第4話 小悪魔的なカノジョ 後編
「あ~……マジで分かんねえ」
何とか名前を聞き出せた……というより、授業開始ギリで言い放ってくれただけで、上手く翻弄されてる気がしてならない。
休み時間に入ったところで、何度も目を
名前を聞くだけで何でこんなに悩んでいるんだよ、俺は。
「やられちまったか、野柴」
「椎名か。あの子、渚沢と同じクラスだったんだよな? あの子のアレが本性ってやつか?」
「
「わがまま? いや、小悪魔だろ?」
「同じだろ。てか、名前を聞き出せたのかよ。とりま、進んだな」
「進んだ? すでに告られてるんだから戻った、の間違いだろ」
2年の教室に入った俺の初めてのイベントは、名前も顔も覚えられないモブ女子からの告白劇。
そこから数日が経って、家の近くで命を助けられ……その彼女が告白して来た彼女であり、俺のことが好きで付き合いたくて……の、女子のはずだったわけで。
そしていざ近付いて話しかけてみれば、全く別人と思っても仕方が無い程の小悪魔的女子だった。
「そうは思えないんだが……」
「なら、昼休みにでも誘ってみ? 進んでることが分かるし、周りも驚く」
「まだ数日だぞ? 女子を昼に誘うとか……」
「渚沢のことが好きなら誘えるだろ」
「好きとか、よく分からんし……可愛いってのは分かるけど」
「ま、ガンバレ」
名前を聞けただけの俺が彼女を好きだとか、そもそも好きって何だって話になる。
ただ相手は俺のことが好きらしいし、小悪魔ながらも下の名前で呼んでくれる辺りは、可愛いとさえ思えて来るが。
授業が終わり、昼休みを知らせるチャイムが鳴ると同時に、真っ先に渚沢の席へ向かうことにした。
声をかけようとする俺に気付いていないのか分からないが、朝の時には見せなかった笑顔を見せている彼女にドキッとした。笑顔を見せているのは、前の席にいる友達らしき女子だ。
「こころ、カレ、来てるよ?」
「……うん、知ってる」
――などとすぐ近くにいる俺を見ないで、女子友と相槌を打っている。
これでは声をかけるにかけられない。
告られているのに、何でこんなにも緊張を走らせているのか。
「あ、あのさ、渚沢さん……昼――」
「せいくん、行こ?」
「えっ!? あ……」
声をかけた俺に対し、渚沢は主導権を握ったかのようにして、席から立ち上がってすぐに廊下に飛び出した。
席に残っている女子友は、無言の圧力で『廊下に行ったら?』などと、視線を送って俺を促している。
「あ、えーと、どこに行くのか聞いても?」
「決めてないんだ? せいくんがリードしてくれるって思って、期待してたんだよ?」
「え、俺?」
「うん。違うの……?」
「うっ……うぅ……」
自分から積極的に誘っといて廊下に飛び出したのに、いざ俺が廊下に出たらそういうことを言うのか。
しかも廊下の壁に寄りかかりながら、上目遣いで聞いて来るとか、小悪魔スキルが高すぎだろ!
「うんうん、なるほど~! せいくんは、リードされたいタイプなんだね!」
「ま、まだ何も言って……」
「おっけ! ほらほら、今日はわたしが驕ったげる! 時間消えるし、行こ」
そんなわけには行かないよ……と声が出かかったがやめた。
小悪魔的女子に遠慮とか、微妙な返事をすれば途端に牙をむきかねない。
「そ、それでいいなら」
コロコロと変わる表情ならぬ、性格なカノジョ。
それにしたってこの時間の彼女は隙を作り過ぎだと思うんだが、何にしても俺に対して、素直に従わせる魅力があるってことなのかもしれない。
「……うんうん、そうなんだぁ~」
「ま、まぁ。だから分かってない状態っていうか……」
「せいくんにとっては、初めてだもんね! でもわたしも初めてだよ? こんな気持ちになるの」
「そ、そうなの? え、あれ、だって……んん?」
去年同じクラスだったという椎名によると、渚沢はかなりの男子に言い寄られた挙句、見事に撃墜する小悪魔女子代表として有名と聞いている。
他に小悪魔女子がどれほどいるのかは不明だが、どうやら渚沢も俺と同様に、好きという言葉の意味を深く考えることなく告白して来たのだとか。
「どうかしたの? わたしの顔に何か付いているのかな?」
「い、いや」
「……授業中もずっと見てたよね? ずーっと」
「そっ……なわけが無いだろ。席離れてるし、よそ見してる余裕なんて……」
「もしかして、何かエロいことでも考えながら見つめてた系?」
「何でそうなるん――」
「華奢でくびれのある腰に、もう一度触れられたら最高なのにな……。それがせいくんの心の声!」
「――なっあ……!?」
やっぱり今朝のことを根に持っていたのかよ。
だから小悪魔女子として俺にこんな態度を取っているのだとしたら、コイツはくせ者だ。
「ふふっ、誰にも見せたくない独り占めの席に案内したのも、それが狙いかな?」
渚沢が言うように、俺と彼女が座っている場所は、学食の中でもひっそり感が半端ない所だ。
別に狙って確保したわけでもなく、変なことをしようと企んだわけでは無い。
「は、恥ずかしいだけで、何もやましいことを考えてたわけじゃない……」
「わたしとこうしていることが恥ずかしいんだ? そうなら悲しいな」
「だ、第一、俺のことが好きって初日に言って来たのに、好きが分からないってどういう――」
「だって、モブだよ? 名無しのモブだったんだよ? その時のわたしは渚沢心じゃなかったの。でも、今はこうしてせいくんとふたりきりで話をすることが出来ている。そういう意味で、初めて好きって言えたの」
モブを自己認識しときながらの告白劇とは、まさかこの子は清楚系ビッチか?
「な、何人もフッて来たってのは?」
「……誰が言っているの?」
「や、それは……」
「大丈夫。せいくんとは、初めてなんだよ」
「な、何が?」
「わたし、処女だから。全て初めてだよ? わたしのカラダに触れたことがある男子は、せいくんが初めてです」
な、何てことを平気で言い放つんだこの子は。
普段はどんなに緊張しても赤面することが無い俺なのに、とんでもないことを聞いてしまったせいか、顔を真っ赤にさせてしまったじゃないか。
「そ、そう……か」
「安心?」
「こ、腰に触れただけなのに、そんな表現はズルいんじゃ……」
「ビッチじゃないからね? わたし、一途なんです。だから……これからどんなわたしを出して来ても、せいくんは変わらずに、疑わずにわたしを見て欲しいかなあ」
「そこまでひどく思ってなくて……だから」
「うん、良く出来ました! せいくん、わたしも初めてを沢山出すから、せいくんもわたしの初めてをいっぱい受け止めてね?」
「初めてをいっぱい……!?」
「そんなわけで、楽しめた? 楽しめたよね?」
「へっ?」
「ずっとずっと顔もカラダも見つめまくりで、調子に乗るなよ? それと、告られた奴が『渚沢さん』とか呼ばないでくれる? 好きじゃなくても距離感じるし、名前か名字呼び捨てで! じゃぁね」
な、何だ……さっきまであんなに可愛くしてたのに、手のひら返しのように態度が変わったぞ。
小悪魔女子かどうかは何とも言えないけど、これからずっとあの子に翻弄されていくのかと思うと、初日のアレからが何かの始まりだったって考えてしまう。
可愛いけど、好きになれるのか?
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