求人広告の日
~ 七月十四日(火) 求人広告の日 ~
※
安い。あるいは、投げ売りすること。
「…………順調に増えてるな」
本日返却分の、試験の結果は。
補習 2
追試 1
これで、都合。
補習 5
追試 2
「俺が教えた意味」
「ご、ごめんね……」
一夜漬けばっかりだったとは言え。
結構頑張ってたように思えたけど。
実戦経験が少な過ぎるせいか。
赤点を連発するこいつ。
もう、例題ってよりも。
模擬テスト作ってやるか。
あるいは。
自分で作らせると良いのかな?
まあ、対策は早急に練るとして。
今日だけは少々。
羽目を外そうか。
「ラッキーだったな、学校のそばでチラシ配ってて」
「クーポンがついてて、お得……、ね」
連日舞浜が繰り返してた。
念願の場所。
そう、俺たちがいる、ここは駅前。
オープンしたばかりの。
ピザ屋である。
「ど、どれを食べようかな……?」
「食い放題だから、そのメニューから選ぶんじゃねえ。あそこに並んで、焼き上がりの何種類かから選ぶんだ」
今日の授業は午前だけ。
そんな四限目が終わるなり。
俺と舞浜。
パラガスときけ子がピザピザ騒いだせいで。
クラスの連中。
驚くなかれ。
半分が俺たちに付いてきた。
……しかも。
違うクラスの一年もいるせいで。
貸し切りとまでは言わねえが。
店内のほとんどが。
うちの制服で埋め尽くされてる。
「……廊下でもお前らがピザピザ歌ってっからこんなことになる」
「大盛況……。お屋敷建っちゃうね」
「屋敷?」
「シャトー・オブ・ピッツァ」
「傾いてんじゃねえか」
ドリンクバーで淹れて来たオレンジジュースをちびちび飲みながら。
真顔でおもしれえこと言ってやがるが。
「……ランチタイムじゃ大して儲かんねえだろ。しかも学生ばっかじゃなおの事」
「そう、なの?」
「こういうとこのランチはな? 店に何度か足運んでもらって、夜に来やすくするのが目的なんだ」
「じゃあ、大人がターゲット? 夜の方が高いの?」
「そうだ」
コーヒー飲みながら。
飲食店の仕組みを話してやると。
舞浜は、メニューをめくりながら。
変なこと言い出した。
「こ、これでも安いのね……。入場料の他に、こんなに取るのに……」
「ちげえよ。最初に払った分で、食い放題の飲み放題」
「…………え?」
「後は金いらねえんだよ」
「ええええええええええ!?」
ドリンク持って戻って来た。
パラガスときけ子と甲斐。
今のやり取り耳にして。
腹を抱えて大笑い。
「ほんと舞浜ちゃんは、なんにも知らないのねん!」
「う、うん……。驚愕の事実」
「じゃあほら、一緒にピザ貰いに行こ? あたしが教えてあげっから!」
「よろしくお願いします……」
女子二人が席立って。
先に行列に並んで、ピザを受け取るまでの間。
繋ぎって言ったら。
まあ、それなのは分かるけど。
「ほい~。ポテト持って来た~!」
ハッシュドポテト。
こいつは確かに。
並ばねえで持って来れるけどよ。
「なんだその山盛り!? これだけで腹いっぱいんなるわ!」
「前に来た時にな~。焼き上がりに結構時間かかって待たされるから、繋ぎのつもりで食ってみたら超うめえの~」
「確かに、すきっ腹で立って待ってるのはイヤだけど……」
今日も一日立たされたからな。
正直、足が棒。
あの行列は勘弁してえ。
とは言え。
「ピザ、三枚は食いてえとこなんだが……」
「食える食える~!」
「てめえの胃と一緒にすんな」
文句言いながらも。
山から一枚、ハッシュドポテト貰うと。
「……お? 言うだけのことあんな。ほんとにうめえ」
「だろ~? 俺、ここのポテトすげえ好き~」
「いや、ピザ食えよ」
パラガスのやつ、がつがつ食い散らかしてっけど。
芋屋じゃねえぞここ。
「あれ? 甲斐はどこ行った?」
「ピザ取りに行ってるんじゃね~?」
「いや、見当たらねえけど……」
「お前ら! ここの隠れ名物持って来てやったぜ!」
「てめえもか!」
芋の山×2。
甲斐よ。
ふざけんなてめえ。
「お? 長野も持って来てたのか!」
「優太、分かってる~! うめえよな、これ~」
「……お前らはバカなのか?」
このテーブルだけ芋祭り。
見てるだけで腹いっぱいだっての。
呆れる俺を尻目に。
がつがつ芋を食いまくるバカ二人。
もはやこいつら。
ピザ食う気ねえんじゃねえの?
