第5話 幼なじみ的なカノジョ ①

「こら、起きろ! いつまでも寝ていいと許可してないぞ!」

「う~ん……あと五分……」

「五分……? 五秒な! 五、四、三、二……スゥゥー……」

「うう~ん……むにゃ」


『いつまで寝てんだぁぁ!! さっさと起きろぉぉぉ、せぇぇぇい!!』


 な、何事が起きたんだ。

 

 気持ちよく眠っていた所に突然の大声とは穏やかじゃない。

 そう思ったら頭に来たので、羽毛布団をソイツに向けて蹴飛ばしてやった。


「わぷっ!? て、てめぇぇ……お返しだぁっ!!」

「のわぁっ!?」

「バ、バカじゃないの? こういうやり取りは迎えに来ている彼女にやれっての! あたしにそんなことをさせるな!! 早く起きな、せい!」

「んなっ!? も、萌?」

「早くしろ、大馬鹿!」


 朝、いつも起こしに来た試しの無い姉のもえが、どういうわけか起こしに来ている。

 しかも羽毛布団の蹴り合いとか、そこまでやるのか。


 一見すると幼なじみイベントかのように一瞬思えたのに、萌自身はそれをあっさりと否定。

 それとなく拒んだのは、何となく残念に思えた。


 しかし珍しいこともあるものだ。

 ここは素直に起きて、真相を聞いてみなければ。


「んじゃ、着替えるから!」

「あたしがいるのに?」

「だって姉だし、身内だろ? 何を今さら恥ずかしがってんの?」

「ぶっ飛ばすぞ、こんにゃろー!」

「……で、何で今日に限って起こしに来たの?」

「せいの自称彼女ってのが迎えに来てるんだ! さすがに自称の子を入れて起こさせるのはどうかと思ったから、あたしが代わりに起こしに……ムカつくっ!」

「はっ? 自称彼女が何だって?」

「いいから早く着替えて、メシ食って早く玄関に向かえーっ! バーカバーカ!!」


 そんなことを言いながら、姉は部屋を勢いよく出て行ってしまった。

 自称彼女が俺を迎えに来たとか、まさかと思うがあの子だったりしないよな。


『おっはよっ! せいくんっ!』

 まさかだった。あれだけ小悪魔を演じていた彼女が、何で今日は自称彼女になっているのか。


「こ、心がどうして俺を迎えに? というか、自称彼女って……」

「まぁまぁ、細かいことは気にしない、気にしないっ! それとぉ、自称彼女じゃないんだよ、せいくん」

「じゃあ何と?」

「今日からせいくんの幼なじみなカノジョとして、毎朝迎えに来てあげる! だからぁ、お姉さんにそう伝えておいてくれないかなぁ? そしたら、毎朝可愛い幼なじみがせいくんを起こして上げるんだよっ!」


 コロコロとよく変わるな。

 モブから始めといて、幼なじみって随分と早い気がする。


 まだ『好き』がよく分からないのに、この子は本当に俺のことをどう思っているんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る