ的にはまだ抜け切れていない可能性が高い。


「おっす、野柴! 今日から何に変わってた?」

「うん? 変わって? 何が?」

「もちろん、渚沢な。そんで、人格……いや、属性はどれになった?」

「よく分からないけど、”幼なじみ”で迎えに来た……」

「予想より早いな。てことは、長期戦を覚悟してるのかもな!」

「……さっきから何を言って――」

「モブから始まっただろ? 渚沢心と!」

「ま、まぁ」

「他の男連中は、初め小悪魔だったらしいけど、そこから次々と属性が変わって最終的に幼なじみだったらしいぞ! まぁ、野柴と違って他連中はヤリ目だったから一概に言えないけど……」


 段階があるのも初耳だし、やはり隠れビッチなのか。

 いや、でも……カノジョはそうじゃないって言ってるし、一体どうなっているんだろう。


「で、でも、カノジョは、その……」

「あー……まぁ、男が群がってたのは事実な。だけど、そこまでたどり着かなかった。いや、着けた奴はいないらしい。んで、野柴への告りがモブからだったのも意外だったってわけだ」


 名前も顔も、存在感すらも感じさせないモブから始めたカノジョ。

 それが何で俺に……。


「そ、そうなんだ」

「ま、ガンバレ」


 小悪魔が長期戦だったら、とてもじゃないけど嫌いになる率が高かった。


 そこから幼なじみが始まって、しかも長期戦なのだとしたら、”好き”が何なのか少しは理解出来るようになるのかもしれない。


『せい君、お弁当食べよ?』

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