そんなテーブルに。
まさかの事態発生。
「ただいま~! ほい! ここの名物なんだってよん! あたしってば気が利くー!」
「夏……、いや、甲斐」
「謝りはするが、俺のせいにされるのは理不尽だ」
「って、なにこのポテトの山? 見てるだけで気持ち悪ぅ」
「三号機建造したやつが吐くセリフか? ……まあいいか。1ピースっくらいピザ食ったら採掘再開しよう」
げっそりしながら、きけ子が持って来たもう一枚の皿から。
ピザ取ろうとしたら叩かれた。
「何すんだこのやろう!」
「自分で持ってきなさいよ。これはあたしの分」
「おかしいだろ。だったら芋食えよ」
「そんなに食べれないわよ。男子で食べてよ」
なんかおかしい。
だが、この山を残す訳にもいかん。
納得いかねえけどしょうがねえ。
せめて、この棒みてえな足で行列に立たされねえだけマシって思おう。
「千円……、よね?」
ムッとしながら芋にかじりつく俺の隣で。
首捻りながらシーフードピザに齧りついてた舞浜が呟いたんだが。
「まだ食い放題のカルチャーショックから脱出してねえのか」
「だって。千円」
「そうだな。クーポン使って五百円」
「……ピザって、何千円もするのに」
「どういうことだ?」
「メニューでもそうだし、あと、広告で見たから……」
ああ、宅配ピザの広告な。
なるほど、確かに。
「やっぱり大赤字……。
「ならねえから。いくらメインは夜って言っても、それなりちゃんとプラスになるはず」
「経営、傾いちゃう……」
「傾かねえって」
「斜塔・オブ・ピッツァ」
「それはもともと傾いてんだよ!」
ちきしょう、今度のはネタかよ。
舞浜が、またもみんなを笑わせて。
すました顔して、ピザをパクリ。
「……俺は笑ってねえから、負けじゃねえ」
「なんの話?」
「うるせえ。とにかく、ちゃんと儲かるようにできてんだよ。バイトさんだっていっぱいいるだろうが」
「そうね……。バイトしてる人、たくさんいる……、ね」
「そうそう」
「それなら、ここでバイト、してみようかな?」
みんなから。
良いんじゃないとか煽られて。
その気になってる舞浜よ。
……お前は、俺の誘導に引っかかったことに気付いてねえ。
これだけ騒がしい店内で。
一人だけすまし顔してるてめえを。
無様に笑わせてやるぜ!
「……そうか。バイトしたいんなら、良い店紹介してやる」
「え? ……チラシ?」
「求人広告だよ」
俺がポケットから四つ折りにした紙を出すと。
舞浜は、テーブルの上でそれを広げる。
みんなが覗き込む求人広告。
そこに書かれたものは。
冬季限定バイト。
美人店長が経営する。
とっても明るい職場です。
年齢性別経験不問。
面接は一名ずつ行います。
いつでもお気軽にいらしてください!
by 雪女
「あはははははは!」
「くくっ! 長野、お前、行くなよ?」
「ぎゃははははは! 美人店長に騙されそう~!」
大笑いする三人をよそに。
こいつはいつも通り笑わねえどころか。
眉根寄せてやがる。
「…………怖い話?」
「いや、笑えよお前は」
「怖いの、苦手」
ああ、そうなんだ。
そいつは失敗。
このチラシ。
パソコン使って、すげえ凝って作ったのに。
「ホラーは、ダメ。もっと楽しいのを……、ね?」
そんなこと言いながら。
舞浜は自分のポケットから。
この店の、クーポンがついてたチラシ出して。
裏になんか書き始めた。
夏季限定バイト。
ダイビングの免許も取れるお仕事です。
要:ダンス経験
by 乙姫
……こら。
俺のネタぱくって。
俺より笑い取ってんじゃねえ。
「……俺は笑わんぞ。タイやヒラメの仕事が無くなるわ」
ムッとしながら突っ込むと。
舞浜は、ちょっと考えてから。
要:魚
「求人じゃ無くなっとる」
「文句ばっかり……。あと、笑ってくれない」
「笑うか。もともと俺のネタだ」
そこまで言われてムキになったのか。
こいつはさらにペンを走らせる。
業務内容:海水浴客へのピザ宅配
「……ピザかと思って開けたら煙出るわ、その箱」
あぶねえよ。
笑いかけたっての。
今なら面接に来て下さった皆様限定サービスクーポン付き
「次から次へと……。なんのクーポンだよ」
俺が聞く前には、チラシの下に点線入れ始めてた舞浜が。
切り取り枠の中に書いたクーポンは。
¥500 OFF!
シーフードピザ
「うはははははははははははは!!! お前のもホラーじゃねえか!」
「……怖い。私が持って来たシーフードピザ、食べれなくなった」
「バカだな自分のせいだっての! うはははははははははははは!!!」
ちきしょう。
また笑っちまった。
そんな俺への罰だろうか。
俺は、舞浜に海鮮使ってないピザを持って来てやる為に行列に並んで。
ずっと立つことになった。
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