タコの日
~ 七月二日(木) タコの日 ~
※
ちょっぴり憎い
今日はタコの日だから。
昼飯のおかずはタコ三昧。
「楽しみ……」
「だから頑張って勉強しろ」
「が、頑張って勉強する……、ね?」
もはや、狼少年ならぬ狼王。
微笑と共に、思ってもねえことを口にする。
今日も『狼なんか来てないっすよ?』と。
狼王自らの口で俺に宣言した。
……しかし、連日。
勉強する勉強する言いながら。
ここまで勉強しねえとは。
すでに、俺の想定では。
全教科赤点回避に必要な時間。
今から一睡もせずに勉強したって足りねえし。
だから、もう舞浜の勉強用ノート作りは手を抜いて。
今日は、笑いのネタをきっちり仕込んできた。
それが、カバンの中。
タッパーに詰まったタコ弁当。
明石焼き、タコ飯、マリネ、から揚げ、そしてタコ焼き。
……全部。
タコさんウインナーで出来ている。
ウインナーさんタコでも笑わなかったこいつが。
これで爆笑するとは思えねえが。
吹き出すくらいはしてくれるだろう。
「弁当の中身は全部で五品。後で五つ問題出すから、一問正解毎に一品食っていいからな?」
「ぜ、全部食べてみたいから、がんばる……、ね?」
いつもと違って、効率も優先順位も、理解しやすさすら無視したノートを。
いつもと違って、食いもんで釣って覚えさせる。
手抜きそのもの。
そんな課題を。
「……随分嬉しそうに勉強してるな、今日は」
「今日のは楽しく読める……」
おいおい。
その理由、まさか食い意地にあるんじゃねえだろうな。
「ん。全部、覚えた」
「もう!?」
うそだろ?
どうなってんだよお前の頭。
でも、俺の唖然とした顔が。
テストの結果見て。
愕然に取って代わる。
「ぜ、全部正解……」
「よかった……。おかず、ゲット……、ね?」
なんだそりゃ?
じゃあ最初から。
弁当で釣ったら楽勝だったって事?
ここ数日の苦労がバカみてえ。
「じゃあ、後は授業ちゃんと聞いてろ」
「それ、無理。ご褒美無いと、頑張れない……」
そんなこと言いながら。
いつものように工作を始めた舞浜に対して。
腹立たし紛れに。
昨日の、コラージュアプリを起動しようとしてみたが。
「おっと。きけ子にアンインストールされたんだった」
仕方ねえ。
同じのダウンロードしよう。
えっと、昨日はなんて検索したんだっけ。
適当なキーワード入れて。
ダウンロードサイトを眺めてみたら。
「タコアプリ?」
また、随分タイムリーなもん見つけちまった。
写真撮ったら。
タコになるのかな。
物は試しとインストールして。
舞浜をぱしゃり。
さてさて、どんな合成されたのかな……!?
「R15指定っ!!!???」
「ん? ……また、おすもうさん?」
巻き付いとる!
こ、こりゃダメだ、見せられねえ!!!
「貸して、携帯。さすがに怒る……、かも」
「いや、全然ちげえから! ほら、写真も削除したし!」
あぶねえあぶねえ!
まったく、こんなもん誰が作ったんだっての!
製作者の名前見ようとしたんだが。
携帯を取り上げられて確認できず。
「こら、返せ……なくていいです」
昨日に負けず劣らずの怒り顔。
美人が怒るとホント怖え。
「今日も、反撃……」
昨日とは打って変わって。
舞浜は、綿と布でなにやら作り始めたんだが。
「ひでえことしといてなんだが。勉強しろって」
「息抜き……」
この状況で、そう言われりゃ逆らえねえ。
まあ、今の短時間で一気に一教科終わったし。
確かに休憩も必要か。
しかし、ご褒美ちらつかせるとこの集中力。
そんなら次は。
どこかに連れてってやるとでも言えば……。
「できた」
「どえらいもの作りやがったな」
なんだそのぬいぐるみ。
魔法のステッキ持って。
丸い耳にリボン付けてるけど。
「あれか? 魔法少女の隣に浮いてるやつかよ」
それより携帯はどうした。
中に埋め込んであるの?
「ま、魔法少女にへんしーん」
「しねえよ?」
肩に乗せられたけど。
ふざけんなよ。
またスカートはかせる気かよ。
あと、このクマ。
なんかなまぐせえ。
「魔法少女の名前、一緒に考える……」
「考えねえって」
「海を司る魔法少女だから……」
「なにその設定」
だから磯くせえのか。
こだわりすぎだ。
「名前は、ピューブフ・オクトパス・アシハポーン」
「昨日に引き続いてまたそれか。タコ・タコ・タコになってんだよ」
フランス語、英語、日本語。
最後のがフランス語に聞こえるのは引っ掛け問題。
「だって、妖精さん、タコの化身だから……」
「クマにしか見えねえだろ。どこがタコなんだよ」
文句言いながら、磯くせえ妖精を肩から取ると。
そのスカートの中に。
八本の。
ゲソ。
「うはははははははははははは!!!」
「…………おい、保坂」
「だってこれ! タコだっつってんのにまさかの二本足りねえ!」
ちきしょう、毎度毎度!
お前のセンス、想像の斜め上!
「保坂は廊下へ行く前にそれをもって来い。没収だ」
「舞浜博士の作品だし、没収は構わねえけど。この妖精、俺の携帯内蔵してんだ。それだけ外させてくれ」
「連日それか。意味の分からんことをするな」
そして昨日と同様。
教卓まで歩きながら。
妖精の体をまさぐってみたが。
どこにも携帯の感触がねえ。
「あれ? どこにもねえ。ステッキの羽根の中か?」
「なんだ? もたもたしおって」
「そう言うな。なんたって、舞浜博士の発明品だからな……」
「男が魔法のステッキで女に負けてどうする。情けない」
「昨日と違って怒りもわかねえ。負けで結構。……ここか?」
振ってみりゃ、音ぐらいするだろう。
そう思いながら、ステッキを妖精から取り上げると。
『地球がピンチなの! さあ、変身よ!』
「……よくできているではないか」
「俺の声じゃねえか気持ちわりい!!!」
クラス中から響く、おぞ気と笑いがない交ぜになった悲鳴。
そのうち、俺の席に近い連中が。
声を合わせて『ピューブフ・オクトパス・アシハポーン』を呼び始めた。
「せーの、じゃねえ! やめねえか! 魔法少女ショーじゃねえっての!」
ちきしょう、早くとめねえと!
でも、魔法のステッキを分解しようと。
あちこち触ってたら、ギミック起動。
ステッキがキラキラ光って、派手な効果音あげると。
先生の後退しきったおでこにビームを発射した。
『悪のゴリラー星人、成敗! 地球のピンチは、あたしがまも、ザッ、まも、ザザー、あたしがハゲる!』
…………俺は、タコみてえに真っ赤になって。
プルプル震える先生が墨を吐き出す前に。
地の果てまで逃げた。
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